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11話

※イラストおよび校閲にAIを使用しております。

俺と護衛の百騎は、ゴブリンの群れ目掛けて出撃した打撃大隊の後に続いていた。


引きこもって以来、数年ぶりの騎乗だったが、テオドールが幼いころに体に刻み込んだ感覚はすぐに呼び覚まされた。


(これが乗馬か。思ったよりも激しく揺れるし、姿勢を保つためにかなりの筋力を使うな)


馬の腹を蹴る足の動かし方や手綱の引き方など、テオドールの記憶が自動的に身体を動かしてくれる。だが、中身は現代日本の平和な生活しか知らない俺だ。その感覚のミスマッチに、わずかな違和感を覚えながら先を急いでいた。


すると、俺の脇にぴったりと馬を寄せてくる者がいた。護衛を束ねる隊長だ。


挿絵(By みてみん)


「殿下、少しよろしいでしょうか」


「ああ。君は護衛隊の隊長……ジュリアンだったか」


「はい。ジュリアン・ルクスリウスと申します……大変お伝えしにくい事なのですが、どうしてもお耳に入れておきたいことがありまして」


「そんな困った顔をして、どうしたんだ? 君たちは皆、戦士の才が豊かな精鋭だと聞いているぞ。ゴブリン相手に不足はないだろう?」


俺が励ますように声をかけると、ジュリアンの顔はさらに青ざめた。


「それなのですが……実は我々に、実戦経験はほとんどないのです」


「……は?」


俺は驚愕のあまり、思わず手綱を強く引いてしまった。


突然の制動に、馬がいななきを上げて急停止する。後続の護衛たちも慌てて馬の首を向け、俺を避けるようにして次々と立ち止まった。


土埃が舞う中、俺はジュリアンを睨みつける。


「どういうことだ!? 精鋭部隊ではないのなら、君たちはいったい何なんだ!」


通り過ぎたジュリアンが、慌てて馬を反転させて俺の近くへ寄ってきた。


「我々は……貴族の長男であったり、大貴族の子息であったりと……つまり、簡単に死ぬわけにはいかない立場の者の集まりなのです」


ジュリアンは周囲を気にするように声を潜め、苦々しく吐き出した。


「軍歴という箔付けのために南軍へ配属されておりますが、普段は後方で危険の少ない任務しか行わない、儀仗隊に近い存在なのです……」


呆れて言葉も出ない。


(政治的配慮を優先して、強力な戦力になり得る貴族士官百名を遊ばせていたってわけか。ただでさえ戦力不足な状況で、とんだ舐めプだな。)


「まったく呆れるな。平民たちが命を懸けて最前線で血を流しているというのに、恥ずかしくないのか、ジュリアン」


俺の冷たい言葉に、ジュリアンはうつむいた。


「殿下、我々も忸怩たる思いなのです。しかし、家の方針に逆らうことはできません……殿下の御身に万が一のことがあってはなりませんので、どうかここは大人しく基地へお戻りいただけないでしょうか」


(ジュリアンの言うことにも一理ある。俺自身初めての戦場に、張り子の虎の護衛を引き連れて突っ込む……流石にリスキーすぎるか?)


俺は天を仰ぎ、思考を巡らせる。


だが、ここで引き下がるわけにはいかない。ゴブリン戦線のリアルな実情をこの目で見て、あわよくば小さな戦果をあげる絶好の機会なのだ。南軍での発言権を得るためにも、この好機を逃す手はない。


「いいや、ジュリアン。俺は戻らない」


「殿下! しかし……!」


「君たちは俺の護衛に専念して、なんとしてもこの身を守ってもらおう。万が一、俺がゴブリンの群れに突っ込んだら、躊躇せずに俺を囲んで続け」


俺はジュリアンの目を真っ直ぐに射抜き、王族としての圧をかける。


「俺はアストリアの第一王子だ。君たちの命が、俺の命より重いことはないだろう?」


ジュリアンは息を呑み、強く唇を噛み締めた。家門のしがらみと、目の前にいる王族への忠誠。わずかな沈黙の中で激しい葛藤を飲み込んだ彼は、やがて覚悟を決めたように深く頷いた。


ジュリアンが馬の向きを変え、自らの隊に向けて大音声で檄を飛ばす。


「皆の者、聞け! 我々は当初の任務の通り、殿下の御身をお守りする! それがたとえ、ゴブリンの群れの只中であってもだ!」


突然の宣告に、護衛たちの間に動揺が走る。


「いいか! 我々にとってこれが初めての実戦になるが……王家の御身に尽くす誉れだ! この命をもって、殿下をお守りするぞ!」


ジュリアンが剣を天に掲げ、腹の底から声を張り上げる。


「剣に!」


「誉れを!」


「剣に!」


「「「誉れを!」」」


ジュリアンが号令を繰り返すたび、はじめは戸惑い、弱々しかった護衛兵たちの声も次第に悲壮な覚悟へと変わり、やがて太い雄叫びとなって荒野に響き渡った。


(さて、張り子の虎がどこまで使い物になるかは分からないが……これで少しは、戦場に影響を与えられる手駒になるかもしれないな)


俺は手綱を握り直し、血生臭い死地へと向けて再び駆け出した。

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