第89話:漂白の恐怖。――「消去」は「掃除」じゃない!
「消毒天使」を名乗るアルファが放った『惑星漂白』の光。それは、汚れを落とすための光ではなかった。対象を分子レベルで破壊し、真っ白な「無」へと変え、二度と生命が宿らない死の荒野に変えるための、「消毒」という名の虐殺だった。
天界の美しい花々が白く乾き、砂となって崩れ去る。リトが救った精霊たちも、アルファの冷徹な管理システムの元で、次々と「処理」されていく。
「……。……。……やめて。……。……。……。……。……。……。……。……やめろって言ってるんだ!!」
リトの怒号が、無機質な消毒の霧を切り裂いた。
彼はベヒモスのデッキから飛び降り、アルファが放とうとしていた次の一撃――天界全体を漂白するための巨大ノズルの前に、生身で立ちはだかった。
「……邪魔ね、暫定清掃員。……。……あなたも、その不潔な肉体ごと白く染まりたいの? ……。……不純な水分を含んだ有機体は、宇宙の秩序にとってノイズでしかないわ」
「……。……。……ノイズ? ……。……。……。……ふざけないでよ。……。……。……君の言ってることは、掃除じゃない。……。……。……ただの『破壊』だ。……。……。……。……。……汚れを落とすのはね、その下にある『本当の輝き』を愛してるからなんだよ。……。……。……その輝きごと消し去るなんて、掃除屋の名を騙る資格さえない!」
リトの手元で、一本のボトルが青白く発光し始めた。それは、天界の「運命の糸」を洗った際に得た、生命の輝きの雫を凝縮して作った、究極の『保護成分』。
「……。……。……。……。……。……消されるなら、もっと強く輝けばいい。……。……。……アルテミスさん、ルクレツィアさん! ……。……僕に、世界の『色彩』を貸して!」
「はいっ、リト様!! ……【聖剣解放:七色の加護】!!」
「私の影も、不潔ではありませんわ……! ……【漆黒のコーティング:エナメル・シールド】!!」
アルテミスの放つ七色の魔力と、ルクレツィアの影の「艶」が、リトのボトルへと吸い込まれていく。リトはそれを、ベヒモスのメインノズルに装填し、消毒の霧に向かって引き金を引いた。
「【清掃奥義:万物・色彩・復活】!!」
ドォォォォォォォン!! という、命が震えるような重低音と共に、虹色の霧が天界全体に広がった。
アルファの消毒光線が、その虹色の霧に触れた瞬間――光が弾かれ、白く染まりかけていた景色に「瑞々しい色彩」が戻っていく。砂に変わりかけていた精霊たちも、リトの放った保護成分を浴びて、以前よりもさらに力強く、鮮やかな色を持って復活した。
「……なっ!? ……。……私の『高濃度ブリーチ』を、中和したというの? ……。……。……ありえない。……この世界の文明レベルで、宇宙規格の消毒を上書きするなんて……!」
初めて、アルファのアイスブルーの瞳に「動揺」の文字が浮かぶ。
リトは、肩で息をしながらも、鋭い視線でアルファを射抜いた。
「……。……。……。……。……アルファさん。……。……。……君の掃除には、……『愛』が足りないんだ。……。……。……。……。……。……だから、どんなに強力な洗剤を使っても、……僕の雑巾には勝てないよ」
リトは、腰のポーチから「最後の一枚」の雑巾を取り出した。それは、この旅の始まりからずっと使い続け、何度も洗い、何度も魔力を染み込ませてきた、彼にとっての相棒。
「……。……。……。……。……。……。……。……さあ、……。……。……。……。……。……。……。……『完全無菌』なんていうつまらない幻想、……僕が綺麗に拭き取ってあげる」
掃除屋と消毒天使。相容れない二つの「清潔」が、今、宇宙の命運をかけて激突する。
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