第70話:魔王城の「大リフォーム」。城全体が『超巨大温泉旅館』へ。
調理場の油汚れを根こそぎ分解し、不健康な「脂の魔力」を「清潔な活力」へと変換したリト。配管も換気扇も新品同様になった今、魔王城はもはやかつての禍々しさを失い、むしろ神聖な神殿のような輝きを放ち始めていた。
「……うーん。でも、まだ何かが足りない。……あ、そうか。城全体の導線が『侵入者を拒むための不便な構造』になってるから、掃除がしにくいんだね」
リトはベヒモスの展望台から城の構造図(リトが掃除しながら作成した精密なもの)を広げ、顎に手を当てた。
魔王城は、攻め込みにくくするために複雑な回廊や落とし穴、そして通気性の悪い隠し部屋が点在している。それが結果として、湿気を溜め込み、埃の死角を作り出す「不潔の温床」となっていた。
「リト様、まさか……。魔王城の『設計』そのものに手を加えるおつもりですか?」
アルテミスが驚愕して尋ねる。城の壁を拭くのと、城の構造を変えるのでは、魔力の規模が違いすぎる。しかし、リトは事も無げに頷いた。
「掃除しにくい家は、いい家じゃないよ。……ルクレツィアさん、君の『執着』を操る魔力で、城の壁や床を『再構成』して。……エルナさんは、浄化した大浴場から、城中に『源泉かけ流し』の魔力を通してほしい」
「リト様の望みなら、たとえ神の庭でもリフォームしてみせますわ!」
「お任せください、リト様! 私の聖なる加護で、城全体を『癒やしの波動』で満たします!」
リトの指揮の下、世界最高峰の清掃員たちによる「魔導建築プロジェクト」が開始された。
ルクレツィアが魔力を練り、重たく不潔な黒石の壁を、光を通す「半透明の魔晶石」へと変質させていく。リトはその隙に、死角となっていた隠し通路を「風通しの良い吹き抜け回廊」へと改造し、滞っていた空気を循環させた。
さらに、地下から湧き出す浄化された温泉水を、城中の配管を通して各部屋の洗面台や暖房システムへと接続していく。
「【清掃奥義:空間・トータルコーディネート(アルティメット・リフォーム)】!!」
リトが仕上げのワックスを城の「中心核」に塗り込むと、魔王城全体が眩い光に包まれた。
数分後。光が収まったそこにあったのは、もはや「魔王の居城」ではなかった。
外壁は雪のように白く、窓は大きく、中に入ればヒノキの香りと温泉の蒸気が心地よく漂う――世界最高級の『超巨大温泉旅館:魔王・ピカピカ御殿』が誕生したのだ。
「……な、何ということでしょう……。あれほど恐ろしかった城が、見ているだけで肩こりが治りそうな安らぎの場所に……」
セリナが涙を浮かべて見上げる。
しかし、この劇的な環境変化に、魔王軍最後の守護者が沈黙を破った。
「……貴様ぁ。……我らが誇り高き『鉄血の要塞』を、……勝手に『癒やしの宿』にするなど、万死に値するぞ!!」
城の奥、最も硬く、最も「黒ずんだ」最後の四天王が、その姿を現した。
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