第71話:最後の四天王『不滅の黒ずみ・アイアン』。リトの「ダイヤモンド・スクレイパー」に削れる。
温泉旅館と化した魔王城の広間に、轟音と共に現れたのは、全身を分厚い漆黒の鎧で包んだ巨漢――四天王最強の守護者、『不滅の黒ずみ・アイアン』であった。
彼の鎧は、ただの金属ではない。数千年の戦場での返り血、焦げ付いた魔力、そして「誰にも心を開かない」という頑なな拒絶が固着し、物理攻撃を一切受け付けない最強の不浄と化していた。
「クハハハ! 私は四天王の中でも最強の防御を誇る! 刃は通らぬ、魔法も弾く! この『不滅の汚れ』を落とせるものなら、落としてみよ!」
「……あ。あれは……いわゆる『焦げ付き』の最終形態だね」
リトはアイアンの鎧を、まるで「長年手入れしていないフライパン」を見るような悲しげな目で見つめた。
焦げ付きは、時間が経てば経つほど炭化し、金属と一体化して剥がれなくなる。中途半端な洗剤や魔法では、その表面を撫でるのが精一杯だ。
「アルテミスさん、エルナさん。……彼には『浸透』も『分解』も効かない。……残された手段は、ただ一つ。……『物理的な研磨』だよ」
「研磨……!? リト様、あのような硬いものを、どうやって削るのですか?」
「これを使うんだ。……魔海で見つけた『金剛石の砂』と、クラーケンの吸盤の圧力を利用した、超高硬度・研磨ユニット、――名付けて【ダイヤモンド・スクレイパー】」
リトはベヒモスの主砲を換装し、巨大な「ヤスリ」のような魔導兵器をアイアンに向けた。
アイアンは鼻で笑う。
「砂で私を削ろうというのか? 滑稽な! 蚊に刺されたほども感じ――」
「クラちゃん、回転数最大! 圧力、一平方センチメートルあたり百トン! ……いけっ!」
ギャリギャリギャリギャリギャリィィィィィィン!!
耳を突き刺すような金属音が、城内に響き渡る。リトが放ったダイヤモンドの微粒子が、超高速回転しながらアイアンの鎧を直撃した。
それは攻撃というより、極めて過激な「表面加工」だった。
「ぎ、ギ、ギャァァァァァァッ!? 削れる! 私を数千年守ってきた『誇り(汚れ)』が、砂となって散っていくぅぅぅっ!!」
「動いちゃダメだよ、アイアンさん。ムラができると美しくないからね。……ほら、焦げ付きの下から、本来の『美しい白銀』が見えてきた」
リトは容赦なかった。アイアンの鎧が薄くなるにつれ、リトはヤスリの目を細かくしていき、最後には羊毛のバフで仕上げの磨き込みに入った。
「【清掃奥義:鏡面・魂の研磨】!!」
数分後。
そこに立っていたのは、不気味な黒い巨漢ではなかった。
周囲の景色をすべて反射するほどピカピカに磨き上げられた、眩いばかりの『白銀の騎士』。あまりの輝きに、アイアン自身が自分の手を見て、その美しさに目を奪われていた。
「……これが、私……? ……こんなに……こんなに、輝いていたのか……?」
「そうだよ。汚れで自分を大きく見せる必要なんてないんだ。……君のその輝きは、世界を守るための盾にふさわしい」
アイアンは、リトの前に静かに跪いた。
「……掃除屋リト。……私の『意固地な汚れ』を削り落としてくれたこと、感謝する。……今日からこの盾、旅館の『用心棒』として使ってくれ」
最強の四天王が、旅館の「顔」へと再就職した瞬間だった。
面白いと思ったら評価やブクマをお願いします。




