護国の聖獣グリーンドラゴンの卵①
「ハイドゥーモ・ワーワー・ユーティマスクゥド……!」
「私は対話の魔女アマリアマリア・マリア・アマリアマリア。長いのでアマリアとお見知りおきを。辺境の地より運ばれし卵よ、秘術によりあなたの魂に直接話かけています。幼き御身に会話は可能でしょうか?」
「あれっ? なんか声……声っていうの? 聞こえるよ!」
「対話の魔法です、大きな卵さん。念じるだけで言語の壁を越えて会話できますよ」
「ボクの声が聞こえるの? ボク誰かと話すのはじめて!」
「まだ生まれていないのですからそうでしょうね」
「そっか、ボクまだ生まれてないんだ」
「はい、あなたは辺境の地で卵の状態で発見され、王都に運び込まれました。その形状や大きさから、かつて我が国の守護者であったグリーンドラゴンの生き残りである可能性が高いからです」
「グリーンドラゴン? ボクはグリーンドラゴンっていうの?」
「それを確かめるために私がいます。伝承によるとグリーンドラゴンは産卵の際に、己が記憶を我が子へと引き継がせるといいます。あなたには前世の記憶がありますか?」
「ううーん。なんか人や魔物がたくさんいて、ボクは赤い竜と戦ってるよ」
「それはまさしく魔王の手先となったレッドドラゴンとの戦い! レッドドラゴンを退けた後、グリーンドラゴンたちは姿を消したと聞きます」
「なんだか記憶がはっきりしてきたよ。うんそうだ、もう助からないと悟ったボクは、山奥でボクを作ったんだ」
「ドラゴン様! この一報に王も国民も歓喜するでしょう。我が国の象徴がご帰還されたのですから……! 急ぎ王に伝えなければ……!」
アマリアは部屋の扉を開け外の兵士に伝令を頼んだ。
「アマリアさん質問があるよ」
「アマリアで結構でございます、ドラゴン様。何なりとお申し付けください」
「アマリア、ボクの同胞たちは他にいないの?」
「ハッ、誠に遺憾ながらこの200年、目撃情報はございません」
「そっか。じゃあさ」
「ボクは誰とセックスしたらいいの?」
「セッ……。それは……その……生まれる前から気にすることではないのかと……」
「やだ、やだー。セックスできないなら、ボク生まれるのやめる!」
「それは困ります! ドラゴン様には我が国の繁栄の象徴になっていただきたく……」
「ボクが繫栄できないじゃ意味ないじゃん!」
「ならばご成長されてから、近い竜種を探していただく他……」
「もういいよ。ああもう……狭いな……、ちょっといったん生まれるね」
「おやめくださいドラゴン様! 孵化は来たるべきタイミングでないとお体に障ります」
「そんなこと言ってもう200年も寝てたんだよ。だいたいアマリアが無理やりボクを話しかけてきたんじゃないか」
「無礼をお許しください。ですが孵化は自然と殻が敗れるまでお待ちください」
「じゃあ、あとどれくらい寝てればいいのさ」
「申し訳ありませんが、ドラゴンの生態まではちょっとわかりかねます」
「……やっぱりちょっと生まれるね」
「おやめください! 殻を内側からドンドン叩かないでください。わかりました。探します。クエストを張り出します。ドラゴン様の繁栄は我が国の繁栄にも繋がりますので」
「そっか、わかったよ。でも見つからなかったら。アマリアが僕としてね」
「ふぇ!?」
「ボクは単色生殖っていうのが出来るみたいだから、別に無理にドラゴンと子作りしなくてもいいんだよね。アマリア、ボクはどのくらいの大きさで生まれそう?」
「え……はい、卵の大きさから、かなり大柄な成人男性ほどのサイズかと」
「じゃあイケるね!」
「無理です! イケないです! 私壊れちゃいます!」
「アマリア今のもう一回言って」
「よくわかりませんが嫌です」
「ほら、『こんなの大きすぎて私壊れちゃう』って、もう一回」
「そんなこと言ってません!」
「大丈夫だよ。僕の受け継がれた記憶の中には、人との行為も入っているからね」
「なんて無駄な記憶の継承を……。あなたのご先祖様にはドン引きです」
「無礼だな。グリーンドラゴンは国の象徴なんだろ?」
「せめて魔法で美男子に変身してから言ってください」
「できるよ?」
「え?」
「ご先祖の記憶に変化の術で人間とランデブったシーンがあるよ」
「……いやいやいややっぱり駄目です。私の純潔は人間の殿方に差し上げる予定ですからね! それに、ドラゴン様がお生まれになるころには、私おばあちゃんかもしれませんし。そのころには旦那と子どもたちに囲まれて生活していますので無理です」
「わかった! じゃあ今のうちに生まれるよ!」
