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15話

※イラストおよび校閲にAIを使用しております。

婚約者の千尋との幸せな思い出。その温かい夢は、唐突に切り替わった。


横断歩道を渡る千尋に向かって、猛スピードのスポーツカーが突っ込んでいく。


「やめろぉぉぉ!!」


絶叫と共にベッドから跳ね起き、激しく息を吐きながら目を見開く。

視界のピントが合うと、見知らぬ銀髪の女性がこちらを覗き込んでいた。


「お目覚めですか、殿下」


女性が静かな声で言い、その右手を俺の額に当てる。すると、手が仄かに淡い光を放ち始めた。


(これは……回復魔法? そうだ……俺は転生して、エリシオン戦記の世界に……)


混乱する思考の中、直前の記憶がフラッシュバックする。至近距離での爆発。吹き飛ぶ視界。


「ここは!? 戦闘はどうなった!?」


「落ち着いてください。ここは大隊本部のある前哨基地です。戦闘は我々の勝利に終わり、殿下の護衛部隊に死者は出ておりません」


「そ、そうか……救助した守備兵たちはどうなった?」


「重傷を負った者もいましたが、命に別条はありません。無謀な救助を敢行された甲斐がありましたね」


淡々としたトーンの中に混じる非難めいた言い回しに、俺は思わず言葉を詰まらせた。


「そういう君は……」


「申し遅れました。この大隊付きの回復術師、セシル・グラティナと申します。コレットを呼びますね。昨日からずっと付きっきりで、先ほど隣の部屋で休ませたところだったのです」


セシルが部屋を出て、ものの数秒。ドタドタという激しい足音が廊下に響き、勢いよく扉が開け放たれた。


「テオドール様!」


涙ぐんだコレットが部屋に飛び込んできて、そのまま俺の胸元にすがりついてくる。

痛む体に衝撃が走り、俺はもんどり打ってベッドに倒れ込んだ。


「ご無事でよかった……! もしかして、このままお目覚めにならないのではないかと……!」


「コレット、怪我があるので手荒にしない方がよろしいですよ」


背後から戻ってきたセシルが窘める。


「ああ! 申し訳ありません、テオドール様! 痛みはどうですか? 頭を強打されて、左腕には火傷も……」


そう言われて意識を向けると、確かに頭の芯に鈍痛があり、左の二の腕がジンジンと熱を持っていた。


「……確かに痛みはあるが、耐えられないほどじゃない。そんなことより、戦闘の詳細が知りたい。誰かに報告を頼めないか?」


「それでは私が呼んでまいりましょう。もともと、殿下のお目覚めを報告するよう仰せつかっておりますので」


セシルが再び部屋を後にしようとする。


「セシル様! 本当に有難うございました。セシル様の回復魔法がなければどうなっていたことか……」


「礼には及びません。私は軍属として職務を果たしたまでです。それでは、少々お待ちください」


そう言い残し、セシルは足早に部屋を出ていった。


「テオドール様! 私は怒っていますからね! 碌な訓練も受けていないのに、最前線に飛び込むだなんて! 護衛の方々も実戦経験がなかったと聞きました! 金輪際、あのような無茶は許しません! テオドール様に何かあったら私は……」


顔を真っ赤にして怒っていたコレットの目から、再び大粒の涙が溢れ出した。

俺は苦笑しながら彼女の肩を抱き、ゆっくりと背中を叩く。


「すまなかったよ、コレット。俺自身、ここまで体を張るつもりはなかったんだ。でも、目の前で敗走する守備兵を見て、いてもたってもいられなくてな」


半分は方便だ。実際は、軍の掌握に向けて「戦果」と「名声」を得るため、ハイリスク・ハイリターンの選択をしたに過ぎない。


数分後、廊下から複数の重々しい足音が響き、病室にジェラール元帥が現れた。その後ろには、アラン大隊長、モーリス参謀官、そしてセシルが続いている。


「殿下! お目覚めになりましたか! まったく、肝を冷やしましたぞ!」


「元帥、まさか前線基地まで来ているとは。随分と心配をかけたらしいな」


「心配などという生易しいものではありません! 第一王子である殿下を死なせてしまっては、私の首が飛ぶのはおろか、最悪の場合は王都との内戦にもなりかねないのですよ! ご自身のお立場に対する自覚が足りません!」


まるで孫を叱り飛ばす祖父のような口ぶりだが、孕んでいる怒気は本物だった。


「済まなかった、反省しているよ。俺だって命懸けにするつもりはなかったんだ」


「ハァ……アランもアランだ。配下を使って、力ずくで止めることもできただろうに!」


「お言葉ですが、閣下。一介の大隊長に、王族であられる殿下を武力で制止することなど不可能です」


「命を落としていたらそれどころではないだろう! モーリスもだ! お前はお目付役として何らかの手を打ったのか!? どうだ、答えてみろ!」


矛先を向けられたモーリスは、冷や汗をだらだらと流して小さく縮こまっている。これ以上、俺の身勝手で彼らが叱咤されるのは見ていられなかった。


「元帥、それくらいにしてやってくれ。モーリスもアランも、王族である俺の命令に逆らえなかっただけのこと。とはいえ、俺は今後とも最前線に出るつもりだがな」


「殿下!!」


顔を真っ赤にして怒鳴る元帥。


「この前も話しただろう。俺はお飾りになるつもりはない。もし俺の身を本気で案じるなら、俺の直下に精強な部隊をつけてくれ……そうそう、『張子の虎の護衛隊』は引き続き俺の直属にしてほしい。鍛えれば使い物になりそうだからな。」


