それは3月の昼間の工作
3月21日土曜日。3連休の中日も昨日と同じ、何の生産性のない午前中が終わってしまった。目覚まし時計の要らない生活の素晴らしさよ。
それでも午後には予定が入っていた。新しく引っ越して来た隣人、長尾という女性から物干し台の組み立てを依頼されているのだ。正直、気乗りは全くしない。着替えるのも面倒だし、何で俺が。と、思わなくもない。だが、一度引き受けた約束を破るほど武田は不義理でも無かった。
無精ひげを電動シェーバーで整え、部屋着からジーパン、黒のロングTシャツに着替える。準備は5分で終わった。何だかんだ約束の時間の15分前に支度が済んでしまったのが張り切っているようで気恥ずかしかった。しかし、その気恥ずかしさを裏切るように玄関のチャイムが鳴る。
玄関の覗き穴から見ると、顔は俯いていて確認出来ないが女性らしき人物が立っていた。配達業者の制服を着ていないことから、この娘が新しい、隣人、長尾で間違いないだろう。
玄関を開け、初めて目が合う。長尾はブラウンのワンピースにサンダルという、武田にも負けないラフなスタイルで現れた。長い黒髪こそ綺麗に整えられているが、美容意識の低い武田にナチュラルメイクとスッピンを見定める術は持っていない。ジロジロ見るのも失礼かと思い、さっさと要件を済ますことを選んだ。
「ちゃんと挨拶するのは初めてだね。武田です、宜しく」
「昨日、引っ越してきた長尾です。今日は無理言って」
長尾は深々とお辞儀をした。見た目の年齢は20歳前後。「しっかりした子だ」武田の長尾に対する第一印象はこれだけだった。
「じゃあ、早速やっちゃおうか。物干し台はベランダかな?」
「はい。ただ…昨日越して来たばかりで部屋の中が汚くて…」
「最初は誰でもそんなもんさ」
長尾は物干し台を共用廊下まで持ってくることも提案したが、完成品をベランダまで運び込む腕力が彼女にはないだろう、2人で運んでも結局、部屋に入ることになると反論するとベランダで組み立てることを渋々飲んだ。
間取りの同じ部屋とはいえ、置いてある荷物が違えば印象は大分変る。彼女の家にはまだ開梱されていない大量の段ボールが積み上げられていた。申し訳程度に2.3枚の畳んである段ボールがあるが、これが昨日の成果だろう。部屋に対するコメントは避け、二人はベランダへ向かった。
「これです…」
そこには大小様々な長さの金属棒が転がっていた。うん。全く進んでいない。完成形のイメージすら沸かない。
「説明書は?」
渡された説明書は格安品らしく中国語で書かれていた。説明書の図面を頼りに作業を始める。
「あの、翻訳サイトとかで見た方が」
「あーこの位シンプルな組み立てなら、図面だけでイケるんじゃないかな」
私生活はスマホにドップリ依存しているが、翻訳アプリの使い方がわからない。何とも駄目な男である。しかし、物干し台は苦戦することなく10分程度で完成した。
「ありがとうございますっ!助かりましたっ!」
長尾は再び深くお辞儀した。そして、これまで困った顔しか見たことが無かったが、笑顔を初めて見た。彼女にとっては大変な作業だったかもしれないが、武田にしてみれば苦労の内には入らない。
「じゃ、俺はこれで。荷物のバラし頑張ってね」
言い残し、武田は長尾家を後にする。
夕飯をストックしてある冷凍食品で済ませた武田は食後の一服を楽しもうとベランダへ出た。
今日の発見。長尾さんは工作は苦手だが笑顔が可愛い。
キラキラでペケペケ。タイトルは結構気に入ってます。恋愛のキラキラしたところと、✖✖→上手くいかないところをペケペケとしました。




