4話
※イラストおよび校閲にAIを使用しております。
俺は連行されながら、逆転の方法を必死に考えていた。
『転生』や『この世界』についての疑問は絶えないが、今はこの危機的状況を打破することに全力を注がなくてはならない。
階段を下へ下へと降り、回廊をしばらく進むと仰々しい大扉が前に現れた。近衛兵が声を上げると内側から扉が開かれ、豪奢な大広間が広がる。
両脇には貴族や官僚が並び、正面には曇った表情のルイ国王と、冷徹な目を向ける現王妃のイザベラが並び座っていた。
王妃の脇には笑顔を貼り付けた宰相マザランが控えている。
「アストリア王国第一王子、テオドール殿下の御成り!」
近衛兵が声を張り上げ、俺の背中を小突いた。
向けられる侮蔑の視線に、テオドールのトラウマが膨れ上がるのを感じる。俺は、その縮んだ心を必死に震え立たせる。
(ここで逃げ出したらそれこそ終わりだぞ! あの世で母に情けない報告はしたくないだろう!?)
ボサボサの髪、よれた寝衣、目脂のこびりついた顔。華やかな式典にはあまりにも不釣り合いな格好だが、せめてもと胸を張って堂々と歩む。
列席者の心無い言葉が耳に入るが、構ってなどいられない。
俺が王座の正面で膝をつき首を垂れると、進行役の役人が口上を読み上げた。
「本日ここに、アストリア王国第一王子、テオドール殿下が十五の春を迎えられ、成人の儀を執り行う運びとなりました」
よく通る声が、大広間に響き渡る。
「殿下におかれましては、アストリアの未来を担う者として健やかに成長されましたこと、誠に喜ばしく――しかしながら」
役人の言葉が途切れ、声の調子が次第に冷たく硬いものへと変わる。
「殿下は数年間にわたって公務を放棄し、自室にこもり続けておられます。のみならず、我らがアストリア王家に代々受け継がれる『雷魔法』の素養も、未だ開花する兆しを見せておりません」
広間がざわめき始める。役人は王子としての資質を糾弾し続ける。
「かかる事態は、王族の資質として甚だ憂慮すべきものであります。果たして殿下にこの国を背負う覚悟はおありか。我らは疑問を抱かざるを得ません」
役人が言葉を切ると、打ち合わせていたかのように宰相マザランが一歩前に出た。彼はわざとらしく胸に手を当て、声を張り上げる。
「陛下! テオドール殿下に王位継承の資格がないことは明らかでございます! 大変心苦しくはありますが、殿下を廃嫡とし、亡き母の故郷イオシアへ帰還させることを提案いたします!」
列席者からもそれを支持する声が上がる。王妃イザベラも国王に向かって微笑みながら何やら語りかけている。
国王は曇った表情のまま俺を見据え、逡巡しているようだった。第一王子の廃嫡なぞ国家の未来を揺るがす一大事。そのような判断をしなければならないことを酷く恐れているように見えた。
(頼みの綱は、テオドールの記憶にあった父王の優柔不断さだ)
王が仕方なく決心して口を開きかけたその瞬間、俺は声を張り上げる。
「国王陛下! 申し上げたき儀がございます!」
広間は一瞬にして静寂に包まれた。俺は言葉を続ける。
「私は母の死後、悲しみのあまり塞ぎ込み、王子として果たすべき義務を長きにわたって怠ってまいりました。深く、お詫び申し上げます」
俺は床に額がつくほど深く頭を下げる。
「また、アストリア王家に伝わる雷魔法の才を受け継げなかったことも、私の力不足の至り。皆様の失望はごもっともであり、廃嫡の議論が上がるのも当然の帰結と受け止めております」
そして顔を上げ、国王の目を真っ直ぐに見据えた。
「ですが、どうかお願いでございます。亡き母が心から愛したこの国、そして国王陛下のために尽くすチャンスを、今一度私に与えてはいただけないでしょうか」
王の目がわずかに見開かれる。俺は懇願を装いつつ、逆転を目指した一手を放つ。
「私には戦士の才しかございません。であれば、私が国家に貢献できることは軍務くらいのもの。どうか、最前線での従軍をご許可ください!」
広間にどよめきが走る。将軍や指揮官ならいざ知らず、王族が最前線へ向かうなど、前代未聞の申し出だった。予想外の言葉に、国王は目を丸くして言葉を失い、王妃と宰相の冷ややかな笑みも微かに凍りついている。
今日この場をやり過ごしたとしても、いずれ弟を傀儡にした王妃派に確実に取り潰される。だからこそ、ただ廃嫡を避けるだけでなく、自らの力で支持基盤を獲得しなければならない。そのための手札は、『ゲーム』で鍛え上げた指揮経験と、この身体に眠る戦士としての素質のみ。考え抜いた末の結論は、捨て身で戦果を上げ、実力で己の価値を証明する修羅の道だった。
(流石に無謀すぎたか!? だが、これしか考えつかなかったんだ! 頼む!)
俺は首を垂れて冷たい大理石の床を睨み、ただそう念じるしかできなかった。




