第83話:天界の「大気汚染」を解決せよ。――世界を覆う「淀み」の正体。
最高神ゼノンを「物理的に更生(洗浄)」させたリト。天界はかつてない静寂と清潔に包まれていた。しかし、リトは玉座の間の窓から外を見つめ、厳しい表情を崩さない。
「……おかしい。最高神を洗えば、下界の空も晴れるはずだったのに。……。……。……空気が、まだ『重たい』んだ」
リトが指差す先、天界を支える雲のさらに外側。そこには、どす黒い灰色の霧が、まるで世界全体を包み込む「巨大な網」のように張り巡らされていた。
それは単なる雲ではない。世界中の生命が放つ負の感情、そして神々が数万年かけて排出してきた「管理のゴミ」が、大気圏の最上層で固着してしまった『世界規模の目詰まり』だった。
「リト様、あれは……! 聖典に記された『終末の黄昏』ではありませんか!? ……まさか、天界を綺麗にしたことで、今まで隠れていた『世界の余命』が見えてしまったのでは……」
エルナが震える声で告げる。天界が汚れていた間は、その不潔さがフィルターとなって、外側の「真の汚れ」が見えていなかったのだ。しかし、天界がピカピカになった今、世界がいかに「深刻な換気不全」に陥っているかが露呈してしまった。
「……。……なるほどね。……家の中だけ掃除しても、換気扇が詰まってたら意味がない。……あの黒い霧は、いわば『世界の換気扇のフィルター』にこびり付いた、数万年分の油煙だよ」
リトはベヒモスの全システムを起動した。
今回の標的は、個体でもなく、建物でもない。「世界の空気そのもの」だ。
「クラちゃん、ベヒモスのメインエンジンを『空気清浄モード』に切り替えて! 吸引力は最大、フィルターには僕が調合した『次元・活性炭』を充填して!」
「おうよ、リト様! ……任せろ、世界の悪い空気、全部吸い込んで、マイナスイオンにして吐き出してやるぜ!」
ベヒモスが巨大な吸気口を開き、空を覆う黒い霧を吸い込み始める。
しかし、その霧は意志を持っているかのように抵抗し、ベヒモスの船体を腐食させようと牙を剥く。それは、世界中の「変わりたくない」「汚れたままでいい」という、人々の怠惰な心が形を成した『根源的な停滞』だった。
「……逃がさないよ。……淀んだ空気の中で生きていけるほど、僕は寛容じゃないんだ。……。……ルクレツィアさん、アルテミスさん! ベヒモスの周囲に『浄化の暴風』を起こして! 汚れを一点に集めるんだ!」
「了解ですわ、リト様! ……【清掃奥義:銀河・サイクロン・クリーニング】!!」
天界を巻き込むほどの巨大な竜巻が発生し、黒い霧を次々とベヒモスの吸引口へと送り込んでいく。
リトの戦いは、ついに「生命の呼吸」を守るための、地球規模の大掃除へと突入した。
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第84話:世界の換気扇・大破。――「詰まり」を抜いた後の、衝撃の真実。
ベヒモスによる「大気清浄作戦」は、三日三晩に及んだ。
リトは一睡もせず、刻一刻と汚れていくベヒモスの巨大フィルターを魔法で洗浄し続け、世界の空気を循環させていった。
そして、ついにその時が訪れる。
「……。……抜けた。……。……。……流れるぞ、空気が!!」
ズォォォォォン!! という、耳を劈くような風切り音と共に、世界を覆っていた灰色の霧が、天界の最上層にある「次元の穴」へと一気に吸い込まれていった。
それは、世界が数万年ぶりに深呼吸をした瞬間だった。
空はどこまでも高く、深い青色を取り戻し、地上にはこれまで見たこともないような「透明な光」が降り注いだ。
「リト様……! 見てください、地上を! 枯れていた森が瞬時に蘇り、病に苦しんでいた人々が、空気を吸っただけで立ち上がっています!」
アルテミスが歓喜の声を上げる。空気が綺麗になったことで、生命力の循環が劇的に改善されたのだ。
……しかし、リトの表情は晴れない。
「世界の換気扇」である次元の穴の奥底。そこから、今まで霧に隠れて見えなかった『真の不潔』が、その姿を現したからだ。
「……。……。……やっぱりね。……空気が汚れてたのは、原因じゃなかった。……。……『あそこ』から、汚れが無限に湧き出してるんだ」
リトが見つめる先。次元の穴の最奥にあるのは、世界を作った際に出た「余りのパーツ」や「失敗した運命」を無造作に放り込んだ、いわば『世界のゴミ捨て場』だった。
そこには、正体不明のドロドロとした黒い泥が、一つの「意志」を持って脈動していた。
「……あれは……『根源の汚物』……。……世界が生まれた時から存在する、……一度も洗われたことのない、原初のシミだ」
最高神ゼノンが、恐怖に顔を引きつらせて呟く。
神ですら触れることを禁じられた、世界の裏側のゴミ溜め。
その泥の中から、巨大な、そしてあまりにも不潔な「手」が伸び、天界の縁を掴んだ。
「……ハラ……ヘッタ……。……ヨゴレ……。……モット……ヨゴセ……」
ついに姿を現したラスボス――世界の不潔そのものが擬人化した存在。
リトは、汚れたエプロンをきつく締め直し、新品の雑巾を手に取った。
「……。……。……なるほどね。……君が、この世界の『掃除し忘れ』の親玉か。……。……。……いいよ。……一万年分、まとめて『漬け置き』にしてあげるから、覚悟してね」
掃除屋リトの最終決戦。
相手は、世界そのものよりも古い「根源的なシミ」。
リトの雑巾が、ついに宇宙の理を拭き取る時が来た。
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