2話
※イラストおよび校閲にAIを使用しております。
他人の記憶が、暴力的な濁流となって俺の精神へ流れ込んでくる。
見知らぬ少年の十五年間の人生を、数秒で強制的に体験させられるような感覚。
それは、アストリアという小国の第一王子、テオドールの短くも凄惨な半生だった。
幼い彼を苦しめていたのは、王家に代々伝わる『雷魔法』の才が全く発現しなかったことだ。
身体強化魔法を用い、戦士として戦う素質はあった。だが、雷や炎といった元素魔法が信奉される貴族社会において、それは何の慰めにもならなかった。
『本当に、王家の血を引いておられるのか?』
『第一王子とはいえ、あのような無能に王位を継がせてよいものか』
貴族たちの侮蔑を含んだ冷ややかな視線が、刃のように肌を刺す。心無い陰口が王宮内に蔓延し、彼の王位継承権に疑義を唱える声は日増しに強くなっていった。
だが、テオドールにとって、周囲の冷ややかな視線や悪意などどうでもよかった。
隣国イオシアから嫁いできた、乗馬や剣術を好む快活な母・ロザリー。
彼女に強く抱きしめられた時の、日向のような温もり。鼻腔をくすぐる艶やかな黒髪の甘い香り。美しく優しい母さえそばにいてくれれば、彼は十分に幸せだった。どんなに陰口を叩かれようとも、太陽のように笑う母の深い愛があれば、すべてをやり過ごすことができた。
しかし、その唯一の光は唐突に失われる。
母親が流行り病に倒れ、あっけなくこの世を去ってしまったのだ。
絶対的な支柱を失ったテオドールの世界は暗転した。心を閉ざし、薄暗い自室に引きこもる日々。外の世界との繋がりは、唯一親しく接してくれる専属の侍女と、日に一言二言交わすだけになってしまった。
さらに追い打ちをかけるように、父である国王が大国エクイタニアから新しい妃を迎え入れる。
そして昨年、その継室との間に元気な男児が誕生したことで、王宮内の力関係は完全に決定づけられた。
亡き元妃の忘れ形見であり、元素魔法の才もない引きこもりの第一王子。もはやテオドールの存在は、王宮の誰にとっても『ないもの』として扱われるようになった。
孤独と絶望の中、ただ息を潜めるように生きる少年。
その胸を潰すような悲哀と無力感が、俺自身の心まで黒く染め上げていく。母を失った少年の深い喪失感に、大人である俺の感情までもが引きずられ、理不尽に泣き叫びそうになる。
その惨めな記憶の奔流が、不意に、ふっと途切れた。
まぶたの裏に、うっすらと朝の光を感じる。
今日は、テオドールが十五歳を迎える成人の日。
重い双眸を開くと、豪奢だがどこか埃っぽい天蓋が視界に飛び込んできた。
(……ここは)
次の瞬間、テオドールと蓮の記憶、そして人格が激しく衝突し、混ざり合う。八雲蓮としての自我にテオドールの感情が溶け込んでいくような、奇妙で暴力的な融合。脳髄がギリギリと激しく軋む。
「ぐぁぁぁっ!」
俺は激しく絶叫し、再び意識を失った。




