第69話:魔王城の「調理場(キッチン)」は油汚れの迷宮。リト、換気扇のベタベタを撃破!
寝室と書庫を完璧に仕上げたリト一行が次に向かったのは、魔王城の胃袋を支える『暗黒の調理場』であった。
そこは、ある意味で城内で最も過酷な戦場だった。数千年間、魔物たちのために「ドラゴンの脂」や「ケルベロスの肉」を焼き続けてきた結果、天井や壁は真っ黒な油煙で覆われ、床は歩くたびに「ネチャッ」と嫌な音を立てる。
「……これは、最強の敵だね。酸化してプラスチックみたいに固まった油汚れ。……ルクレツィアさん、ここ、君の出番だよ。……『概念・煮洗い』の応用編だ」
「お任せください、リト様。……以前の私なら、このベタベタを見て『愛の重さだわ』なんてうっとりしていたでしょうけど……今の私には、これが耐え難い不潔にしか見えませんわ!」
ルクレツィアがドレスの裾をまくり上げ、魔力を練り上げる。
リトは、ベヒモスから運び出した特製アルカリ洗剤『魔導・セスキ炭酸ソーダ』の大樽を広げた。
「みんな、換気扇のフィルターを見て。……完全に目が詰まって、油のつららが垂れてる。……これを一気に、魔法の『つけ置き洗い』で解決するよ!」
リトの指揮で、調理場全体が巨大な「洗浄結界」に包み込まれた。リトが魔法で熱した高濃度アルカリ水が、滝のように換気扇のダクトに流れ込む。
「【清掃奥義:極光・油脂分解】!!」
ジュワァァァァァッ!! という凄まじい反応音と共に、数千年の油汚れが茶色の泥となって流れ出していく。ルクレツィアの魔力が、その泥を一つにまとめ、衛生的な「固形石鹸」へと再構築していく。
「見てください、リト様! 壁のタイルが、本来の白さを取り戻しましたわ! ……それに、この換気扇の回転……滑らかすぎて、音がしません!」
「うん、いい出来だね。……あ、そこのオーブンの裏に、干からびた『サラマンダーの尻尾』が落ちてる。……これもちゃんと拾って、コンポスト(堆肥)に入れようね」
調理場が清潔になったことで、城全体に立ち込めていた「重たい空気」が、一気に「美味しそうな匂い」へと変わっていった。
だが、調理場が綺麗になったことで、今まで汚れに隠れていた「魔王軍・食糧大臣」が姿を現す。
「……誰だ! 我が『秘伝の継ぎ足し油(汚れ)』を勝手に捨てたのは! あの脂が、魔物たちの凶暴性を養っていたというのに!」
「……あ、大臣さん。その脂、酸化しすぎて体に悪いよ。……今日からこの調理場は、『地産地消・オーガニック・キッチン』に生まれ変わるからね」
掃除屋リトの改革は、ついに魔王軍の「食生活」にまで及び始めていた。
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