「なっ……前線の部隊配属については、後日改めて相談しましょう。しかし、あの護衛隊についてはそうもいきません。お聞きになったでしょうが、彼らは命の危険がある最前線には出せない家柄の者たちゆえ……」


「俺の命よりも重いとでも?」


「屁理屈を……! 殿下のことなど、いっそ後方の司令部に縛りつけておきたいと今でも思っておりますよ」


「すまんすまん。しかしだ、優れた貴族血統を後方で遊ばせておくのは勿体無いと思わないか? 王子直属となれば、多少危険な前線任務でも親元を納得させられると思うのだが」


「それは、そうかもしれませんが……」


「じゃあ、こう伝えてくれ。『君らは引き続き第一王子の護衛として戦場を駆けることになる。ただし、己の命が惜しい者には部隊の辞退を許可する』とな」


「……悪いお方だ。もし彼らに死者が出たら、殿下ご自身に家元へ釈明に出向いていただきますからな!」


「ああ、分かったよ。それと、もう一つ頼みがある。俺に実戦の訓練をつける教官だが、昨日の戦闘で殿を務めていたあの守備兵、彼に頼みたい。すぐにでも呼んでくれないか」


「何ですと! あやつはただの平民兵ですぞ! そのような得体の知れない者が殿下に剣を教えるなど以ての外! 司令部には優れた剣術師範が大勢おります!」


「元帥、俺は型通りの儀礼的な剣術を習うつもりはない。剣一本でゴブリンの群れを抑え込み、あまつさえ屈強なゴブリン・ウォーリアーを一撃で屠った男だ。俺の剣の師は、彼以外に考えられない」


「しかし、それでは軍の世間体というものが……」


「よし。これを呑んでくれたら、少なくとも半年間は無茶をせず、大人しくしていると約束しよう」


元帥は目を点にして絶句した後、深くため息をつき、そして諦めたようにがっくりと頷いた婚約者の千尋との幸せな思い出。その温かい夢は、唐突に切り替わった。


横断歩道を渡る千尋に向かって、猛スピードのスポーツカーが突っ込んでいく。


「やめろぉぉぉ!!」


絶叫と共にベッドから跳ね起き、激しく息を吐きながら目を見開く。

視界のピントが合うと、見知らぬ銀髪の女性がこちらを覗き込んでいた。


「お目覚めですか、殿下」


女性が静かな声で言い、その右手を俺の額に当てる。すると、手が仄かに淡い光を放ち始めた。


(これは……回復魔法? そうだ……俺は転生して、エリシオン戦記の世界に……)


混乱する思考の中、直前の記憶がフラッシュバックする。至近距離での爆発。吹き飛ぶ視界。


「ここは!? 戦闘はどうなった!?」


「落ち着いてください。ここは大隊本部のある前哨基地です。戦闘は我々の勝利に終わり、殿下の護衛部隊に死者は出ておりません」


「そ、そうか……救助した守備兵たちはどうなった?」


「重傷を負った者もいましたが、命に別条はありません。殿下がご自身の命を懸けて無謀な救助を敢行された甲斐がありましたね」


淡々としたトーンの中に混じる非難めいた言い回しに、俺は思わず言葉を詰まらせた。


「そういう君は……」


「申し遅れました。この大隊付きの回復術師、セシル・グラティナと申します。今、コレットをお呼びしますね。昨日からずっと付きっきりで、先ほど隣の部屋で休ませたところなのです」


