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『追放された掃除屋の俺、全自動の「洗浄結界」を張ったら聖域が爆誕した。〜ボロボロの女騎士を洗ったら神話級の英雄に覚醒したんだが、俺はただの清掃員なんだが?〜』  作者: 志喜  陽斗
第5章:世界のシミ・根源的洗浄編

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第79話:天界最深部『運命の洗濯室』。絡まった「人生の毛玉」を解きほぐせ!

神々の会議室を「強制雑巾がけ」によって物理的にも精神的にも浄化したリト。しかし、彼の手は止まらない。リトの鼻腔をくすぐるのは、天界のさらに奥底、世界の理が形作られる心臓部から漂う「古びた布の埃」と「カビ臭い魔力」の混じった不快な臭いだった。

「……まだだ。まだこの上には、世界を淀ませている『最大の洗い残し』がある。みんな、ついてきて」

 リトが先導し、たどり着いたのは天界最深部に位置する巨大な空間――『運命の洗濯室』である。

 本来、そこは世界中の生命の「運命」という名の糸を織り上げ、清め、一筋の輝きとして下界へ送り出すための聖域であるはずだった。しかし、リトが重厚な扉を開け放った瞬間に目にしたのは、あまりにも無残な「怠慢の集大成」だった。

「……うわぁ。これは、ただの放置じゃないね。……『狂ったネコに一晩預けた後の毛糸玉』よりも、ずっとタチが悪い」

 リトが絶句するのも無理はなかった。

 広大な洗濯室の中央、かつては清らかな水が流れていたであろう巨大な洗濯槽(次元の渦)は完全に停止しており、その周囲には天井に届くほどの巨大な「糸クズと毛玉の山」がそびえ立っていた。

 それは単なるゴミではない。神々が「管理が面倒だ」「設定が複雑すぎる」と匙を投げ、無理やりひとまとめにして洗濯機に詰め込み、そのまま数万年も放置した結果、絡まり合い、腐敗し、巨大化した「人々の人生の残骸」だった。

「リト様、あれは……! 糸の一本一本から、悲痛な叫びが聞こえてきますわ! 恋に破れた未練、仕事の失敗、病の苦しみ……。それらが絡まりすぎて真っ黒な『呪いの毛玉』になっています。これでは、誰の人生にも、まともな幸運が届くはずもありません……!」

 聖女エルナがその場に崩れ落ち、涙を流す。彼女の清らかな魂には、その毛玉から漏れ出す「絶望」という名の悪臭が耐え難いものだったのだ。

「……ひどい。神様たちは、自分たちが楽をするために、人間の人生を『まとめ洗い』して、しかも脱水もせずに放置したんだね。そのせいで糸同士が癒着して、誰が誰だか分からない『不幸の塊』になっちゃってる」

 リトの目が、これまでにないほど鋭く光る。彼にとって、汚れとは単なる不潔ではない。それは「本来あるべき姿を阻害するノイズ」であり、それを正すことこそが彼の存在意義だった。

「ルクレツィアさん、魔王オーナー。……。……。……この『運命の毛玉』、僕が全部解きほぐすよ。二人は外側から、魔法の柔軟剤を全開で噴霧して。糸の表面を滑らかにしないと、無理に引っ張れば人生(糸)が千切れちゃうから」

「お任せください、リト様! 私の『概念・柔軟剤エターナル・ソフター』、天界のすべての雲を潤すほどの出力でぶちかましますわ!」

「ふん、運命を洗うか。面白い。……我が魔力を、繊維を整える『静電気防止イオン』に変換して放ってやろう!」

 リトはベヒモスから、今回の大掃除のために新開発した『次元のクシ(超音波コーム)』と、高浸透性の『神聖リンス・スプレー』を取り出した。

「【清掃奥義:運命・精密・解き解し(ディスティニー・デタングラー)】!!」

 リトが巨大な毛玉に飛び込む。

 普通の人間なら、その負の感情の渦に触れた瞬間に発狂するだろう。しかし、リトは一切の迷いなく、最も絡まりがひどい「人生の結び目」に指をかけた。

 シュッ、とリンスを吹きかける。

 それは、固着した悲しみを潤し、強張った後悔を柔らかく解きほぐす奇跡の液体。そこへリトの超音波コームが入り込むと、ガチガチに固まっていた黒い糸が、まるで魔法のようにスルスルと一本ずつ分離し始めた。

「……いい子だ。……苦しかったね。……もう大丈夫、君の人生は、ちゃんと君だけのものに戻るよ」

 リトが糸を一本解くたびに、地上では一人の人間の運命が好転していく。

 長年病に伏せっていた老人が息を吹き返し、絶望の淵にいた若者が新たな希望を見つけ、争い続けていた兄弟が和解する。リトの「掃除」は、もはや物理的な清掃を超え、世界そのものの「バグ」を修正する神業へと昇華していた。

 作業は数時間に及んだ。

 リトの全身は糸クズと埃まみれになり、額からは大粒の汗が流れる。しかし、彼の表情には確かな充実感があった。

「……よし。……最後の一本。……これで、全部だ」

 リトが最後の「執着の結び目」を解いた瞬間、洗濯室全体に眩いばかりの光が溢れた。

 真っ黒だった巨大な山は消え去り、そこには虹色に輝く数千億本の『純潔な運命の糸』が、整然と棚に並べられていた。一本一本が独立し、誇らしげに光を放っている。

「……。……。……美しい。……これが、本来の世界の姿なのですね」

 アルテミスが、思わず剣を置いて祈りを捧げる。

「ふぅ……。疲れたけど、いい仕事ができたかな。……でも、まだ終わりじゃないよ。……この糸を乾かすための『乾燥機能』が、天界には備わってないみたいだからね。……次は、天界全体の『除湿と換気』だ」

 リトは、埃にまみれたエプロンをパパッと払い、次の掃除場所へと歩き出す。

 天界の神々が、リトのあまりの「徹底ぶり」に震え上がるのは、これからが本番であった。

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