第65話:ルクレツィアの「再就職」。魔王城のカーテンを全部洗濯。
リトによる「概念・煮洗い」が終了した時、そこにはかつての毒々しい四天王の姿はなかった。
真っ白に漂白され、心なしか表情までスッキリと晴れやかになったルクレツィアが、新品のように輝くソファの上で呆然と座り込んでいた。
「……私、今まで何をしていたのかしら。あんなにドロドロしたものを溜め込んで……あぁ、恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしいわ」
彼女は自分の白くなったドレスを見つめ、顔を真っ赤にする。精神の汚れを落とされたことで、彼女が抱いていた魔王への歪んだ忠誠心(という名の執着)も、きれいに水に流れてしまったのだ。
「気づけてよかったね、ルクレツィアさん。汚れって、一度気にならなくなるとどんどん溜まっちゃうから。これからは、こまめに『心の換気』をするといいよ」
リトが優しく声をかけると、ルクレツィアは弾かれたように顔を上げ、リトの前に跪いた。その目は、先ほどまでの攻撃的な光ではなく、深い尊敬と……新たな「執着」の光が宿っていた。
「お掃除坊や……いえ、リト様。私を……いえ、私の人生を、こんなに真っ白にしてくださったのは、あなたが初めてです。……決めました。私、今日からあなたの『洗濯担当メイド』になります!」
「えっ、いや、うちはベヒモスに全自動洗濯機があるから、人手は足りてるんだけど……」
「あんなタコと一緒にしないでください! 布地の繊維一本一本に語りかけ、汚れの履歴を読み取る……それは私にしかできない仕事です! リト様、お願いです! 私を洗った責任、取ってくださいっ!」
ルクレツィアがリトの脚にすがりつく。その様子を見ていたアルテミスが、即座に聖剣を抜いて間に入った。
「ちょっと待ちなさい、この漂白女! リト様の身の回りのお世話は、第一清掃員の私の特権です! 煮洗いされたからって、調子に乗るんじゃないわよ!」
「あら、先ほどまで黄ばみに負けて膝をついていた方が何を。私なら、リト様の靴下の裏まで、舐めるように……いえ、舐めるように綺麗にして差し上げられますわ」
新たなヒロイン(重め)の加入により、一行の空気はさらに騒がしくなる。リトは頭を抱えながらも、とりあえずルクレツィアに「城内のカーテンを全部外して、重曹に漬けておくこと」という任務を与えた。
「はいっ、リト様! 喜んで! この城の窓を、世界一クリアな視界にして差し上げますわ!」
ルクレツィアは魔力を使って、巨大な城内のカーテンを一斉に操り、次々と洗濯槽(という名の魔力結界)へと放り込んでいく。かつての四天王の魔法が、今は「超効率的な家事」として猛威を振るい始めた。
「……リト様。魔王軍が、どんどん『有能な清掃員』に引き抜かれていきますね……」
エルナが苦笑いするが、リトは「いいことだよ。魔王城が綺麗になれば、みんな幸せになれるんだから」と、マイペースに雑巾を絞るのだった。
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