第87話:宇宙規模の「キュッ!」。――「根源の汚物」は、純白の精霊へ。
漬け置き三日目。
次元の洗濯袋の中を満たしていた黒いヘドロは、リトの酵素によって完全に分解され、サラサラとした灰色の水へと変わっていた。中央に鎮座していた「根源の汚物」も、その巨大な質量を失い、今は直径百メートルほどの「巨大なスポンジ状の塊」へと縮小している。
「よし。……浸透は完璧だ。……。……。……みんな、最後の仕上げだよ。……。……。……アルテミスさんは『高圧聖水』で濯ぎを。……。……ルクレツィアさんは、浮き出た汚れを一箇所に固めてパージ。……。……僕は、こいつの『芯』を磨く」
リトは、ベヒモスの格納庫から、最後にして最大の清掃具を起動させた。
それは、次元の鉱石を微細に粉砕して作られた、超微細構造の『コズミック・メラミンスポンジ』。
「【清掃奥義:万物・完全・研磨】!!」
リトは自らベヒモスの外へ飛び出し、魔力で巨大化したメラミンスポンジを抱えて、汚物の「芯」へと肉薄した。
アルテミスが放つ、銀河の果てまで届くような高圧の濯ぎ水。ルクレツィアが操る、汚れを吸着する漆黒の磁場。その連携の中で、リトのスポンジが、汚物の表面に残った最後の一層――「神への未練」という名の、最も頑固なシミを捉えた。
ギャリギャリギャリギャリ……ッ!!
精神の奥底まで響くような、激しい研磨音。
リトは、数万年分の「重み」を全身で受け止めながら、ひたすらに、ただひたすらに擦り続けた。
一往復ごとに、黒ずみが消え、その下から「原初の光」が溢れ出す。
「……。……。……見えてきた。……。……君の、本当の姿が……!」
リトが最後の一擦りを終え、スポンジを離した瞬間。
キュッ!!!
世界中のすべての耳に、あまりにも心地よい、そして清らかな「清潔の音」が響き渡った。
その直後、巨大なスポンジ状の塊は弾けるように崩壊し、中から現れたのは――。
それは、禍々しい汚物でも、巨大な魔物でもなかった。
数千、数万という数の、手のひらサイズの「真っ白でフワフワした精霊たち」だった。
彼らはかつて神々に捨てられた「可能性」の欠片たち。不潔な泥に包まれて怨念と化していた彼らが、リトによって洗われたことで、本来の「純粋な精霊」として再誕したのである。
「……。……。……。……アリガトウ……。……。……体ガ……軽イ……。……。……リト……。……。……」
精霊たちが、リトの周りを楽しげに飛び回り、天界全体を白い光で満たしていく。
その光が触れる場所、天界のひび割れた床は修復され、枯れていた花々は見たこともない大輪を咲かせ、神々ですら成し得なかった「真の楽園」が、そこに完成した。
「……。……。……やったね。……。……これで、この世界の『宿便』は全部出し切ったよ」
リトは、ボロボロになったスポンジを虚無のゴミ箱へ投げ捨て、満足げに微笑んだ。
だが、その瞬間。
天界の空、そのさらに「外側」の宇宙から、これまでとは全く質の異なる、不気味で冷たい「薬品のような臭い」が漂ってきた。
「……。……。……。……え。……何、この『塩素』みたいな臭い……。……。……。……まさか、別の誰かが……世界を『消毒(消去)』しようとしてるのか?」
リトの掃除は、ついにこの世界の「外」にいる、さらなる掃除屋(?)の存在を感知してしまった。
物語は、世界救済を越えた「宇宙規模の清掃戦争」へと足を踏み入れる。
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