5話
※イラストおよび校閲にAIを使用しております。
宰相マザランが俺を鋭く睨みつけ、声を荒げて反発した。
「陛下! そ、そのような戯言に耳を貸してはなりませぬ! この者はこれまで自室に引きこもり、公務を放棄してきたのですぞ!」
それに追従するように、王妃イザベラも国王へと詰め寄る。
「マザランの申す通りですわ、陛下。今すぐこの者を廃嫡とし、さっさとイオシアに送るべきです!」
王妃と宰相の勢いに気圧され、国王は何度か口を開きかけては言い淀んでいた。やがて諦めたように大きなため息を吐き、玉座に深く座り直す。
(くそっ。ダメか。イオシアに送られたら死ぬまで幽閉されるのがオチだ。護送中に抜け出す算段をつけるしかないか……)
俺が絶望の底に沈みかけた、その時。突然、低く逞しい声が大広間に響き渡った。
「なんとも立派な志でしょうか! 我が軍は歓迎致しますぞ!」
重厚な軍靴の音が、大理石の床に力強く響いた。列席者の中から軍服に身を包んだ壮年の男が進み出て、俺の隣に並び立つ。
「ジェラール元帥、なんの真似だ! 南軍の出る幕ではないぞ!」
(南軍元帥……たしかアストリアには北軍と南軍、二つの軍集団があったはずだ)
テオドールの記憶を遡る。アストリア王国は、北方を大国エクイタニアと中堅国イオシアに接し、南方からはゴブリン共に圧迫されている。北方の国境線を守るのが北軍、南方のゴブリンを抑えているのが南軍だ。
「国王陛下、テオドール殿下の心意気をどうか受け止めて頂きたく。一人の若人が国家に殉ずる決意を示しておるのです」
宰相の怒声を意に介さず、この精悍な男は平然と言い放つ。
「ジェラール。テオドールは十五にもなって剣も握ったことがない。それが最前線とは、死にに行くようなものではないのか?」
国王は、即座に反論しようとする宰相を手で制して問うた。その表情には、王子の追放という厄介な決断を先延ばしにする口実を得て、密かに安堵している色が滲んでいる。
「恐れながらご指摘の通りかと。テオドール殿下、安全な後方司令官がよければそのような席も用意できますが、いかがいたしましょう」
俺はまず廃嫡と国外追放を避けなくてはならない。だが、その先にある『世界統一』というクリア条件――千尋を救う奇跡を手にするためには、いずれこのアストリアの軍権を完全に掌握しなくてはならない。返事は決まっていた。
「ジェラール元帥。お飾りになるのはごめんです。弟が生まれた今、民の盾となって最前線に立つことに一切の憂いはございません」
「引きこもりにしては天晴な心構えですな。陛下、ここまで申しておるのです。我が南軍で最低限の訓練を積み、すぐに最前線で務めを果たしていただきましょう。よろしいですかな?」
ジェラール元帥に対して再度異議を唱えようとした宰相を、国王は力強い声音で制した。
「うむ。不肖の倅をよろしく頼む、ジェラール。テオドールよ、お主の心変わりが本物かどうか命をもって証明するのだ。それまで、廃嫡の判断は延期とする」
宰相マザランは忌々しげに顔を歪め、無言で一歩引き下がった。
俺は周囲から向けられる鋭い視線を感じながら、ゆっくりと、そして深く頭を下げる。
「深く感謝申し上げます、国王陛下。そしてジェラール元帥。必ずや最前線で戦果を挙げ、己がアストリア王族としての資質を備えていることを、この命をもって証明してみせます」




