第58話:堕天使の「黒い羽根」はただの不潔。リト、魂のホワイトニングを敢行。
「ふん、下界の羽虫が。……この『黒ずみ』こそが、天界の浄潔を保つための尊い犠牲なのだ。……それを拭き取ろうなど、神への反逆と思え!」
管理天使――その名は『塵芥のザリエル』。彼は自分の巨大な黒い羽根を広げ、そこから「万物を風化させる埃」の嵐を撒き散らした。その埃に触れた雲は一瞬で灰色に濁り、下方の海にも汚染が広がり始める。
「リト様! お下がりください! その汚れは、触れるだけで魂を腐食させます!」
下方からエルナが絶叫する。
しかし、リトは一歩も引かなかった。
「腐食じゃないよ、エルナさん。……これ、ただの『静電気で集まった塵』の塊だ。……天使さん、君、最後に羽根を洗ったの、いつ?」
「な、何だと……!? この羽根は『闇の聖性』を纏った――」
「嘘だよ。……根元のところが、脂ぎって固まってるじゃないか。……そんな不潔な羽根で空を飛ぶから、次元の窓が曇るんだ。……よし、決めた。……君ごと、ホワイトニングしてあげる」
リトは、霧吹きを逆さに持ち、中に入った電解水に『神聖・漂白触媒』を急造でブレンドした。
「【清掃奥義:次元・一括・ホワイト・アウト】!!」
リトが放ったのは、光の弾丸ではない。……それは、対象物の「色」そのものをリセットし、本来の純白へと戻す『概念的漂白』の奔流だった。
バシュゥゥゥゥゥゥン!!
ザリエルを包み込んだ白い霧。
「ギャァァァァァァッ!? 何だ、この爽やかな匂いは! ……私の誇り高き『黒』が、……安っぽい洗剤の匂いと共に消えていくぅぅぅっ!!」
リトはさらに、クラちゃんの触手を借りて、ザリエルの背後に回り込んだ。
「クラちゃん、その足を『超高速ブラシ』にして! ……ザリエルさんの羽根を、一枚一枚『ブラッシング』するんだ!」
「おうよ! ……【魔獣式・十万回転・羽毛洗浄】!!」
クラーケンの触手が、絶叫する天使を捕らえ、凄まじい速度で磨き上げを開始した。
黒い埃が霧散し、ベタついていた羽根の脂がリトの洗剤で分解され、空中に「美しい虹色の泡」となって弾けていく。
数分後。
そこに浮いていたのは、禍々しい堕天使ではなく――。
眩いばかりの純白の翼を持ち、肌は赤子のようにスベスベになり、頭上の光輪がLEDライトのように輝く、清潔感の塊のような「真・天使」となったザリエルだった。
「……。……あ。……あぁ……。……なんという、清涼感だ……」
ザリエルは、自分の翼から漂う「せっけんの香り」に包まれ、恍惚とした表情で涙を流した。
「……。……私、今まで何を意固地になっていたのでしょう。……この『清潔さ』こそが、真の救いだったというのに……」
「分かればいいんだよ、ザリエルさん。……さあ、汚れの主が綺麗になったところで、仕上げだ。……この次元の窓を、鏡面仕上げにするよ!」
リトは、ザリエルが撒き散らした汚れを一箇所に集めると、それを自分の雑巾でキュッキュと拭き上げた。
すると、魔海の空が「カチリ」と音を立てて繋がった。
そこには、これまで誰も見たことがないような、深い藍色と黄金色が混ざり合う、神話の時代を越えた『究極の空』が広がっていた。
「……。……終わったわね」
ネフィリムが、その空を見上げて呟く。
「……ええ。……リト様の掃除が、ついに世界そのものを『新品』に変えてしまいましたわ」
だが、リトの掃除道はここで止まらない。
魔海を救った彼が次に見据えるのは、この空の向こう――魔王が支配する「世界最大の不潔地帯」であった。




