聖堂の守護者ガーゴイル
「ハイドゥーモ・ワーワー・ユーティマスクゥド……!」
「私は対話の魔女アマリアマリア・マリア・アマリアマリア。長いのでアマリアとお見知りおきを。えーとこの聖堂に彫られたガーゴイルの石像さん? 秘術によりあなたの魂に直接語り掛けています。もしあなたに魂なるものが存在するのなら、ですけど」
「……人間のォ、人間のォ、魔女よォ!」
「わ、本当に通じた」
「俺は……!」
「はい」
「俺は……!」
「はい」
「俺は……俺は……ここにいるぞォォ!」
「どうやらただの雨どいではないようですね。長年聖堂を守護したことで魂が宿ったのでしょうか」
「……人間のォ、人間のォ、魔女よォ!」
「はい」
「………………そうだ!」
「どうしよう絡みづらいです。ずっと話し相手がいなかったからでしょうか」
「そうだ、俺は一人……! この悪魔みてえな姿で! この町を見守ってきた!」
「えっとですね、話し戻しますけど、近頃夜になると聖堂のガーゴイルが町を飛び回り奇声を上げているとの報告がありまして、私はその調査にやってきました」
「この町は腐っちまった……」
「あの聞いてます?」
「民よォ! 俺の声を聞けえええ!」
「いや、ガーゴイルさんの声は対話の魔法を使った私しか理解できないんですよ。騒音問題になってるのでやめていただきたいと」
「……知らねえふりして石像やってりゃあいい? ……そうだ、そうすりゃ安泰だ。……でもな! 俺の目と耳は飾りじゃねえんだロックンロール!」
「いや、彫刻ですけどね」
「………………言うじゃん」
「間がうっとおしいです……! あのぉ、とにかくなにか思うことがあって話を聞いてほしいということですね」
「ザッツ・ライ」
「(イラッ)でしたら私が代表して聞いて人々に届けます。ですので夜中に叫ぶのはやめて私に吐き出していただけませんか?」
「空は何色だぁ? 魔女さんよォ……空は何色だぁ?」
「話通じてるのかなあ。……今日は雲一つない青空ですね」
「空に……、空に色なんかねえ!」
「うるさい……」
「空の色は誰が決めた! 空は空だ! 人間だって同じだ…………誰が誰を王と決めた? 誰が誰を貴族と決めた? 聖職者は? 平民は? 噛みつかれりゃあ誰だって赤い血が流れる……じゃあ王と平民は何が違うって言うんだカモン!」
「貧富の差などは確かに問題かもしれません。しかし王には王の逃れられぬ責務があります。人は宿命を抱いて生まれ、それに殉じるものです。ガーゴイルさんあなたも聖堂の守護者として生まれたのではないのですか?」
「愛は……愛はどこにいっちまったんだい……!?」
「はい?」
「王は妃と妾を抱き、平民は平民を、貴族は選びたい放題、……じゃあ俺は誰を抱けばいいんだロックンロール!」
「いきなり何を言い出すんですか……。なんでもロックンロールつければいいと思ったら大間違いですよ?」
「俺はたった一人、この太った聖堂の屋根の上、愛し合うことさえできやしねえ。愛し合うことさえ……できやしねぇ……んだ!」
「それはお気の毒ですけどあなた石像ですよね。必要ないんじゃないんですか?」
「愛が要らねえ世の中に誰がした!」
「返しがいちいち面倒くさい……」
「だが俺は誰も抱けなくてもいい(早口)」
「言ってることがもう違う」
「俺は……俺は……ただこの町を見守る石像……! 民の幸せが俺の幸せ」
「はい、でしたら大声出して飛び回らず、来たるときまで見守ってください」
「民の幸せが俺の幸せなんて誰が言った!?(早口)」
「お前だよ」
「そうだ民の幸せが俺の幸せだ」
「話が進まない……」
「だが俺は孤独だ……この町の聖堂は腐りきってやがるが歴史は古い。俺が魂を持っちまうほどにな……。王都の大聖堂にも行ったが、ピカピカのガーゴイルがいっぱいいた……だが誰も魂なんか持っちゃいなかった……!」
「王都の大聖堂は10年ほど前に大改修しましたからね」
「だが俺は嘆いちゃいない!」
「いや散々嘆いてましたよ?」
「この町のガキどもが笑ってりゃあよぉ、笑ってりゃあよぉ、……オーライ!」
「見守ってあげてください」
「俺はこの目と……この耳で……この町のことなら何でも知ってる。……汚職、犯罪、くだらねえ争い……俺はこの町のことなら何でも知ってる!」
「そうなんですね。それは興味深いです」
「この町は腐ってる!」
「それを教えてください。もしかしたら汚職を暴けるかもしれません」
「この町は腐っているのさ!」
「わかりましたから教えてください」
「この町だけじゃねえ……!」
「話がそれていく……」
「人間よォ! ……ニンゲンサマよォ! 本当にそれでいいのか!?」
「だからなにがですか?」
「悲しいよなあ……! やるせねえよなあ……!」
「はあ……」
「同じニンゲンのはずなのによォ……どうして人は人の上を目指し、弱者を虐げるんだ!?」
「良いことは言ってるんですけどねぇ……」
