第39話:ヘドロの要塞「ヌメリス島」。油性マジックで書いたような絶望。
リト一行の前に現れた『ヌメリス島』は、文字通り「汚れの結晶体」だった。
島の岩肌は、魔王軍が排出した不純なオイルでコーティングされ、草木は一本も生えず、代わりに「動くゴミ山」のような魔物たちが徘徊している。
「……あ。あれは、ひどい。……まるで、換気扇のフィルターを千年間放置したみたいな色だ」
リトが、かつてないほどの嫌悪感を露わにした。彼にとって、整理整頓されていない空間は、精神的な攻撃に等しい。
「リト様、あの島を覆っているのは『深淵のグリース』。……火を放っても燃えず、魔法で消そうとしても広がるだけの、最悪の防壁です」
セリナが、人魚族に伝わる恐怖の歴史を語る。
「大丈夫だよ、セリナさん。……油には、油を。……ただし、『洗浄用の油』を使うんだ」
リトは、クラーケン(クラちゃん)をバケツの中に入れ、特殊な薬液でシェイクした。
「クラちゃん、君の触手の先から、僕の魔力を込めた『クレンジング・オイル』を噴射して。……島全体を『オイルマッサージ』するみたいにね」
「合点だ、リト様! ……いくぜ、シュワシュワ・テンタクル!!」
クラちゃんが触手を伸ばし、島に向かって大量の透明なオイルを放出した。
グリースに触れたリトのオイルは、瞬時に汚れと混ざり合い、その「粘り気」を失わせる。
「今だ! アルテミスさん、王女様! ……上から一気に『洗剤の雨』を降らせて!」
「お任せください! 【聖剣奥義・大回転・界面活性波動】!!」
「【極大魔法・超高圧・バブル・ストーム】!!」
アルテミスの剣気と、フラウレルムの魔法が合体し、島全体を巨大な洗濯機のような激流が襲う。
オイルで浮き上がった汚れが、二人の攻撃によって一気に剥ぎ取られ、海へと流れ出していく。
「ギ、ギャアァァァッ!? 俺たちの要塞が……剥がされるぅぅっ!!」
島を守っていた魔族たちが、丸裸にされて海へ放り出される。
リトは、仕上げに戦艦『ベヒモス』の主砲を構えた。
「主砲、エネルギー充填。……洗浄モード:『ナノ・シルバー・コーティング』。……発射!!」
純白の光線が島を貫く。
光が通り過ぎた後、そこにあったのは、どす黒いヘドロの要塞ではなく――。
一面が真っ白な砂浜と、エメラルド色の岩場で構成された、天国のような美しいリゾートアイランドだった。
「……信じられない。あの地獄が、一瞬で……」
セリナが、リトの背中にそっと抱きついた。
「リト様。……あなたがいれば、この世界から『汚いもの』はなくなるのですね……」
「……リト様。……その人魚、今すぐムニエルにしてもよろしいでしょうか?」
アルテミスの静かな怒りが、島の気温を数度下げた。




