第43話:綺麗になりすぎて見えちゃった。黄金の檻と「封印されたカビ」。
海底がピカピカに磨き上げられたことで、砂の中に隠されていた「不都合な真実」が露わになった。
ヴォルカノ海溝の最深部。そこには、高さ百メートルはあろうかという、巨大な黄金の檻が鎮座していた。しかし、その黄金はリトが好む「清浄な輝き」ではなく、どこか粘り気のある、禍々しいオーラを放っている。
「……リト様、あれは。……教会の古文書にある、神話時代の封印です」
聖女エルナが、その檻を見て震え出した。
「『万物腐敗のカビ・アザトース』。……触れるものすべてを瞬時にカビさせ、世界を胞子で埋め尽くそうとした、最悪の邪神の一部が、あそこに封印されているはずです」
エルナの言葉を裏付けるように、黄金の檻の隙間からは、真っ白な、綿菓子のような「カビ」が、絶え間なく溢れ出そうとしていた。
これまでは海底の泥やヘドロが「重し」となって封印を抑えていたのだが、リトがその泥を完璧に掃除してしまったため、封印が軽くなり、中身が漏れ出してしまったのだ。
「……つまり、僕が掃除しすぎたせいで、邪神が目覚めかけてるってこと?」
リトが少しだけ申し訳なさそうに頭を掻く。
「……キ、キサマか……。……余の『安らかな眠り(泥)』を、勝手にバキュームしたのは……」
黄金の檻の中から、地響きのような声が響く。
次の瞬間、檻の隙間から、まるで巨大な雪崩のように真っ白な「黒カビの胞子」が噴き出した。それは海水を一瞬で灰色に変え、近づくピカ丸たちを「カビの塊」に変えて機能を停止させていく。
「……うわぁ。……強力な『連鎖汚染』だね。……これ、放置しておくと、せっかく洗った魔海が三分で『カビだらけのパン』みたいになっちゃうよ」
「リト様、お下がりください! ここは私の【聖なる烈火】で焼き払います!」
アルテミスが剣を構えるが、リトはそれを止めた。
「ダメだよ、アルテミスさん。……カビを火で焼くと、胞子が熱風でさらに広がるんだ。……カビ掃除の鉄則は、『広げない』ことと『根っこから分解する』こと」
リトは、ベヒモスのハッチを全開にすると、かつてないほど巨大なバケツを取り出した。
その中に入っているのは、透明な、しかしどろりとした謎の液体。
「セリナさん、人魚たちの歌で、海流を『渦巻き状』にして。……檻の周りに、強力な『つけ置き空間』を作るんだ」
「は、はい! ……みんな、歌って! 海を、大きな洗濯機にするのよ!」
人魚たちの澄んだ歌声が響き、海底に巨大な旋回流が発生する。
リトはその渦の中心に向かって、特製の『超濃縮・防カビ・プラズマ洗剤』を一気に投入した。
「【清掃奥義:次元・つけ置き洗い(エターナル・ソーク)】!!」
黄金の檻の周囲が、一瞬で青白い光の泡に包み込まれた。
邪神アザトースが放つ胞子は、その泡に触れた瞬間、パチン、パチンと音を立てて消滅していく。
「バ、バカな……っ!? 余の腐敗の力が……なぜ……なぜ、こんな『良い匂いのする泡』に負けるのだぁぁっ!?」
「いい匂いなのは、リフレッシュグリーンの香りを配合したからだよ。……アザトースさん、君、ずっと檻の中に閉じ込められて、湿気がすごかったんだね。……今、根っこから『除菌・漂白』してあげるから。……もう二度と、カビが生えない体にしてあげるよ」
リトの情け容赦ない(しかし慈悲深い)洗浄が始まった。
黄金の檻ごと、邪神を「丸洗い」するという、神話をも超越した大掃除。
海底には、激しい泡の音と、邪神の「洗いたくないぃぃっ!」という悲鳴が、いつまでも響き渡っていた。




