第84話:世界の換気扇・大破。――「詰まり」を抜いた後の、衝撃の真実。
ベヒモスによる「大気清浄作戦」は、三日三晩に及んだ。
リトは一睡もせず、刻一刻と汚れていくベヒモスの巨大フィルターを魔法で洗浄し続け、世界の空気を循環させていった。
そして、ついにその時が訪れる。
「……。……抜けた。……。……。……流れるぞ、空気が!!」
ズォォォォォン!! という、耳を劈くような風切り音と共に、世界を覆っていた灰色の霧が、天界の最上層にある「次元の穴」へと一気に吸い込まれていった。
それは、世界が数万年ぶりに深呼吸をした瞬間だった。
空はどこまでも高く、深い青色を取り戻し、地上にはこれまで見たこともないような「透明な光」が降り注いだ。
「リト様……! 見てください、地上を! 枯れていた森が瞬時に蘇り、病に苦しんでいた人々が、空気を吸っただけで立ち上がっています!」
アルテミスが歓喜の声を上げる。空気が綺麗になったことで、生命力の循環が劇的に改善されたのだ。
……しかし、リトの表情は晴れない。
「世界の換気扇」である次元の穴の奥底。そこから、今まで霧に隠れて見えなかった『真の不潔』が、その姿を現したからだ。
「……。……。……やっぱりね。……空気が汚れてたのは、原因じゃなかった。……。……『あそこ』から、汚れが無限に湧き出してるんだ」
リトが見つめる先。次元の穴の最奥にあるのは、世界を作った際に出た「余りのパーツ」や「失敗した運命」を無造作に放り込んだ、いわば『世界のゴミ捨て場』だった。
そこには、正体不明のドロドロとした黒い泥が、一つの「意志」を持って脈動していた。
「……あれは……『根源の汚物』……。……世界が生まれた時から存在する、……一度も洗われたことのない、原初のシミだ」
最高神ゼノンが、恐怖に顔を引きつらせて呟く。
神ですら触れることを禁じられた、世界の裏側のゴミ溜め。
その泥の中から、巨大な、そしてあまりにも不潔な「手」が伸び、天界の縁を掴んだ。
「……ハラ……ヘッタ……。……ヨゴレ……。……モット……ヨゴセ……」
ついに姿を現したラスボス――世界の不潔そのものが擬人化した存在。
リトは、汚れたエプロンをきつく締め直し、新品の雑巾を手に取った。
「……。……。……なるほどね。……君が、この世界の『掃除し忘れ』の親玉か。……。……。……いいよ。……一万年分、まとめて『漬け置き』にしてあげるから、覚悟してね」
掃除屋リトの最終決戦。
相手は、世界そのものよりも古い「根源的なシミ」。
リトの雑巾が、ついに宇宙の理を拭き取る時が来た。
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