14話
※イラストおよび校閲にAIを使用しております。
俺は気力の残る護衛たちと共に部隊の最後尾に陣取り、迫り来るゴブリンの群れを牽制しながら後退を続けていた。
自力で防御できない守備兵を乗せた護衛騎や、ジュリアンを担ぎ上げて走るあの屈強な守備兵は、すでに先に行かせている。
(とはいえ、あの男の身体能力はどうなっているんだ)
重装備のジュリアンを抱えているというのに、強靭な脚力で騎兵に準ずる速度を出しているのだ。
敏捷なゴブリンたちも、騎兵や彼の速度には容易に追いつけない。だが、問題は足の速さではなかった。
「右翼! 火球が来るぞ! 回避しろ!」
俺の絶叫とほぼ同時に、ゴブリンの群れの後方から放たれた灼熱の火球が、放物線を描いて飛来した。
敵後方から放たれる火球の軌道を瞬時に予測し、声を張り上げる。
「左へ二馬身! 足を止めるな!」
指示を受けた護衛騎が間一髪で身を躱す。直後、彼らがいた地面に着弾した火球が凄まじい爆発を起こし、土塊と熱風を撒き散らした。
「次は中央だ! 前に出ろ!」
脳内で戦場を俯瞰し、次々と降り注ぐ炎の雨の着弾点を予測する。俺の的確な指示に従い、護衛たちは致命傷を避けながら後退を続けていく。
だが、部下を動かすことに意識を割きすぎたことが、致命的な隙を生んだ。
(……くそっ!)
気づいた時には、新たな火球が俺のすぐ傍まで迫っていた。躱しきれない。
強烈な爆発音が鼓膜を打ち据え、至近距離で弾けた爆風が俺の体を馬から無残に吹き飛ばした。
激しく地面に叩きつけられ、全身の骨が軋む。脳が激しく揺さぶられ、視界がぐにゃりと歪んだ。
「で、殿下!」
遠くから護衛の悲痛な叫びが聞こえるが、体に力が入らない。肺から空気が絞り出され、指先ひとつ動かすことができなかった。
霞む視界の先、ゴブリン・シャーマンが放ったであろう追撃の火球が、動けない俺を確実に殺そうと迫り来る。
(ここまでか……結局、俺もテオドールも、何一つ成し遂げられないままかよ……)
無慈悲な死を覚悟した、その瞬間。
真横から凄まじい速度で飛来した水の塊が、俺の眼前で火球と激突した。
ごうっ、という鼓膜を破るような轟音と共に、大量の水蒸気が発生して周囲を分厚い白霧が包み込む。
次々と頭上を飛び交う水球が、ゴブリンたちの放つ火球を空中で的確に相殺していく。さらに同じ方向から何筋もの巨大な火炎が放たれ、最前列のゴブリンどもを容赦なく炎上させた。
打撃大隊本隊の貴族士官たち、すなわち元素魔法使いによる一斉射撃だった。
突然の理不尽なまでの魔法攻撃に、怒涛の勢いだったゴブリンの群れの足が完全に止まる。
その隙を見逃さず、駆けつけた護衛の一人が馬から身を乗り出し、動けない俺の体を力任せに引き上げた。
馬の背に乱暴に押し付けられた強烈な痛み。だが、生き延びたという安堵がそれを上回る。急速に暗転していく視界の中で、俺の意識は深い泥の底へと沈んでいった。




