第46話:伝説のクラーケンを洗濯機代わりに再利用。アルテミスの「下着」危機。
『グリース・ベヒモス』との戦いは、熾烈を極めた……はずだった。
巨大な脂の怪物が放つ、あらゆる攻撃を「ベタベタ」にする粘液の弾丸。しかし、リトが船体全体に展開した「超低摩擦・テフロン結界」の前では、すべての攻撃が虚しくツルリと滑り落ちていく。
「……ヌ、ヌメルゥ!? ……なぜ……なぜ当たらない……っ!?」
「当たり前だよ。……リト様の結界は、分子レベルで『くっつく』ことを禁じているんですもの。……あなたの存在そのものが、リト様にとっては『エラー』なのよ」
ネフィリムが、冷ややかな笑みを浮かべて影のメスで脂の巨体を切り裂く。
リトは、その隙にクラーケンのクラちゃんへの指示を一段階引き上げた。
「クラちゃん! 第五触手から第八触手までを『脱水モード』に切り替えて! ……ベヒモスの中心核から水分を絞り出すんだ!」
「あいよっ! ……【クラーケン式・一兆回転・遠心脱水】!!」
クラちゃんの触手がグリース・ベヒモスの核を捕らえ、凄まじい速度で回転を始めた。
ギュゥゥゥゥゥゥン!! という物理法則を無視した音が響き、巨大な脂の怪物は、自分の体から「不純な水分」と「悪臭の元」を絞り出され、みるみるうちに縮んでいく。
その傍らで。
激しい戦い(掃除)の飛沫を浴び、服が汚れてしまった一行。アルテミスは、リトの着替えを用意しながら、ある重大な事実に気づいて戦慄した。
「……リ、リト様。……大変です。……この『魔海のカーテン』の脂汚れ……。……普通の洗濯では落ちないどころか、私の、その……『勝負下着(リト様に磨いていただく用)』に染み付いてしまいました!」
アルテミスが、顔を真っ赤にして叫ぶ。
彼女にとって、リトに触れられる可能性のある布製品が汚れることは、死よりも重い大罪であった。
「えっ、それは大変だ。……でも大丈夫、今ならちょうど『クラちゃん洗濯機』がフル稼働してるから。……アルテミスさん、汚れ物を全部クラちゃんの第三触手(ソフト洗い用)に預けて。……僕が調合した『シルク専用・神聖洗剤』で洗わせるから」
「えっ!? ……ク、クラーケンの足に、私の……その、布を……!? ……リト様が、直接洗ってくださるのではないのですか……!?」
「僕は今、あの巨大な脂の塊を中和するのに忙しいんだ。……ほら、クラちゃん! 加減して洗ってあげてね。……ボタンとか取れないように!」
「任せとけって、リト様! ……お嬢さん、俺の吸盤の『優しさモード』を舐めるなよ? ……高級エステより丁寧に揉み洗いしてやるぜ!」
「いやぁぁぁぁぁっ! リト様以外のものに洗われるなんて、屈辱ですぅぅぅっ!! ……でも、リト様がそう仰るなら……っ!!」
アルテミスは、断腸の思いで自らの衣類をクラちゃんの触手に託した。
戦場では巨大な脂の怪物が絶叫しながら洗浄され、船上ではヒロインが羞恥に震えながら「全自動・タコ洗濯」を受けている。
カオス極まる魔海。しかし、リトが『オリハルコン・ソープ』を怪物の核に叩き込んだ瞬間、数億年分のぬめりは、一筋の清らかな水へと昇華された。
「……終わったね。……見て、アルテミスさん。君の服、新品よりも白くなってるよ」
「……はぅ。……白すぎて、眩しいです……。……でも、リト様。……次は、リト様の手で……直接、仕上げの『アイロンがけ』をお願いしますね?」
脂の壁は消え去り、そこには水平線の彼方まで続く、鏡のような海面が広がっていた。
魔海編は、ついに「世界で最も美しい海」を完成させ、最終局面へと向かう。