セシルが部屋を出て、ものの数秒。

ドタドタという激しい足音が廊下に響き、勢いよく扉が開け放たれた。


「テオドール様!」


涙ぐんだコレットが部屋に飛び込んできて、そのまま俺の胸元にすがりついてくる。

痛む体に衝撃が走り、俺はもんどり打ってベッドに倒れ込んだ。


「ご無事でよかった……! もしかして、このままお目覚めにならないのではないかと……!」


「コレット、殿下はお怪我をされているのですから、手荒にしない方がよろしいですよ」


背後から戻ってきたセシルが窘める。


「ああ! 申し訳ありません、テオドール様! 痛みはどうですか? 頭を強打されて、左腕には火傷も……」


そう言われて意識を向けると、確かに頭の芯に鈍痛があり、左の二の腕がジンジンと熱を持っていた。


「……確かに痛みはあるが、耐えられないほどじゃない。そんなことより、戦闘の詳細が知りたい。誰か上に報告してきてくれないか?」


「それでは私が呼んでまいりましょう。もともと、殿下のお目覚めを直ちに報告するよう仰せつかっておりますので」


セシルが再び部屋を後にしようとする。


「セシル様! 本当に有難うございました。セシル様の回復魔法がなければどうなっていたことか……」


「礼には及びません。私は軍属として職務を果たしたまでです。それでは、少々お待ちください」


そう言い残し、セシルは足早に部屋を出ていった。


「テオドール様! 私は怒っていますからね! 碌な訓練も受けていないのに、最前線に飛び込むだなんて! 護衛の方々も実戦経験がなかったと聞きました! 金輪際、あのような無茶は許しません! 殿下に何かあったら私は……」


顔を真っ赤にして怒っていたコレットの目から、再び大粒の涙が溢れ出した。

俺は苦笑しながら彼女の肩を抱き、ゆっくりと背中を叩く。


「すまなかったよ、コレット。俺自身、ここまで体を張るつもりはなかったんだ。でも、目の前で敗走する守備兵を見て、いてもたってもいられなくてな」


当然、半分は方便だ。実際は、軍の掌握に向けて「戦果」と「名声」を得るため、ハイリスク・ハイリターンの選択をしたに過ぎない。


数分後、廊下から複数の重々しい足音が響き、病室にジェラール元帥が現れた。その後ろには、アラン大隊長、モーリス参謀官、そしてセシルが続いている。


「殿下! お目覚めになりましたか! まったく、肝を冷やしましたぞ!」


「元帥、まさか前線基地まで来ているとは。随分と心配をかけたらしいな」


「心配などという生易しいものではありません! 第一王子である殿下を死なせてしまっては、私の首が飛ぶのはおろか、最悪の場合は王都との内戦にもなりかねないのですよ! ご自身のお立場に対する自覚が足りません!」


まるで孫を叱り飛ばす祖父のような口ぶりだが、孕んでいる怒気は本物だった。


「済まなかった、反省しているよ。俺だって死ぬ気はなかったんだ」


「ハァ……アランもアランだ。部下を使って、力ずくで止めることもできただろうに!」


「お言葉ですが、閣下。一介の大隊長に、王族であられる殿下を武力で制止することなど不可能です」


「命を落としていたらそれどころではないだろう! モーリスもだ! お前はお目付役として何らかの手を打ったのか!? どうだ、答えてみろ!」


矛先を向けられたモーリスは、冷や汗をだらだらと流して小さく縮こまっている。

流石に俺の身勝手でこれ以上彼らが叱咤されるのは見ていられなかった。


「元帥、それくらいにしてやってくれ。モーリスもアランも、王族である俺の命令に逆らえなかっただけのこと。とはいえ、俺は今後も最前線に出るつもりだがな」


「殿下!!」


顔を真っ赤にして怒鳴る元帥。


「この前も話しただろう。俺はお飾りになるつもりはない。もし俺の身を本気で案じるなら、俺の直下に精強な部隊をつけてくれ。……そうそう、今回の護衛隊は引き続き俺の直属にしてほしい」


「なっ……前線の部隊配属については、後日改めて相談しましょう。しかし、あの護衛隊についてはそうもいきません。お聞きになったでしょうが、彼らは命の危険がある最前線には出せない家柄の者たちゆえ……」


「身分が、俺の命よりも重いとでも?」


「屁理屈を……! 御身を司令部に縛りつけてもよろしいのですぞ!」


「すまんすまん。しかしだ、優れた貴族血統を後方で遊ばせておくのは勿体無いと思わないか? 王子直属となれば、多少危険な前線任務でも親元を納得させられると思うのだが」


「それは、そうかもしれませんが……」


「じゃあ、こう伝えてくれ。『君らは引き続き第一王子の護衛として戦場を駆けることになる。ただし、己の命が惜しい者には部隊の辞退を許可する』とな」


「……悪いお方だ。もし彼らに死者が出たら、殿下ご自身に家元へ釈明に出向いていただきますからな!」


「ああ、分かったよ。それと、もう一つ頼みがある。俺に実戦の訓練をつける教官だが、昨日の戦闘で殿を務めていたあの守備兵、彼に頼みたい。すぐにでも呼んでくれないか」


「何ですと! あやつはただの平民兵ですぞ! そのような得体の知れない者が殿下に剣を教えるなど以ての外! 司令部には優れた剣術師範が大勢おります!」


「元帥、俺は型通りの儀礼的な剣術を習うつもりはない。剣一本でゴブリンの群れを抑え込み、あまつさえ屈強なゴブリン・ウォーリアーを一撃で屠った男だ。俺の剣の師は、彼以外に考えられない」


「しかし、それでは軍の世間体というものが……」


「よし。これを呑んでくれたら、少なくとも半年間は無茶をせず、大人しくしていると約束しよう」


元帥は目を点にして絶句した後、深くため息をつき、諦めたようにがっくりと頷いた。

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