護国の聖獣グリーンドラゴンの卵②
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「危ないよアマリア! ちょん切れるところだったじゃないか!」
「フフフ……単色生殖できるんですよね? じゃあこんな器官必要ないじゃないですか……いっそないほうがゼェゼェ……雑念が消えてよろしいのでは?」
「ごめんよアマリアちょっとした0歳児ジョークだよ。マジにならないで、ね。ほらちゃんと引っ込めただろ?」
「ご自分で引っ込められるのに私にやらせたんですね?」
「違うよ。誤解だってアマリア。君の本物の殺意に縮こまっちゃったんだ。もう二度としないよ」
「当たり前です。もう大人しく眠りについてください。と言いたいところですが、王から命を承っております。先代が亡くなられる前、我々人間に残した言葉はあるか。記憶を継承しているドラゴン様に聞いてまいれと」
「うん、ちょっと待って記憶を探ってみるよ」
「人間の王……アマリアたちの王様からは何世代も前の王様……彼と先代のグリーンドラゴンはとても仲が良かったみたいだね。よく人間の姿に化けて、王は放蕩貴族に化けて、共に遊び歩いていたんだ。それが先代の中の最も楽しい記憶……」
「グリーンドラゴンと王との友情……、これまでどの文献にも無かった情報です」
「そんななか先代は一人の人間と恋に落ちるんだ。それは王の娘だった。二人は愛し合い、奇跡的に子を為したんだ。生まれてきたのは人に近い姿をしながら、竜の力を持っていたんだ。強大な力を持ちながら幼い我が子を魔王から守るため、二人は山奥に隠れ住み、さらなる子を授かった」
「それはおとぎ話に聞く竜人の伝説そのままです……! まさか真実だったとは……」
「先代はボクの卵を生むときに、いづれ出会う人間に向けて、こんな言葉を残したよ。『盟友よ、来たるべき厄災のとき、竜人の村を訪ねよ』それが最期の言葉さ」
「……貴重な証言を感謝します。王もお喜びになるでしょう」
「アマリア、ボクはまだ生まれてもいないけど思うんだ、ボクが生まれる意味」
「はい、ドラゴン様は大変な使命をもってお生まれになるのです」
「うん、だからアマリア、ボクと竜人作ろ?」
「~~~~」
「そうだねアマリア、ボクが悪かった。だから小声で呪文を詠唱するのをやめようね。一応ここお城の中なんだろ?」
「……ドラゴン様。確かにあなたは古の記憶をお持ちですが、情緒面はあまりに未成熟です」
「まだ生まれてもいないんだからしょうがないじゃないか。それにほら竜人を作ることはボクと人間にとって有益なはずだよ。迫りくる厄災の鍵になるかも」
「だからと言ってむやみに女性に子作りをせまるなど言語道断です。交尾は神聖な行為、互いの愛する気持ちがあって初めて交渉するものです。大体ドラゴン様は……」
「うっ……。アマリア……、ボク体の様子が……!」
「ど、どうされましたドラゴン様! まさか無理がたたったのでは!?」
「うっ」
卵の穴から隆起したピーーが飛び出してきた。
「アイシクル――」
「違うんだアマリア! まずボクの話を聞いてくれ!」
「なんですかドラゴン様? 話なんか聞いてたら切断できないじゃないですか?」
「違うんだよ、不可抗力なんだ。さっき中途半端のまま引っ込めちゃったから、体が我慢できなくて勝手にこうなっちゃったんだ」
「左様でございますか、それで? 私にどうしろと?」
「アイシクルソードより冷たい目線をありがとうアマリア。ここはどうだろうボクたちは種族も生態も違うわけだし、互いの妥協点というのを模索すべきだと思うんだ。ボクがこのままだとアマリアも困るだろ? ボクだってこのままじゃ落ち着かない。こうなっている原因はさっき途中で終わっちゃったからだと思うんだ。だからアマリアここはどうだろう、君の手で抜いてくれないかな? そうだねアマリア、見えなくても冷気が伝わってきたよ。無言ででアイシクルソードを構えるのをやめようか。話し合いこそ人類の持つ最大の武器だと思わない?」
「……随分とおしゃべりできるようになるようになりましたね。本当に覚醒のときが近いかもしれません。で? 私にどうしろと? あなたのそれを、私がなんですって?」
「仕方ないんだよ。ボクはまだ生まれてないし、卵の中の態勢で自分で自分を慰めることができないんだ。誰かにやってもらわないと……」
