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8話

※イラストおよび校閲にAIを使用しております。

王都アストレオンを出立してから、馬車に揺られること四日目の朝を迎えていた。ジェラール元帥ら南軍幹部の乗る馬車が列をなし、俺とコレットはその最後尾に連なる護衛付きの馬車に乗っている。


窓の外を流れる景色を眺めながら、俺は深く息を吐き出した。


「たかだか130キロの道程に四日もかかるとは。馬を休めるだの夜間行軍は危険だの……」


南部最大の都市ヴァラリアまでの道中、街道沿いの宿場町で三泊したのだ。効率化のために無理な移動を繰り返していたゲーム時代が、懐かしく感じる。


「まったく、テオドール様にはまだまだ常識を覚えて頂かないと困りますね。替え馬や夜間行軍なんて、相当な緊急時ですよ! 馬は貴重ですし、野盗だって出るんですから!」


コレットが腕を組んで俺をたしなめる。非常識なのは俺のゲームプレイの方だったようだ。


「分かった分かった……それにしても、王都の近郊は活気があったが、随分と寂しくなってきたな」


東の彼方にそびえる険しい山脈を背に、街道沿いには肥沃な穀倉地帯が広がっている。それとは裏腹に、すれ違う民の表情は一様に暗い。ジェラール元帥から聞いていた通り、半ば強制的な徴用で『戦士の才』持ちの男を奪われた農村は、想像以上に疲弊しているようだった。


(国土を守るために民の首を絞める。まさに負のスパイラルだな)


暗澹たる現実を噛み締めていると、やがて地平線の先に巨大な街の輪郭が浮かび上がってきた。アストリア南部の最大都市、農耕都市ヴァラリアだ。


街に近づくにつれて街道を行き交う荷馬車が劇的に増え、巨大な蔵が立ち並ぶ光景には圧倒される。だが、その活気も南軍の本部へ近づくにつれて霧散していった。


目抜き通りを抜けた先に現れたのは、横一面に広がる無骨な防壁。南軍の軍事基地だ。


巨大な門を抜けた瞬間、空気の質が劇的に変わった。そこは商業区とは完全に切り離された、鉄と血、そして強い薬草の臭いが混じり合う別世界だった。


前方の道からは、血まみれの布を巻いた負傷兵を満載した馬車が、車輪を重く軋ませながら向かってくる。兵士たちの顔に生気はなく、くぐもったうめき声が空気をさらに重く沈めていた。


(酷い有様だな……ゴブリン相手にこのザマとは、ゲームでは考えられない惨状だ。前線はそんなに酷い状況なのか?)


その日の夜、南軍司令部で大がかりな夜会が開かれた。


次々と挨拶に訪れる武官たちを、俺は愛想笑いと毒にも薬にもならない言葉で受け流した。表面上は恭しく振る舞っていても、その視線は俺を便利な『神輿』として値踏みしているのが隠せていない。


(俺から能動的に動いて、この司令部を引っ張り回してやる)


挨拶の波が途切れた隙を見計らい、俺は会場の奥にいたジェラール元帥へ歩み寄った。


「元帥、少しよろしいですか」


「おお、殿下。今夜はゆっくりと英気を養ってください。ヴァラリアの生活に慣れるのが先決でしょう」


柔和な笑みを浮かべて労う元帥の目を、俺は真っ直ぐに見据えた。


「ゆっくりしている暇はありません。明日、さっそく前線の状態と実際の戦闘を視察したい」


元帥の笑みが微かに引きつる。


「……到着したばかりです。まずは安全な後方で準備を――」


「お飾りの将官になるつもりはないと、王都で申し上げたはずだ。現場をこの目で確かめないことには、俺自身の戦果も、南軍の未来も描けない」


周囲の喧騒が消えたかのように、俺と元帥の間に緊迫した沈黙が流れる。やがて元帥は観念したように、小さく息を吐き出した。


「……相変わらず、強引なお方だ。分かりました。明朝、視察の準備を整えさせましょう」


「感謝します、元帥。楽しみにしていますよ」


俺は満足げに頷くと、再び武官たちの輪へと戻っていった。

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