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キラキラでペケペケ  作者: 渡瀬 理央


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3/4

それは連休の最終日にありがちなこと

 武田は自室の特等席、ソファーの上で相も変わらずスマホによるザッピングを繰り返していた。今日で連休も終わる。寝て起きれば、また次の休みまで月曜日から金曜日までコピーしたような日常が始まってしまう。社会人になりたての頃は、積極的に何かを始めようと色々なことに手を出してみたが、長く続いたものは一つも無く、武田に手元に残ったものは有効期限の切れたジムや図書館の会員証だった。

 そんな金太郎飴のような毎日に「自分は特別じゃない、こんなもんだ」と折り合いをつけた時、武田の気持ちは楽になった。何かを始めると結果が欲しくなる。そして、その結果を自分では手に入れることは出来ない。ならば、最初から何も始めない方が良い。自分を凡人だと決めつけることが武田にとっての処世術になった。

 10時過ぎにようやく体を起こし、昼まではダラダラと過ごし、冷蔵庫の賞味期限の近いものから適当に物色し、また夕方まで怠惰に過ごす。いつもと変わらない休日。そんな不変な午後に変化は訪れた。

 玄関のチャイムが鳴ったのは、武田が今日、3杯目のコーヒーを沸かしにキッチンへ向かう時だった。普段なら無視することが多いが、リビングよりも玄関に近いキッチンに居ることが分岐点になった。本当に気まぐれ。勧誘やセールスならば適当に話を合わせ、退散願おう。

 玄関のドアを開けると現れたのは隣人の長尾さんだった。手にはビニール袋を両手に持っていた。

「こんにちは、スーパーで半額商品が大量にあったので…一緒にどうかなって」

 確かに、最寄りのスーパーでは夕飯に向けて値引きシールが張り出される時間帯だ。武田もその恩恵を多分に味わっている。しかし、相手は物干し台を組み立てただけの隣人。おまけに若い女性。武田がどうしたものかと悩んでいると、長尾さんは少し困った顔になる。

「私の家、ホットプレート無いんです」

 ビニール袋の中身を覗き見ると、中には大量の肉、肉、肉。鳥、豚、牛。ホルモンまである。焼肉屋で食べれば万超え確定の量とレパートリーだ。長尾さんはこの量を1人で食べるつもりだったのだろうか。

 夕飯を冷凍食品で済ませようとしていた武田にとって、この肉の祭典は非常に魅力的なものだった。


 結局、武田は長尾さんを招き入れた。現在は、武田が食卓にホットプレートと取り皿を準備し、長尾さんが「どうせ食べるなら美味しく食べましょう」と提案し、ネギ塩タレとニラを叩いて調味料で和えたニラペースト、タレをキッチンで準備しているところだ。

 準備を終え、着席する両者。ホットプレートの周りには半額シールの張られた食材が所狭しと並ぶ。

「どれからいきましょう?」

「最初はタンじゃない?」

「ですよねー。時間の掛かるホルモンと野菜は脇で美味しくなってもらいましょう」

 ホットプレートの中心にタンの花が咲く。脇には純白のホルモンがテラテラと油光しており、その油を囲むネギ、輪切りにされたニンジン、タマネギが油を吸い、両者のWIN-WINの関係を築く。完璧なフォーメーションだ。今ならヴィニの居ない完璧なレアルにも勝てるのではなかろうか。

「タンは片面焼けたらひっくり返して20秒。です!」

 長尾さんの講釈を無視して武田はじっくりと自分のテリトリーのタンを育てた。半額シールの張られた肉達は鮮度で劣るので焼きでカバーしてやる必要がある。長尾より更に20秒火を入れたタンにネギ塩を乗せ肉で巻く。レモンとゴマ油と調味料だけでこんなに幸せになれるだなんて。口いっぱいに広がるレモンの酸味、タンには無い油分をゴマ油が補い、タンの弾ける弾力。完璧だ。今なら絶好調のロドリが王様をやってるバルサにも勝てる。

「武田さん、ロースいきましょう、ロース」

 長尾さんもエンジンが温まってきたようだ。武田は口の中の幸せを噛み締めたまま、パックのロースのヴェールであるビニールを強引に剥がし、かつてタンの居た空いたスペースに供給する。更に充分に火の通ったホルモン達を引き上げ、豚バラをぶち込む。

 二人の永久機関は時に焼きのスピードを追い越し、ホットプレートの上が野菜だけになることもあった。すかさず、武田は冷蔵庫からキムチを取り出し、ホットプレートのへIN。

「何してくれるんですか!」

 長尾さんの肉道に匂いの強い焼きキムチは無いらしい。残念な娘だ。価値観、アップデートしていこうぜ?レタスの上にカリカリになった豚バラを2枚、焼きキムチを乗せ、ネギ塩タレを小さじ半分のせ巻く。本来のサムギョプサルはレタスでは無くエゴマの葉やサンチェだが奴等は高い。その分、肉に回した方が満足度の高いパーティーは成立しやすい。無言で長尾さんに差し出す。

「食ってみろ、飛ぶぞ?」

 長尾さんは受け取ったサムギョプサルもどきを咀嚼する。ものの数秒で嚥下した。

「これが…大人の焼肉…」

 項垂れた長尾さんは頭をガックリと下げるが、右手は武田へしっかりと伸ばしていた。ワンモアらしい。

「自分で黄金比を決めるのも楽しいぞ?」

 長尾さんは顔を上げ、「その手があったか!」と、目を輝かせ、武田の作ったオーソドックスな比率を自分好みにカスタマイズし、掟破りのレタス2枚作戦を決行した。普通のカスタマイズは肉の量を増やして3流、タレを減らして2流。1流は野菜を増やす。この若さでそこに行き着くとは将来有望である。いや、将来サムギョプサル食べる鉄人を彼女が目指しているのかは知らないが。

「ハーモニー!ハーモニー!」と壊われかけのラジオの様に連呼する長尾さん。武田は長尾さんを飛ばすことに成功した。

 締めは当然、鳥だ。一見、安価だからという理由だけで下に見られがちだが、締めという一点にフォーカスした場合に限り、鳥に勝てる部位は存在しない。骨付きの手羽を手掴みで喰らう。この原始の喜びが「焼肉」と言う肉の摂取のフィナーレを体現する。

「もう…動けません」直りかけのラジオの長尾さんを椅子で休ませ、武田はテキパキと後片付けに入る。どうしても油が飛び、匂いも残りやすい。換気扇や空気清浄機をフル稼働させ、テーブルと椅子を足まで拭き取る。匂いはまだ残るが粗方の片付けを終えた武田は冷凍庫からアイスクリームを長尾さんへ。

「油、切っておきな」

 満腹と思っていた腹に不思議と入るアイスクリーム。このスペースをこれ以上に有効活用する方法を人類はまだ知らない。


「今日は本当に楽しく、美味しい夕食でした」

YAKINIKU・HIGHから解放された長尾さんは冷静さを取り戻し、深くお辞儀すると材料代を受け取らず、自室へ戻った。武田も長尾さんより早くヤキニク・シンドロームから離脱期を迎えており、我慢していた一服を求めてベランダへ。今日はいい1日だった。たった1食で何か大きなイベントをこなしたようだ。3連休最後の夕食。これだけで明日からの労働に耐えられる。そんな勘違いをさせるには充分に楽しい時間だった。


 今日の発見。長尾さんは旨いものを食べると目尻が下がり、タヌキのような顔になる。

 5000文字近く書いていましたが、男女2人がただ、肉を食べているだけなので大分カットして今回のような形になりました。ほのぼのしながら食べる家焼肉。楽しいので是非。

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