第99話:精神世界・感情爆発回。――「俺はさ、汚れてる世界が好きなんだよ」
果てしなく続く、真っ白な廊下。
音もなく、風もなく、ただ完璧に漂白された死の空間。リトはその廊下の隅で、膝を抱えて座っていた。指先は透き通り、今にも消えてしまいそうだ。宇宙の汚れをすべてその身に封じ込め、自分自身を「廃棄物」として処理しようとする、掃除屋としての最後の義務。
「これでいい。全部綺麗になった。あとは、俺が消えれば……」
リトが自嘲気味に呟いたその時。白い廊下の向こうから、騒がしくて愛おしい「足音」が響いた。
「見つけましたわ! この、片付け下手な掃除屋様!!」
最初に現れたのは、ルクレツィアだった。彼女は優雅な所作をかなぐり捨て、リトの元へと走り寄る。その瞳には、リトが拭い取ったはずの「執着」が、以前よりもさらに美しく宿っていた。
「ルクレツィア……? どうしてここに。君たちが来ちゃいけない場所だ」
「貴方がいない世界なんて、耐え難い不潔そのものですわ。私は、貴方の影でいたかったのではない。貴方と一緒に、泥にまみれて笑い合いたかったのです!」
彼女の告白が、白い空間に「紫色の雫」を落とす。続いてエルナが、その場に跪き、リトの手を握りしめた。
「リト様……。私は神様に仕える者として、清らかであることを美徳としてきました。でも、貴方に洗われて気づいたんです。誰かを想って流す涙も、必死に生きて泥をかぶった足跡も、神様が作ったどんな奇跡より輝いていることに。私は、貴方が磨いてくれたこの命で、貴方を愛し続けたい。それだけが、私の新しい信仰です!」
リトの指先に、色が戻り始める。最後に、アルテミスがリトの前に立ち、その肩を強く掴んで揺さぶった。
「リト様! 宇宙じゃない。正義でもない。私が守りたいのは、あなただ! 毎日雑巾を振るって、生意気なことを言って、私の鎧をじっと見て笑う……あなたの、その不完全な魂なんだ!」
アルテミスの激情が、白い廊下を粉々に砕いていく。
「……あぁ。降参だ」
リトが、泣き出しそうな笑顔で顔を上げた。彼は、自らの手の中にある、再び虹色に色づき始めた雑巾を見つめる。
「俺はさ、汚れてる世界が好きなんだよ。みんなが笑って、泣いて、誰かを傷つけて、それでもまた磨き合おうとする……。そんな、泥臭い世界が、大好きだったんだ」
リトが、三人を力一杯抱きしめる。白い空間が崩壊し、リトが抱えていた「宇宙の汚れ」は、消去されるのではなく、彼を呼び戻すための「熱」へと変換されていった。
「帰ろう。みんなで、掃除の続きをしに」
「汚れているからこそ、愛おしい」。
本作の根幹にあるメッセージが、ようやくリト自身の心に届きました。
掃除屋を掃除したのは、彼が磨き上げた三人の愛でした。
次回、最終回。
激しい戦いはもうありません。
ただ、そこに「当たり前の日常」があることの美しさを。




