■6日目-4■
「・・・暁音さん?」
星空の下、屋上のフェンスに片手をかけて、シエロがこちらを見ていた。
金色の髪が、月の光を受けて光っていた。
「シエロもいたんだ。」
「うん、さっき任務から帰ってきて。何となくここに来たんだ。
暁音さんはどうしたの?もしかして、眠れないとか?」
「そうそう。そんな感じ。」
暁音は軽く答えた。
シエロには未来の夢を見ていることも、自分が未来から過去へ遡ったことも共有していない。
現状、何も変わらない未来の夢を見るのが嫌で眠りたくない。なんて言えなかった。
いや。未来のこと、夢のことを共有しているユオにも、カルマにも、タルデにもそんな弱音は吐きたくなかった。
弱音を吐いたところでどうにもならない。きっとそれぞれ不器用ながら慰めてくれたり喝を入れてくれたりするだろう。
もしくは何を言って良いか分からず、何も言わずに食べ物を渡してくるかもしれない。
「そうなんだ・・・。大丈夫?何か、心配ごととか?」
シエロは本当に暁音を心配していそうだった。
暁音がすぐに答えないのを見て、シエロが再び口を開いた。
「今日の昼のことだけどさ。暁音さんが、元いた世界について話すのって、珍しいよね。」
「・・・まぁ、そうかも。いや、別に話したくないとかじゃなくて、みんなそんなに興味ないかと思ってて。
でも、結構みんな興味あったんだね。知らなかったな。」
シエロは少し目を細めた。寂しそうな顔にも見えたし、笑顔のようにも見えた。
「・・・暁音さんは、元の世界に帰りたいとか思わないの?」
シエロは暁音をじっと見て言った。昼間と同じ質問だった。
暁音は昼に【手紙が届けられたら良い】と答えていた。あの答えではシエロは納得していなかったのだろうか。
「・・・分からない。」
暁音は正直に答えた。会いたいと思える人はいる。それは確かにそうだ。そうだけれど。
「私は・・・薄情なやつなんだと思う。ここでの暮らしを気に入ってて・・・帰りたいって即答できないのもある・・・」
本当ならきっと、もっと、【元の世界に帰りたい】と悩むのだろう。家族に、友人に会いたいと。
自分はきっとおかしいのだと暁音は思った。・・・なぜ今、シエロに本音を話しているのだろう。
「・・・そっか。」
シエロは特に肯定も否定もしなかった。ただそのまま受け入れていた。
自分に本音を見せてくれた人間がいることを少し嬉しく思っていた。
それが暁音には心地よく感じた。「薄情なんて思わないよ」とか慰められたいわけではなかった。
ただ自分という人間をそのまま「そういう人だ」と、良いとか悪いとか無しに受け取ってくれたことに安堵していた。
シエロならきっとそうだと思って本音が出たのか。それとも今が夜で、ここが屋上で、星が綺麗だから本音を話せたのか。
暁音には分からなかったが、どちらでも良かった。
「シエロって意外に結構、話しやすいのかもね?」
「意外って。ちょっとひどくない?」
シエロは小さく笑っていた。
そして二人でしばらく星を見ていた。
暁音は、シエロに感じていた距離が少しだけ近付いた気がしていた。
ここで、このまま部屋に戻って眠るか。それとも、少しでも未来を変えれる可能性があるなら、一歩踏み込むか。
3日目の夢の内容、【シエロに暁音の声は届かない】が気になっていた。
もちろん、あの未来に辿り着く前に未来を変えたいと思っている。だけど、今変えれるのはそこかもしれない。
暁音は他人の心に踏み込むのが得意ではなかった。何でも軽くしてしまいがちな性格だった。
だけどさっき、シエロは「心配ごとがあるのか」と暁音に聞いた。それなら暁音もシエロに踏み込んでも良いのではないだろうか。
・・・他人の気持ちなんて、一生懸命考えたところで、本人に聞くまで結局正解かは分からない。だったら、踏み込むしかない。
「・・・シエロもさ、眠れないの?何か心配ごととかあるの?」
昨日も悩みがあるのかと聞いた。あの時は、軽く聞いた。今は、暁音なりに、真剣に聞いていた。
それはもちろん【シエロが操られる未来・ユオが死ぬ未来】を変えるためだけど、今ここにいるシエロに本音を話せたこと、そしてそれをそのまま受け取ってもらえたことに対して、何かしたいという真面目な気持ちでもあった。
シエロは星を見ていた。そして、小さな声で言った。
「・・・俺は、時々、夢を叶える自分を見ている気がする。」
「・・・夢?・・・どんな・・・」
夢を叶える夢を見ているということだろうか。暁音はそれは幸せな夢だと思った。
でもシエロは複雑そうな表情をしているように見えた。
シエロは答えなかった。困ったように笑っただけだった。
シエロが返事をしないので、暁音がそのまま話を続けた。
「夢を叶える・・・かぁ。それって、きっと幸せだよね?」
暁音は【元々辿った未来】のシエロを思い出していた。あれは違う。今の話とは関係ない。あれは夢を叶えたシエロではない。・・・だけど。
「・・・夢を叶えても、シエロはシエロのまま。変わらないよね?・・・私、今のシエロと、今日話せて良かったよ。」
シエロが暁音を見ていた。何を考えているのか、その表情からは読み取れなかった。
「・・・シエロはシエロのままでいて欲しい。」
暁音は小さく呟いた。シエロには聞こえたのだろうか。曖昧に笑っていた。
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暁音はシエロと別れ、部屋に戻った。
今日はユオ、タルデ、シエロと街に行って昼食を食べた。夜中に屋上でシエロと星を見ながら話をした。
今日の夢は変わるのだろうか?・・・分からない。
だけど結局、未来の夢から逃げたところで、睡眠不足になるだけだ。
決意してベッドに入り、目を閉じた。
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夢を見た。
外は雪が降っていた。宿舎の談話室にいた。暖炉の前にいた。
暁音の目の前にはシエロがいた。
シエロが口を開いた。
「・・・前に、言ってくれたよね。」
「俺のままでいて欲しい、って。なんか色々、考えてしまって。」
「俺のままって、どういうことだろうって。」
「俺って、結局、魔法使いで2番で。」
シエロが唇を噛んだ。そして言った。
1番になりたい、特別な存在になりたい。何者かになりたい。と。
暁音はシエロを見ていた。シエロの目は青かった。
だが、一瞬、暖炉の火が映ったのか、赤く光って見えた気がした。
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