第55話:究極の洗濯機。クラーケンの足に「アイロン機能」がつく。
魔将ラードを「油抜き」し、良質な石鹸へとリサイクルしてしまったリト。彼の清掃熱は、ついに「仕上げの美しさ」という、掃除の向こう側にある『美学』の領域へと踏み出していた。
「……うん、汚れは落ちたし、乾燥も完璧。……でも、最後の一押しが足りないんだ」
リトは、ベヒモスの甲板で、洗濯を終えたばかりのアルテミスの予備装備を見つめていた。
清潔ではある。しかし、激しい戦闘(と洗濯の回転)のせいで、布地に細かな「シワ」が寄ってしまっている。
「掃除は、パリッとしてこそ完成だ。……クラちゃん、もう一回、第五触手を貸して」
「リト様、次は何をするんだ? 俺、もうサウナ機能だけでお腹いっぱいだぜ」
「次はね、『超伝導・プレス加工』だよ。……吸盤の表面を、ミクロン単位で平滑化して、そこに一定の圧力をかけるんだ。……そうすれば、君の足一本で、世界中の布地からシワを消し去ることができる」
リトは、クラちゃんの吸盤に、熱を均一に伝える『魔法のコテ板』を装着し始めた。
さらに、スチームアイロンのように微細な水分を噴射する機能を、第六触手の噴水孔にリンクさせる。
「リト様……。まさか、伝説の海の魔獣に『アイロンがけ』をさせるおつもりですか……?」
ネフィリムが、信じられないものを見る目でリトを凝視する。
「ただのアイロンじゃないよ。……クラちゃんの力なら、数千枚のシワを一気に伸ばせる『超大型・プレス機』になるんだ。……はい、アルテミスさん。そのクシャクシャになった服、あそこに並べて」
「え、ええっ!? ……クラちゃんの、あの太い足で……私の、繊細な布地を……?」
不安がるアルテミスを余所に、リトは「スタート!」の合図を出した。
プシューーーーーッ!!
クラちゃんの第六触手から、聖なるハーブの香りがする霧が吹きかかり、次の瞬間、第五触手の巨大な「コテ足」が、アルテミスの装備の上に優しく、かつ強力な圧力で降り注いだ。
「【清掃奥義:極光・プレス・フィニッシュ】!!」
一分後。
クラちゃんが足を上げると、そこには――。
新品の時よりも鋭い「センタープレス」が刻まれ、絹のように滑らかな光沢を放つ、完璧なまでの戦闘服が置かれていた。
「……な、何これ。……触れただけで、指が滑り落ちそうなくらい滑らか。……それに、このピシッとした質感。……着るだけで、背筋が魔法のように伸びるわ!」
アルテミスが感動のあまり、その服を抱きしめて頬を寄せる。
「リト様……! このアイロンがけ、最高です! ……もう、自分で畳むのが嫌になるくらいに!」
「あはは、喜んでもらえてよかった。……これで、人魚の国中のカーテンもシーツも、全部パリッとさせられるね」
リトの「全自動・タコ洗濯機」は、ついに乾燥・アイロン機能まで完備した、世界最強の清掃プラットフォームへと進化した。
しかし、その「あまりに整いすぎた世界」が、時空の彼方に眠っていた「ある不純物」を呼び寄せてしまう。
美しすぎる海に、一滴の『真実』が混ざろうとしていた。




