第33話:深海の「ゴミ屋敷」。沈没船に巣食うカビの王。
リトたちの乗ったバブル・ドームが海底に到達したとき、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
かつて栄華を極めた古代都市の残骸。それが、どす黒い「粘液」と、巨大な「綿埃のようなカビ」に覆い尽くされ、異形の魔窟と化していたのだ。
「……これは、掃除のレベルを超えてるわ。……まるで、海そのものが腐っているみたい」
ネフィリムが、窓の外のドロドロとした景色を見て顔を顰める。
「ううん、ネフィリムさん。これはただの『換気不足』と『有機物の腐敗』だよ。……ほら、あの沈没船を見て。……あれがこのエリアの『カビの発生源』だ」
リトが指差したのは、全長数百メートルに及ぶ、巨大な魔導戦艦の残骸だった。
その船体からは、まるで触手のような「黒カビの根」が四方八方に伸び、周囲の海底火山から噴き出す魔力(栄養分)を吸い取って増殖し続けていた。
「あれは……伝説の魔導戦艦『ベヒモス』……! 数千年前、魔王軍が神々に挑むために造った、呪いの旗艦です!」
セリナが震えながら教える。
「よし、あそこを『根こそぎ』掃除しよう。……アルテミスさん、エルナさん。船のハッチを開けるために、少し力を貸してくれる?」
「了解しました! リト様の掃除を妨げるカビの根……一刀の下に、燃えないゴミにして差し上げましょう!」
アルテミスがドームの外へ飛び出した。
本来なら水圧で潰されるはずだが、彼女の体にはリトが施した「高圧洗浄耐性」が宿っている。彼女は水中にありながら、地上と変わらぬ速度で剣を振るった。
「【聖剣・旋回・脱水斬】!!」
アルテミスの剣が渦を巻き、沈没船にまとわりついていたカビの触手を一気に切り刻む。
切り離されたカビは、リトがドームから散布した「強力除菌剤」に触れて、シュワシュワと泡になって消えていく。
一行は船内へと侵入した。
内部はさらに悲惨だった。かつての乗組員たちの無念が「脂ぎった汚れ」となって壁を覆い、中央の動力室には、カビの王――『グレート・カビ・マザー』が鎮座していた。
「……キ、キサマら……我らが……聖域を……洗うな……っ!」
「あ、喋った。……でも、君、ちょっと『油汚れ』がひどすぎて、声がこもってるよ」
リトは、背負っていた高圧洗浄機(魔力駆動・バケツ連結型)のノズルを構えた。
「まずは、その頑固な表面汚れから落としてあげるね。……温度設定は『熱湯モード』で!」
海底三千メートルの冷たい闇の中で、リトの放つ「聖なる高圧熱湯」が炸裂した。