「いっそお生まれになったらいかがですか?」
「さっきと言ってることが違うよアマリア。ホラ不完全な状態で生まれたら体に障るとか。ホラ! 家畜とでも思って、ちょっと手でこするだけさ」
「……おつらいでしょうね。ですから二度とこんな思いしなくていいように切断して差し上げますわ」
「頼むよアマリア! ボクと人間のためなんだ!」
「5,4……」
「わかったアマリア、素手とは言わない。君のお尻を擦りつけて――」
「3,2……」
「OKアマリア君には参ったよ、さっきのガントレットをつけた状態でいいから、またさっきみたいに擦ってくれないか?」
「1……」
「頼むよアマリア! 赤ちゃんの世話だと思って、君だって本当は切断なんかしたくないだろう?」
「……」
「アマリア……?」
「はあ……。今回だけですよ」
「アマリア! ありがとう! じゃあ素手でしてくれるのかい!」
「調子に乗らないでください!」
アマリアはガントレットを装備した。
「ドラゴン様がこうなってしまったのも、私にも責任の一端があるようですし? 今回だけ……本当に今回だけですよ? 楽にして差し上げます」
「ああ……頼むよアマリア。気の変わらないうちに早く」
「早くといわれましても、私ドラゴンの下の世話なんてしたことないのでやり方がわからないんですけど」
「さっきやったのと同じさ。両手で握って前後に動かすんだよ」
「うう……なんで私がこんな目に……。じゃあ握りますからね!」
「! いいよアマリア! さあ次は前後に擦って!」
「うぅ……。これはダイコン……これはダイコン……」
「あぁ……。いいよアマリア。ガントレット越しなのが残念だけど、これはこれでちくちくした刺激になるよ」
「ソレハヨカッタデスネ。ゴシゴシ」
「アマリア、ボク決めたよ。生まれたらすぐに変化の術を覚えて、未知なる体験を探し求めるよ」
「それよりも同胞のドラゴンを探してくださいね」
「あっ、あっ、アマリア。それも最高なんだけど、さっきみたいに正面に回って槍を握るようにやってくれない?」
「ドラゴン様の体液がかかる可能性が高いのでそれは御免被ります。ほらさっさと致してください。スピードを上げますよ」
「うっ、うっ、うっ、アマリア、それはまずいよ。あっ、あっ、あっ」
「お早くどうぞ」
「あっ、もう本当に……うっ、出るよアマリア、早く正面に回って受け止めて!」
「いやです」
「ああぁぁぁ!」
グリーンドラゴンは体液を放出した。
アマリアは身をかわした。
「無事引っ込んだようデスネ」
「ふぅ……アマリア受け止めてくれなかったのは残念だけど大儀であったよ」
「エエ、お力になれて光栄デス」
「だけどむなしいねアマリア。愛のない行為というのは、その最中は夢中になれても、後に残るのは体のけだるさと、心のむなしさだけさ」
「どの口で愛を語りますか」
「ありがとうアマリア。これでぐっすり孵化のときまで眠れそうだよ」
「卵に穴が二つも空いてますけどね」
「アマリア。眠りにつく前に聞いていいかい? 人と人との争いは苛烈かい?」
「……いまはまだ大規模な戦闘は行われていませんが、敵国との小さな小競り合いは増加の傾向にあります」
「古の記憶に従えばボクは君たちの盟友さ。いづれ肩を並べて戦うこともあるだろう。だけどその相手は人間なのかいアマリア? 君たちは人間という種族間同士の争いにボクや竜人たちの力を頼るのかい? それはかつての魔王と何が違う?」
「……そうならないための外交です。王もけっして好戦的な方ではありません。手を尽くしてくださるはずです。ですが、相手が魔と組んだとき、私たちもそうせざるを得ないのかもしれません」
「アマリア、君は人を殺せるかい?」
「殺します。ですがそれは対話を尽くしたそのあとの話です」
「対話の魔女よ。我らは盟友の契りを交わした。そなたとそなたの子孫の命であれば、我はいかなる相手であろうと力を振るおう。そのときまで、少し、眠る」
グリーンドラゴンの卵は眠りについた。
アマリアは王に謁見した。
アマリアは王にグリーンドラゴンの言葉を伝えた。
クエスト『グリーンドラゴンの卵の調査』クリア
アマリアの名誉が上がった。
アマリアは王の勲章を手に入れた。
グリーンドラゴン(卵)が仲間になった。




