第36話:【急展開】「海の守護神」は寝癖がひどい。伝説のクラーケン、浮上。
海域全体の洗浄を終え、人魚族の村で盛大な「お礼の宴(といっても、リトは宴よりも村の石畳の苔取りに夢中だったが)」が開かれていた、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
海底から、大地震のような激しい揺れが襲った。
澄み渡った海が、底から巻き上げられた砂で白く濁り、海水の温度が急上昇する。
「何事ですか!? 地震……ではありません、このプレッシャーは!」
アルテミスが即座にリトを抱き寄せ(どさくさ紛れに密着し)、聖剣を抜く。
「……あ。あれ、すごい汚れだね」
リトが指差した先。
海底からゆっくりと、島一つはあろうかという巨大な「漆黒の影」が浮上してきた。
それは、数千年にわたり深海の泥の中で眠り続けていた伝説の魔獣――『クラーケン』。
だが、その姿は、人々の想像する「恐ろしいタコ」とは少し違っていた。
「……うわぁ。……吸盤の一つ一つに、巨大な『フジツボ』と『ゴミ』が詰まってる。……背中には、放棄された漁網と沈没船の破片が山積みだ」
リトの目には、クラーケンが「恐ろしい魔獣」ではなく、「数千年放置された巨大なゴミ屋敷」にしか見えなかった。
「……オ、オレの眠りを……邪魔したのは……どこの……どこの潔癖症だ……?」
クラーケンの巨大な目玉(直径十メートル)が、リトたちを捉える。
その目ですら、白目が濁り、目ヤニのような魔力のカスが固着して、視界が悪そうにシバシバさせていた。
「君、クラーケンさんだよね? ……それ、すごく痒くない? 特に、その三本目の触手の付け根。……古い角質が溜まって、カチカチだよ」
「……あ? ……ああ。……痒い。……死ぬほど痒いんだ。……でも、手が届かないし……誰も洗ってくれないし……。……もう、怒ったから世界を滅ぼす……」
クラーケンが、八本の触手を振り上げる。
一本の触手が叩きつけられるだけで、港町アズールは地図から消滅するだろう。
「待って、クラーケンさん! 滅ぼす前に、僕に任せて! ……君みたいな大きな『洗い甲斐』がある相手、一生に一度出会えるかどうかなんだ!」
リトの瞳が、これまでにないほどキラキラと輝いた。
彼は戦艦『ベヒモス』に飛び乗ると、全ての洗浄ユニットを「対巨大生物・スクラブモード」に切り替えた。
「アルテミスさん! クラーケンさんの身体を、僕が磨きやすいように固定して! 王女様、お湯を沸かして! エルナさんは……バケツの準備だ!」
「了解しました! クラーケン……覚悟しなさい。リト様の『丸洗い』を受けられる光栄を、その身に刻んであげましょう!」
伝説の魔獣クラーケン vs 世界最強の掃除屋。
未曾有の「巨大洗濯大作戦」が、今、幕を開ける。




