■5日目-3■
暁音はベンチに座ったまま、タルデが言った言葉について考えていた。
「魔法使いじゃないから逆に話しやすい」
確かにそうかもしれない。
いつもそうだとは限らないが、自分の立場と離れている方が話しやすいことはある。
暁音はシエロと話そうと思った。
シエロが【ちょっと疲れてる】かもしれない理由について。
それが【このままいけば辿り着く未来】と直接関係あるかは分からないが。
シエロをもっと知ることが鍵になるのかもしれないと暁音は考えた。
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シエロと二人で話す。
そう決めたものの、二人で話せる機会がいつあるか分からなかった。
シエロもタルデと同じで夜の任務から帰ってはいるはずだ。
多分今は寝ているだろう。寝てるところに押しかけて行って、いきなり「最近疲れてない?」とか聞くのは流石の暁音にも憚られた。
昼食後にでも部屋を訪ねてみるか。
その頃には起きているかもしれない。
とりあえず方針を決めた。そして特にすることがないので書庫に向かった。
あまり意味がないことは既に分かってはいたが、今ある情報だけで術や呪いで当てはまるものを探してみようと思った。
何もしないでいるのがもどかしかった。
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暁音は書庫で【呪術】の棚を見ていた。
やはり調べるには情報が少なすぎた。
適当に棚を見ていると、以前と並びが変わっている気がした。
綺麗に入り切っていない本もあった。
誰かが【呪術】の棚を調べたのだろう。しかも、いろんな本を。
・・・カルマだろうか。
「今ある情報から術の分析をする」と言っていた。
几帳面な性格だと思っていたから、もしそうだとしたら意外な一面だな。と暁音は思った。
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暁音は昼食後も食堂にいた。パラムとお茶を飲んでいた。
パラムは午前中、ずっとルクスの指示通りに報告書を修正していたらしい。
「前は修正はやってくれてたのに。急に私にさせるようになったの!
しかも、ずっと色々隣で指摘してくるの!」
パラムが唇を尖らせながら文句を言っていた。
「報告書くらい一人で書けなきゃダメだって。立派な大人になれないって。意味がわからないよ。
私、もう100歳なのに!あの子より82歳も歳上なんだから!」
そう愚痴を言うパラムは、どう見ても20歳前後にしか見えなかった。
暁音は朝に聞こえてきたパラムとルクスの会話を思い出していた。
確か、「パラムさん。昨日の報告書、途中からカレーの作り方になってました。」とかルクスが言っていた。
「・・・まぁ100歳は大人だよね。」
【立派な】かどうかは分からなかった。暁音はそこについては言及しないことにした。
「だよねぇ!」
パラムがお茶を飲み干して言った。【立派な】が故意に外されたことには気付いていなかった。
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食堂にシエロとタルデが入ってきた。暁音とタルデの目が合った。
「あ、パラム。ルクスが呼んでた。どうせ報告書にミスがあったんだろ。」
タルデが言うと、「えー!?嘘でしょ!?」と言いながらパラムが出て行った。
「おい、そっちじゃねぇよ」
とか言いながら、タルデも出て行った。そっちじゃない、というか、そもそもが嘘だったのだが。
パラムと一緒にルクスを一緒に探すフリでもするつもりだろう。
なかなか演技ができるんだな、と暁音は感心していた。
「えーと。シエロは昼食?昨夜は任務だったんだよね。昼まで寝てたの?」
「うん。よく眠れたよ。」
シエロが微笑んだ。そして暁音の向かいの席に座り、パンを齧った。
よく眠れた、と言う割には少し眠そうに見えた。
暁音はどういう風に切り出すべきか一瞬考えた。考えたところで出来そうになかった。
「よく眠れたって言うけどさ〜。なんかちょっと眠そうだよ?」
暁音は直球で行くことにした。というか、それ以外思いつかなかった。
シエロは少し驚いたような顔をして、目を瞬いた。
「え・・・そうかな?」
そう言って、困ったように笑った。
「うん。何か悩んでることとかあったりしない?異世界インテリの私が相談に乗るよ?」
暁音は軽く言った。そもそも重たい雰囲気を出しつつ話すのが苦手だった。
「インテ・・?」
シエロは更に困った顔をした。
「・・・あの、気遣ってくれてありがとう。けど俺は、本当に・・・特に何もないよ。」
まぁそうだよね、と暁音は思った。例え何かあったとしても、急にこんな風に聞かれて簡単に話す人間がどれほどいるのだろう。
暁音はシエロとの距離を遠く感じた。
「えっと。あ、俺、今日夕食の担当なんだった。ちょっと早いけどもう作っておこうかな。」
シエロは席を立った。気まずくなったのかもしれない。もしくはこれ以上踏み込まれたくないのかもしれなかった。
暁音は去っていくシエロの背中を見ていた。
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夕食の時間になり、暁音はシエロの作った【完璧に美味しいシチュー】を食べていた。
任務から帰ってきたユオが暁音の隣に座った。
「で、タルデには話したのか。」
ユオはそう聞いてから【完璧に美味しいシチュー】を一口食べて、「美味え」と呟いた。
「話した話した。タルデって結構話しやすいんだよね・・・。」
暁音がそう言うと、ユオは「まぁそうかもな」と興味がなさそうに言った。
「でも私、シエロとの距離が遠い気がする。どうしたらもっと仲良くなれるのかな?ラ⚪︎ンもイン⚪︎タも交換できないしさ。」
暁音はため息をついた。
「・・・・?なんの話してんだ、あんた」
ユオは怪訝そうな顔をした。
「シエロと今より仲良くなる方法か・・・。明日、気晴らしとでも言ってシエロとタルデを誘って街に出るか。」
ユオは割と簡単な方法を提示した。
「あんたの未来の夢では冬なんだろ?吹雪ってことは中旬以降か。
まだ数ヶ月先とは言え、あんたがこの時期を選んで戻って来たってことにも理由があるかもしれねぇし。
シエロとはもっと関係を築いておくべきた。」
ユオは、メモの内容を思い出していた。
3日目の内容に、【シエロに暁音の声は届かない】と書かれていた。
それはつまり、関係が浅いままだったということだろう。
「そうだね。誘ってみる。」
暁音は頷いた。
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暁音は夕食を終えて部屋に戻った。
今日はタルデに未来から遡って来たことを伝えた。
【このままいけば辿り着く未来】の夢についても共有した。
シエロに「悩んでいることがないか」と聞いた。
「特に何もない」と言われた。
・・・何かが動いたと言えるだろうか。
4日間の夢で、状況は改善していなかった。
昨夜の夢ではユオが死んでいた。
今日、その続きを見るのだろうか。憂鬱な気分になった。
ベッドに入り、目を閉じた。
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夢を見た。
暁音は自室にいた。窓の外は雪が降っていた。
もうずっと部屋にいる気がした。まだ後悔していた。
・・・何を?
私に何かできたと思っているのか。魔法使いでもないのに。
逃げずに立ち向かったら何か変わったか?私も死んだだけではないのか。
できることなんてなかったんじゃないのか?
シエロはまだ眠っていると聞いた。
・・・様子を見にいくべきなのでは?
分かっているのになかなか動けなかった。
こんなところで立ち止まっていても何も変わらないのに。
・・・ユオはもういないんだ。
暁音は何かを後悔していた。自分の部屋の中で。
何もせず。ただ過ぎていく時間の中にいた。
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