森の霊樹トレント②
一か月後。
「ハイドゥーモ・ワーワー・ユーティマスクゥド……!」
「お久しぶりにございます霊樹様! 不肖アマリアマリア・マリア・アマリアマリア帰って参りました」
「わしにとっては昨日のことのようだが……ふむ、どれ研鑽を積んだようじゃな」
「ハッ。霊樹様のおっしゃった通り、インナーをタイトなワンピースに変えてみました。スリットは下品になり過ぎぬよう膝上程度。色は白か白に近いものを選び清潔感を演出してみました。ローブも魔女は長丈という固定観念を捨て、涼しげなショート丈を、こちらは普段は白とフォーマルな場では黒と使い分けております」
「うむ。魔女というより聖女のようじゃが、そなたにはそれが合っている。よくぞ自分を見つめた」
「お褒めにあずかり光栄です。この衣装を身に着けるようになってから、周囲の対応が柔らかくなったと感じます。私自身、堅物だった人との接し方が軟化したように思います」
「そうじゃ、そなたは元々人に愛される素質を盛っておる。身なりを改め、それが他人にもよく見えるようになったのじゃ」
「もったいなきお言葉!」
「で、どうじゃ。急かすわけではないのじゃが、殿方との成果はどうじゃ?」
「ハイ! 女子にしかモテません!」
「……左様か」
「職場の若い女子たちから『お姉さま』『お姉さま』とキャッキャウフフといった具合で」
「……それでも以前の孤独な生活よりはましじゃろう。そなたは女友達がいないと嘆いて居ったわけじゃし」
「いえ、お言葉ですが彼女たちは友達ではありません。私のガワだけに自らの理想をを当てはめ群がらる、いわば虫です」
「ひねくれた精神の方はすぐには治らんようじゃな……。しかしそなたは王宮勤めであろう、いくらでも男がおるのではないか?」
「そのはずなんですけどぉ……。彼氏どころかお友達にもなれません……。霊樹様! ここはどうか王宮での殿方との接し方をシミュレーションしていただけませんか?」
「……」
「霊樹様! どうかお力を! 一族存亡の危機なのです!」
「じゃあわしが兵士をやるから、そなたはいつも通り接して見せよ!」
「ハッ、ありがたき幸せ。霊樹様が二人と居ればこの世から争いはなくなることでしょう!」
「失礼します。アマリアマリア・マリア・アマリアマリア殿はおいでになりますでしょうか?」
「はい、ここに。魔術研究所までわざわざご足労ありがとうございます。ご用件承ります」
「ホッ……」
「どうしたんですか急に胸をなでおろされて?」
「いえ、絡みやすそうで安心しました。実は早急に目を通していただきたい書類がありまして」
「敵国に与する竜族の脅威に関する書類ですね。内容は把握しています。それに対する意見書もすでにそちらに。他にご用件は?」
「いえ、意見書お預かりします。……」
「まだ何か?」
「いえ、失礼します」
「どうですか!? 以前よりだいぶ柔らかい対応になったと思うんですけど」
「……これで?」
「はい。幾分」
「よいかアマリアひとつ心掛けておけ」
「仕事の出来る女が一番モテん!」
「なんですって!?」
「仕事ができることは良いことじゃ。しかし、どこかに隙がないと男も委縮してしまう。天気の話でも何でもいいからちょっとは雑談を挟め! そなたのそれは若くして堅物お局魔女に他ならん!」
「ああ……います! いますそんなお局魔女……。すごいお仕事できるのに、あんまり尊敬されてないやつ」
「それがそなたの未来の姿じゃ、いや、もう片足を突っ込んでいる」
「そんな……!?」
「真面目なそなたは雑談はいけないことだと思っているのだろうが、たまの雑談こそが仕事を円滑に回す潤滑油と知れ」
「ガガーン! 私がやってこなかったやつだ!」
「なにも急に流暢に喋れるようになれとは言わん。だが会話をしたならどこかにひとつ関係のない話を入れるのじゃ。そして、一番大事なのは笑顔じゃ」
「え、が、お……」
「そう、会話が上手くいかなくても最後に相手の目を見て、笑顔でお疲れ様ですと言う。今のそなたならそれだけで、男も放っとかまいて」
「霊樹様……。私、頑張りすぎていたのかもしれません」
「うむ。その他は名門かつ名誉ある仕事をしておる。いわば高値の花じゃ。うぬぼれるでないぞそれは壁があるということじゃ。壁を壊すもの……それが笑顔なのじゃ」
「わかりました、このアマリアまた道を違うところでした。私、笑顔の練習をします。みんなに笑顔を振りまける魔女になります!」
「そうじゃ。もうこの件でそなたに授ける言葉はない。行くがよい。我らが再び相まみえるのは来たるべき厄災のときであろう!」
アマリアは王都に帰った。
その夜アマリアは、自室の鏡に向かって笑顔の練習をした。
「アマリアマリアさん、そのローブ素敵ですね」
ある日、食堂でアマリアは同世代の魔女に声をかけられた。
「どこでお求めになったの?」
アマリアは精一杯のぎこちのない笑顔を彼女に向けて言った。
「じ、自分で作ったんです。お店だとちょうどいい丈が見つからなくて」
「え、自分で!? すごい! よく見せてもらってもいいですか?」
「い、いいですよ」
アマリアは勇気を出した。
「あなたのローブも素敵ですね。どこでお求めになりましたの?」
クエスト『霊樹の信託を受けよ』クリア。
アマリアは霊樹のしずくを手に入れた。
アマリアのレベルが上がった。
アマリアの魅力が上がった。
アマリアの裁縫スキルが上がった。
アマリアに女友達が出来た。