「やめてください! ハード!」
「こら! 魔法で殻を硬化するな。ここから出せ」
「とにかく、ドラゴン様は我が国の象徴。目先のセッ……などに囚われず、先を見据える目で大陸の未来を見据えていただきたく存じます」
「魔女殿。王がお呼びです」
「あ、はい、かしこまりました。すぐ向かいます」
「どうしたの?」
「王様に呼ばれたんです。きっとドラゴン様のご帰還にお喜びなんですよ」
……。
「まったく王様の心配症には困ったものです。が、お喜びいただけたようで良かったですねって、ああああ!」
アマリアはグリーンドラゴンの卵を調べた。
グリーンドラゴンの卵から角が出ていた。
「ハイドゥーモ・ワーワー・ユーティマスクゥド……!(早口)」
「ちょっと! なに出てこようとしてるんですか!? 角が出ちゃってますよ!」
「ちょっと角でつついたら割れたよ。もう生まれるところだったのかも」
「勝手なこと言わないでくださいよ! 自然と殻が敗れるのを待ってくださいって言ったじゃないですか」
「だってアマリアがいないと喋り相手がいなくて暇なんだ」
「時が来るまでお眠りください! それにドラゴン様なら対話の魔法がなくとも、いづれ念話で誰とでも話せるようになります。それまで辛抱してください」
「目を背けちゃだめだよアマリア。ボクが目覚めるときが来たんだよ。ここに運ばれる最中も人間の会話を眠りながら聞いていたよ。激化する人と人との争い、そこに与しようとする魔の者たちのうわさ。200年前の魔王はたった一人の人間だった。君が僕を起こしたのは偶然じゃない。そのときが来ようとしているんだよ。もしかしたらもう来ているのかもしれない」
「しかし……、急な覚醒はお体に障ります。それに私の一存では……」
「体はもう出来上がっているよ。わかるんだ。その証拠に」
ホラ、という声とともに、卵の一部が勢いよく破られた。
卵の下部に穴が開き、その裂け目から、ピーーが顔を出していた。
「ぎゃー! ちゅっとちょっとなにしてるんですか!? 早くその邪悪な尻尾をしまってください! ドラゴン様と言えど容赦しませんよ!」
「ふう……アマリア、これは尻尾じゃないよ。これは僕の息子さ、生まれる前から息子だなんて奇妙な話だけどね」
「わけわかんないこと言わないでください!」
「もうギンギンってわけさ、つまり立派な大人だといっても差し支えないね」
「わかりましたからそれを小さくして収納してください。こんな姿、王に見られたら最悪です」
「どうしてだい、もう大人なんだからこのまま生まれたっていいだろう?」
「それは専門家チームの分析ののちに判断します。いいからそれしまってください」
「それってなんだい? ボクはまだ赤ちゃんだからなんのことだかわからないや」
「その穴から出ている物です」
「角のことかな?」
「もう一本の方です」
「もう一本の? なんだい?」
「言いませんからね! 早くしまってください!」
「でもアマリア、ボクはまだ赤ちゃんだから自分の体の制御が聞かないんだ。そうだ、君の手で中に押し戻してくれよ」
「私が!?」
「だってそうだろう? ボクは別にこのままでも構わないんだよ?」
「ぐぬぬ……」
「さあ決めるんだアマリア、人間は非力だが決断をするのはいつだって人間さ」
「……ちょっと武器庫でガントレットを借りてきます。そのあいだ絶対変なことしないで大人しくしててくださいね!」
アマリアは兵士のガントレットを装備した!
「大人しくしてたようですね。では触りますからね。変な真似しないでくださいよ。今のあなたなら私だって焼き殺せるんですからね」
「おいおい国の象徴を焼き殺すとか軍法会議ものだよ」
「黙っててください。……触りますね。……うわぁヌメヌメしてるぅ……」
「そりゃあ卵の中にあったからね。でもガントレット越しだからいいだろう? そりゃあボクとしては素手でやさしくしてもらいたいところだけどね」
「あーん、もう気持ち悪い……。えいっ、えいいいっ」
「いいよアマリア……、うっ、うっ……」
「変な声上げないでください! くそう……なんで私がこんなことを……。えいっ、えいっ。なんかちょっと硬くなってません!?」
「アマリア、うっ……そうだ、もっと槍を構えるよおに、うっ……そうだ、正面から押し込むんだ!」
「やって……ますよ……! あーもう、おらおらおら!」
「それだアマリア! それをもっと……あ、もうイク」
「死ねえアイシクルソード!」
アマリアの手から氷の刃が飛び出した!
するどい刃がピーーに襲い掛かる。
グリーンドラゴンはピーーを引っ込めた!




