第34話:高圧洗浄の真髄! 沈没船ごと「丸洗い」の奇跡。
「グレート・カビ・マザー」が放つ、触れただけで魂を腐敗させる瘴気の霧。
だが、リトの放つ「聖なる高圧熱湯」の前では、それすらもただの「湿気」に過ぎなかった。
ズガァァァァァァァン!!
リトがノズルを向けると、厚さ十センチはあろうかというカビの層が、まるで見事な皮剥きのようにベリベリと剥がれていく。
剥がれた下の船体からは、数千年の時を経てなお失われない、古代オリハルコンの美しい輝きが露出した。
「アギャァァァッ!? 剥げる! 私の『重厚な鎧』がぁぁっ!!」
「鎧じゃないよ、それはただの『汚れの蓄積』。……ほら、隙間の汚れも逃さないよ!」
リトの動きは、もはや神業だった。
彼はノズルの角度を瞬時に変え、船体のリベットの一つ一つ、配管の奥深くまでをピンポイントで洗浄していく。リトが通った後は、鏡のように周囲の景色を反射するピカピカの通路へと変わっていった。
「……信じられない。あの忌まわしい沈没船が、まるで新造艦のように……」
エルナが祈りを捧げるのを忘れ、その光景に見入っていた。
追い詰められたカビの王は、最後の手段に出た。
船内に溜まった数千年分の「汚水」を一箇所に集め、巨大な黒い弾丸としてリトに放ったのだ。
「これを受けろ! 数万の死者の怨念を煮詰めた、究極の『万能汚泥』だ!!」
「……あ。それは、混ぜちゃダメなやつだ」
リトは冷静に、腰のポーチから一掴みの「白い粉」を取り出した。
それは、聖教会の地下で採取した高純度重曹に、リトの魔力を結晶化させた『神聖・重曹』。
リトがその粉を汚泥の弾丸に投げつける。
瞬間――。
シュワァァァァァァァァァァッ!!
凄まじい中和反応が起きた。
漆黒の汚泥は、まるでコーラにメントスを入れたかのような勢いで激しく発泡し、毒性を完全に失った「ただの炭酸水」へと変わってしまった。
「……ふぅ。これで中和完了。……あとは、仕上げの『拭き上げ』だね」
リトが指を鳴らすと、船内全体を包むように巨大な「魔導ワイパー」が発生した。
それが一往復する間に、カビの王は存在そのものを洗浄され、小さな一欠片の「無害な胞子」となって、深海の砂へと還っていった。
船内の全電力が復旧し、古代の魔導回路が再び青い光を灯す。
死の沈没船は、今、人類最強の「動く拠点」として再起動したのである。
「よし、この船をベースにして、海底全体を『スチーム洗浄』していこう!」
「……リト様。この船、主寝室がとても広いですね。……さあ、汚れを確認しに行きましょう。二人きりで。隅々まで」
アルテミスが、一番乗りで王室風のベッドルームへと駆け込んでいった。




