16話
※イラストおよび校閲にAIを使用しております。
ジェラール元帥らが部屋を立ち去ると、それまで静かに控えていたコレットが堰を切ったように詰め寄ってきた。
「テオドール様! 何度言ったらご理解いただけるんですか!? 御身を大切にしてください!」
部屋に残っていたセシルも、たしなめるようにコレットへ同調する。
「コレットの言う通りですよ、殿下。そのひ弱な体で再び前線に出られるなど、お控えになるのが賢明というものです」
俺は二人の厳しい追及をなだめすかし、なんとか妥協点を探った。
最終的に、自らは決して白兵戦を行わないこと、そして今後みっちりと鍛練を積むことを条件に、前線で指揮をとることを渋々納得させたのだった。
◇
やがて窓の外が夕日に染まり始めた頃、控えめなノックの音が部屋に響いた。
「失礼します、殿下。アランです。ご所望の男を連れてまいりました」
扉が開き、大隊長アランに背中を押されるようにして、一人の男が部屋に入ってきた。
擦り切れた野戦服に、無数の小さな傷が刻まれた防具。圧倒的な武を示したあの殿だった。
「……第十二守備隊小隊長、ラウルと申します。殿下の御前でお目にかかる栄誉、感謝いたします」
ラウルは片膝をつき、平民ながらも洗練された、無駄のない所作で頭を下げた。
「堅苦しい挨拶は不要だ。まずは俺の護衛隊の隊長、ジュリアンを救ってくれた礼をさせてくれ。恩に着るぞ」
俺がベッドの上で会釈するように頭を下げる。すると、アランが驚いて声を上げた。
「殿下! 平民相手に頭を下げるなど!」
俺は顔を上げ、手で彼を制した。
「落ち着け、大隊長。誰の目があるわけでもないだろう」
ラウルは困惑した眼差しをアランに向けるが、アランは諦めたように首を振った。
「……身に余る光栄。殿下のお力になれたこと、我が家の永代の誉です」
ラウルは再び仰々しく頭を垂れた。
「さて、ラウル。今日呼びつけた理由は他にあるんだ。単刀直入に言おう。俺と俺の護衛隊の教官、それを君に務めてもらいたい」
「教官……ですか? 一介の平民であるこの私が殿下や貴族様に教えることなど、あるわけがございません」
「謙遜するな。あの絶望的な状況で殿を成し遂げ、ゴブリン・ウォーリアーを一撃で仕留めた。さらには重い鎧を着込んだジュリアンを背負って、馬並みの速度で駆け抜けた。君は俺が見た中で最も有能な戦士だ」
ラウルは困惑の表情を深めた。そこに、傍らに立つアランが口を挟む。
「殿下。こいつは確かに腕は立ちますが、泥臭い戦いしか知らない農民の出です。王子の御身に相応しい、高貴な剣術や魔法理論を教えられるような教養は持ち合わせておりませんぞ」
「アラン大隊長、確かにその通りかもしれない。しかし、俺が今知りたいのは、あの圧倒的な膂力を生む身体強化魔法の鍛え方、そしてゴブリン相手に有用な実用戦闘術だ。儀礼剣術などはその後で良いだろう」
俺はそう言ってアランを一瞥した後、ラウルの目を真っ直ぐに見据えた。
「君は南部の農村の出身で、独学の鍛錬と実績で小隊長まで登り詰めたらしいじゃないか」
「……はい。幼い頃からただがむしゃらに、故郷の村を守るために鍛錬を続けてまいりました」
「そうか。では、その鍛錬方法を教示してくれ。そしてあの剣術もな」
俺の有無を言わせない圧力に押され、ラウルはしばらく沈黙した後、深く息を吐き出して言った。
「……分かりました。私のような下賤の者でも殿下のお役に立てるのであれば、全力を以てご奉仕させていただきます」
(よし。鍛錬を終えた先は、何としても俺の直属配下に捩じ込んでやるからな)
そんな思いも胸に秘めつつ、俺は満足げに頷いた。




