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6話

※イラストおよび校閲にAIを使用しております。

大広間を出ると、手招きするジェラール元帥の後に続いて回廊を黙って歩いた。王宮の外には実用性を重視した堅牢な馬車が待たせてあり、俺はジェラール元帥と二人きりでそれに乗り込んだ。


王都の石畳を鳴らす車輪の音が、密室となった馬車内に重く響く。向かう先は、王都の一角にある南軍省だ。


「さて殿下、ようやく敵だらけの王宮を抜け出して、ゆっくりとお話しできますな」


「まったく、王宮内でおちおち話もできないとは悲しい限りです。先ほどの助太刀、改めて礼を言わせてもらいます。おかげで廃嫡と国外追放を免れましたよ」


「いえいえ。国王陛下に当然の忠言をしたまでのこと。母君を亡くして塞ぎ込んでいたことを理由に第一王子を廃嫡とは、理不尽極まりない話。宰相殿も随分と拙速な仕掛けをするものです」


テオドールの記憶を遡っても、このジェラール元帥、ひいては南軍の政治的立場に関する有益な情報は出てこない。だが、口ぶりからして、宰相や現王妃の属する親エクイタニア派でないことは明らかだろう。


(どうやらきな臭い政争に巻き込まれているらしい……まずは純真なフリをして様子を見るか)


「そこで義憤に駆られてあのような手助けを? まるで、正義の騎士ですね」


俺は目を輝かせ、十五歳の少年相応の反応を示してみせる。


ジェラール元帥は一瞬だけ目を丸くして、声を上げて笑った。


「ハッハッハッ! 正義の騎士ときましたか。まったく、そうありたいものですな。さて、我々の根城に着きましたので、中で続きと致しましょう」


到着した南軍省の建屋は、省庁にしてはひどく貧相なものだった。


おそらくは没落した貴族の屋敷をそのまま居抜きで使っているのだろう。南軍の本隊は王都ではなく南部の都市にあるため、この程度の建屋でも事足りるのかもしれないが、中央政治において冷遇されていることは明白だった。


屋敷を慌ただしく出入りする武官や兵士たちが俺たちに気が付くと、仰々しく敬礼して入口までの道を作った。俺は居心地の悪さを感じながらも、威厳を保つべく可能な限り堂々と歩くように努めた。


そのままジェラール元帥の執務室に通され、俺は分厚い執務机を挟んで元帥の向かいに座らされた。


「それでは殿下。恐縮ですが、単刀直入に申し上げます」


微笑みを浮かべたまま、ジェラール元帥は一度言葉を切り、静かに話を続けた。


「今更、戦士としての鍛錬を積むことはお勧めしません。そもそも、王族が最前線に出るなど前代未聞。白兵戦など以ての外です。後方指揮の経験を積んだという名目さえあれば、ゆくゆくは将官に任ぜられるお立場。高貴な命を危険に晒す必要は無いと思いますが?」


至極まっとうな意見だ。


だが、彼が純粋な善意でそのような提案をしているとは到底思えなかった。目の前にいるのは、血で血を洗う戦場と泥沼の出世競争を生き抜いてきた軍のトップなのだ。


「もっともな指摘ですね。辣腕な元帥のことだ。たとえ俺に戦略家としての才が無くとも、無事に実績を積み上げられるようお膳立てをしてくれる……そういう話ですか?」


元帥は小さく笑った。


「ハッハッ! 見くびっては困りますな、殿下。王子とはいえ、血筋だけで大軍の指揮は任せられません。しかし、南軍総出で殿下の立身出世のお手伝いはさせていただきますよ。少なくとも南軍の要職に就きさえすれば、そう簡単に廃嫡やら国外追放の憂き目に遭うことはないでしょう」


(なるほど。これが本音か)


俺に恩を売り、南軍の神輿として担ぎ上げる。そしてジェラール元帥は俺の背後で院政を敷き、王宮内での政治力を高める。そんなところだろう。


俺はしばらく考え込んでから、元帥の方へスッと身を乗り出した。ここからは、無知な少年の演技は不要だ。


「言葉を返すようですが、俺を見くびらないでほしい。元帥こそ、何をそんなに焦っているんですか?」


俺の言葉に、ジェラール元帥の眉がピクリと動いた。


「閣下の政治力と南軍の発言権を高めるために俺を引き込む狙いでしょうが、宰相らの敵意を買ってまで強行する意味が理解できません。内情を腹を割って話してくだされば、俺も相応の『協力』ができると思いますよ」


不快な沈黙が執務室を包み込む。


ジェラール元帥の顔からゆっくりと笑みが失われ、みるみるうちにナイフのような鋭い眼差しへと変わっていった。


「……ほう。引きこもりの無能王子と聞いていたが……随分と頭は回るようだ」


空気が張り詰め、肌がヒリヒリとするような重圧がのしかかる。


「いいでしょう。それではまず、我々『親イオシア派』の置かれている状況をご説明いたしましょう」


ジェラール元帥はそう言って重い溜息をつき、机の引き出しから度数の高そうな蒸留酒の瓶を取り出した。

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