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『追放された掃除屋の俺、全自動の「洗浄結界」を張ったら聖域が爆誕した。〜ボロボロの女騎士を洗ったら神話級の英雄に覚醒したんだが、俺はただの清掃員なんだが?〜』  作者: 志喜  陽斗
第5章:世界のシミ・根源的洗浄編

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第80話:運命の「柔軟仕上げ」。リト、不幸な人生をフカフカにする。

天界最深部の『運命の洗濯室』。リトが数時間をかけて「人生の毛玉」を解きほぐした結果、そこには虹色に輝く数千億本の糸が整然と並んでいた。しかし、リトは満足した表情を見せるどころか、その糸の一本を指先で弾き、微かに眉をひそめた。

「……やっぱりね。解いただけじゃダメだ。これじゃあ、糸が『バキバキ』に硬くなってる」

「えっ、リト様!? あんなに綺麗になったのに、まだ不十分なのですか?」

 アルテミスが驚愕して声を上げる。彼女の目には、今の運命の糸は神々しいまでの美しさを取り戻したように見えていた。だが、リトの「掃除屋の指先」は、その糸が長年の放置と乾燥によって柔軟性を失い、今にも折れそうなほど脆くなっていることを見抜いていた。

「アルテミスさん、洗濯の基本を思い出して。汚れを落とすだけじゃ、衣類……つまり人生は完成しないんだ。特に天界の過酷な環境で放置されたこの糸たちは、いわば『脱水しすぎて天日干ししすぎたタオル』のような状態。このまま下界に戻しても、ちょっとした不幸……例えば雨が降ったとか、財布を落としたとか、そんな些細なストレスでポキッと折れちゃうんだよ」

「人生が……折れる……。そんな、恐ろしい……!」

 エルナが顔を青くして震える。リトの言うことは、天界のどの教典よりも真実味を帯びていた。

「だから、仕上げが必要なんだ。……ルクレツィアさん、魔王オーナー。……。……。……天界の魔力エネルギーを、僕の『特製・概念柔軟剤コズミック・ソフター』の媒体にして。これから、全人類の運命を一気に『フカフカ』にする!」

 リトがベヒモスから運び出したのは、七色に揺らめく不思議な液体が入った巨大なタンクだった。それは、魔海の深層水に、聖女の祈りと、魔王の強大な魔力、そしてリトが独自に精製した『多幸感セロトニン抽出液』をブレンドした、世界最良の柔軟剤。

「【清掃奥義:万物・柔軟・抱擁エターナル・フラッフィ】!!」

 リトがタンクのバルブを開放すると、洗浄室全体が、春の陽だまりのような暖かく、そして優しい香りに包まれた。その霧が運命の糸に触れた瞬間――。

 ガチガチに強張っていた糸たちが、まるでお風呂上がりの赤ん坊の肌のように、しっとりと、そして弾力のある質感へと変化していく。

「……あ。……あぁ……。リト様、私の心まで、なんだかフカフカになっていきますわ……。これまでの戦いや、聖騎士としての重圧が、嘘みたいに解けていく……」

 アルテミスがうっとりとその場に座り込む。ルクレツィアも、魔王ですらも、その柔らかな香りに包まれ、かつてない心の安らぎを感じていた。

 その効果は、即座に下界へと伝播した。

 戦場で剣を交えていた兵士たちは、突然「なんだか戦うのがバカバカしくなってきたな」と剣を収め、互いの無事を祝って酒を酌み交わし始めた。

 絶望から身を投げようとしていた者は、通りすがりの猫の「フカフカさ」に気づいて思い留まった。

 世界中の「ギスギス」した感情が、リトが天界で柔軟剤を撒いたことで、一瞬にして消失したのである。

「よし。これで糸に『遊び』ができた。これからは、少しくらい嫌なことがあっても、この糸がバネみたいに弾き返してくれるはずだよ」

 リトは満足げに頷き、ようやく雑巾を置いた。……だが、その平和な空気を切り裂くように、洗濯室の奥にある「換気口」から、ドロリとした黄金のヘドロが溢れ出してきた。

「……う。この臭い……。柔軟剤の香りを台無しにする、この『腐った権力』の臭い……。……まだ、元凶が残ってるみたいだね」

 リトの視線の先。天界の真の支配者――掃除を完全に忘れた「最高神」の居室へと繋がる、目詰まりした換気扇が、不気味にガタガタと震え始めていた。

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