12話―② ロックエッグ&バードのオムライス!
草原に点在する巨石に、ロックバードは巣を作る。
サクッと一羽狩ったクライドが、シャルロッテたちの元まで戻ってきた。セオドアの持つ網袋の中には、すでに彼が収穫してきたロックエッグが六匹いる。
彼女はフライパンやボウルを良い感じに机上へ並べながら、目にも留まらぬ速さで解体されていくロックバードをしみじみと眺める。
「なんだか、魔物の王が怒るのもわかる気がするわね。美味しいから、つい、食べに来ちゃった」
クライドが、全くしみじみとせずに言う。
「こいつらも虫とか食ってんだぞ。乱獲してるワケでもねぇし食物連鎖だよ」
セオドアが、飯盒で米を炊く準備をしながら教会発行の『騎士のしおり』で得た知識を披露する。
「大丈夫です、増えすぎないように個体数を調整するのも生態系を守る手段ですから。――ところで、こっそり包丁を握らないで! オレたちが見てる前にして……!」
「そんな、大丈夫よ……」
血相を変えて止められた。解せない。
食材が出揃ってから、クライドがタマネギをみじん切りに――しようとすると、シャルロッテが横からにゅっと顔を出した。
「私もやってみたいわ」
「お……おう。まあ、生活力は付けてて損するモンじゃねえけど……気を付けろよ」
彼女の手付きが怖いとセオドアから報告を受けているクライドが、やんわりと牽制しつつ包丁の柄を差し出す。
シャルロッテは、それを握ると、左手はちゃんと猫の手にして添えて――ダンッ! とタマネギを真っ二つにした。勢いが良すぎて、兄弟が震えた声を出す。
「怖ぇ……」
「あぁあ力を入れすぎなんですってぇ……! もっと軽くスッて感じで……!」
こうかしら、と言いつつ、今度は軽くギコギコし始める。全然進まないので、クライドが横から手を出した。
「ここ、握って。もっと力入れていいから。ん、動かしてみろ」
「……こう?」
「ああ、上手い上手い」
自然と二人の距離が近付くが、彼の表情に一切の下心が見えなくて、セオドアは尊敬と同時に困惑した。
――本当……兄さん、シャルロッテの何なんだ……。
保護者というのが近いのか、クライドはみじん切りの仕方をレクチャーしている。
「半分にしたら――ほら、ここ、繋がってるだろ。これを残して、等間隔に切れ込みを入れる」
「薄切り未遂みたいな感じね」
「薄切りの概念はあるんだな。あとは――こう」
切れ込みが入ったら、次は包丁を水平にして同じように頭を残して切っていく。
「これが終わったら、端からトントンするのね。……でも、ちょっと難しい……引っかかるわ」
それには、セオドアが口を出す。
「じゃあ、半分にしたら、放射状に切れ込みを入れておいて端から刻むとか」
クライドも軽くうなずく。
「そうだな、基本は基本でしかねぇし、やりやすいのが一番いい」
「なるほど……クライドは、いつもこの方法?」
「自分しか食わねぇし、面倒な時は手で粉砕してる」
「粉砕」
どうすればタマネギがそうなるのか、聞かされた二人は全然わからなかった。
二人の助けを借りながら、タマネギを切り終えたシャルロッテ。
「できたわ。今日は目に染みないのね」
それもそのはず、クライドが彼女へ目に染みる成分を飛散させまいとタマネギをしっかり冷やしたし包丁も研いでおいた。
みじん切りになったタマネギは、クライドがフライパンで加熱する。次に、小さめのぶつ切りにしたロックバードの肉――本来は歯ごたえ抜群なのだが、クライドが剣で繊維をズタズタにして普通の鶏肉レベルになっている――を入れる。
「あとは塩、コショウ、砂糖、好みでコーンとかマッシュルーム。バターも入れとくか」
「あら、卵にも使うのに?」
「こういうのは正気になったらお終いだからな」
溶けたバターの香りが、ふわりと広がる。そこに、トマトケチャップとトマトピューレが入って甘酸っぱい香りも漂ってきた。
「まあ、全部ケチャップでもいいんだけどな。トマトピューレも使うと、くどくならない」
一人分を残して具材を退避させたら、最後に炊き上がった白米を混ぜ込む。味が馴染んでケチャップライスにツヤが出てきたら、皿に移してヘラで形を整える。
「包みたかったら、卵の上に戻すけど」
と言いながら、ロックエッグを剣で割り、高速で溶き卵を作っている。
「それじゃあ、かぶせるだけで」
「おう」
牛乳、塩コショウを加えて、バターでふんわり半熟に焼かれた卵がケチャップライスの上につるんと乗せられる。
ちぎっていたサニーレタスとプチトマトをセオドアが添え、クライドがケチャップの瓶とスプーンをシャルロッテに渡す。
「ほら、好きなだけかけろ」
「ええと、そうね――」
それを受け取って、ちょっと迷って、控えめに卵の黄色へ赤を差す。
「――できたわ。ロックエッグとロックバードのオムライス……!」
自分も少し手伝ったためか、いつもより無邪気に顔を見てくる彼女にクライドたちは目を細める。
「俺たちは後でいいから、冷めない内に食え」
「ええ、ありがとう。いただきます」
実を言うと、二人の分が出来上がるのを待っていたらお腹が鳴りそうだった。
スプーンで綺麗にすくったミニオムライスを口へ運ぶ。下は甘みのあるケチャップライスに、上はバターの香り豊かなコクのある半熟卵。
「ん、ふふっ。美味しさが、ぎゅ〜ってしてる感じ。お米と卵って合うのね、はじめての組み合わせかも」
シャルロッテが満足そうなのを見て、セオドアも満足そうにサニーレタスをむしる。
「ああ、東方で生まれた料理なので、こちらでは少し珍しいかもしれません」
「そうなのね。ごろっとしてるお肉も、ぷちぷちで甘いコーンもいいアクセントだわ」
シャルロッテがゆっくり楽しんでいる内に、ぱぱっと作られた新たなオムライスをセオドアが食べる。
「うんっ。美味しいですね……!」
「ねっ」
同じものを食べて、シャルロッテと微笑み合う。
それを横目に見てから、クライドは手元のフライパンに視線を戻して――ふと気が付くと、自分がチキンライスを炒めながら微笑んでいたので口元に手を当てる。
料理は、別に、趣味というわけではなくて。食べるためにやっている行為に過ぎなくて。それならばこの感覚はなんなのかと、微かに苦笑を浮かべてからオムライス作りを続行した。
完成したオムライスをクライドが食べていると、先に食べ終えたシャルロッテが体を傾けてのぞき込んでくる。
「ねえ、クライド」
「ん?」
「明日、少し時間をもらってもいいかしら? 契約の更新について、お話したいの」
表情はいつもと同じ、穏やかな微笑みだから、このまま何事もなく契約更新なのだろう。
クライドは、少し考えてから
「わかった。店押さえとく」
と、いつもの調子で返答した。