「楽しいかい……? 笑えるかい……? 愛してるって……胸張って言えんのかい!?」
「これ私に聞いてます?」
「愛は死なねえ……! 死んじまったのは人の心だチクショウ!」
「この人、石像ですよね?」
「俺がこれから叫ぶのは、そんなくそったれた町の中で、とびきりくそったれたことをしてるやつらだ!」
「あ、話が戻ってきました」
「俺の声を聞けええええええ!」
「だから聞きますって、うるさいですねえ」
「ワン、ツー、スリー、フォー、ジャラーン」
「エアギターはじめちゃいましたね」
「くそったれのザリ神父は~孤児を貴族に売って私腹を肥やしてる~」
「それは聞き捨てなりませんね」
「ブタ貴族のフォートゲルは~買った孤児にいかれた芸を仕込む~」
「なんてこと……」
「毎晩サーカスじみた見世物に~町長の息子もご満悦~」
「町長の息子まで関与していたとは」
「真面目が取り柄の町長は~夢にも思わずおねんねさ~」
「施政者が善人であればいいわけではないのですね」
「怠惰な関所の衛兵たちは~通行料をせしめて安酒を飲んで~」
「よく聞く話です」
「女とわかりゃあ やりたい放題~」
「許せません」
「マフィアは娼婦に薬を配り~娼婦は馬鹿な男に病気を配る~」
「王都の威光が届かぬ土地ではマフィアがのさばるのですね」
「花屋のメアリーは~自分のことを処女だと言い張り~痛がるフリをする~」
「あ、どうでもいい」
「衛兵のハイアンは~昔は騎士だったとほらを吹くが~掃除係だった~」
「そっとしといてあげましょうよ」
「パン屋のトニーは~パンを焼くときに絶対手を洗わない~絶対~」
「小さいですけど絶対嫌ですね」
「くそったれな欲望と くそったれな見栄
くそったれな悪人と くそったれな善人
くそったれなくそったれ センキュー!」
「一部激しくどうでもよかったですけど、それが本当なら由々しき事態です。ガーゴイルさん疑うわけではありませんが、これらは全て事実なのですね」
「俺は……町を見てきた! 他にやることもねえ……! それが俺の使命だ! そうだろ!?」
「えっと、事実だということでいいんですね」
「だが! 俺の叫びは……俺の叫びは……まだまだこんなもんじゃねえ!」
「出来れば叫ばないでいただきたいのですが、この際ガーゴイルさんの知っていることを全部教えてください。私もガーゴイルさんのことを信じてこの事実を国に報告します」
「いくぜぇー!」
アマリアはガーゴイルの叫びを聞き、そのすべてをメモに取った。
叫びは一時間にも及んだ。
「今のが最後だサンキュー!」
「ありがとうございます。大半はどうでもいいことでしたけど、この町の暗部はしかと受け止めました」
「オーケイベイビー」
「この事実が明らかになれば、ガーゴイルさんはこの町の守護者として、人々から感謝されるでしょう」
「だが俺は知っている……! 俺は知っているんだ……!」
「はあ、なにを?」
「……なんだと思う?」
「問われました。私はいま問われています。えーとわかりま……」
「もう終わりなんだ! この聖堂はもうじき建て替えられる……! 俺の役目は終わりさ……」
「そうなんですね。残念ですが、まあ歴史も古いですし……」
「飛び回る石像がいるから不気味だってな!」
「自業自得だった」
「だが俺は構いやしねえ……魔女さんによォ、この町のくそったれを伝えることができたんだ……俺は構いやしねえ!」
「でもガーゴイルさんが町のためを思って、守ってくれていると伝えればわかってもらえますよ。それにガーゴイルさん動けるんですから、新しい聖堂の屋根に住み着けばいいんじゃないですか?」
「……それ大丈夫? ……討伐されない?」
「ガーゴイルさんの功績が伝われば大丈夫です。微力ながら私もお伝えします」
「……サンキュー……」
「意外とナイーブなところあるんですね」
「ワン、ツー、スリー、フォー、ジャラーン」
「急に始まる」
「俺はずっと孤独だった
誰でもいい 話したかった
叫びたい言葉 山のようにある
伝わらなきゃ 遠吠えさ」
「急に暗い」
「俺は獣さ 爪と牙
なんにいったい 使うのさ
俺に宿った魂は 俺に何をさせたい?
人に宿った魂は 俺に何を求めるか?
求められやしないのさ 俺は獣さ
嗚呼 人間になりたい
嗚呼 人間になりたい
……サンキュー」
「いやあの、ガーゴイルさんの思いは私が必ず王都に届けて、町がよくなるようにしますので、あまり自分を卑下なさらないでください。ちょっと町に迷惑をかけちゃったかもしれないですけど、ガーゴイルさんの行動は立派なものです」
「……サンキュー」
「それとひとつ疑問に思ったのですが、ガーゴイルさん自ら悪人を討伐しようとは思わなかったのでしょうか? 声が届かないのならそうすることが自然に思えるのですが」
「魔女よォ……。人間は獣だ! だが人間は獣じゃねえ! 人間はよォ、人間を裁くことができる獣だ。獣じゃねえ! 俺の爪と牙で引き裂くことは……簡単だ。だがよォ、人間は獣じゃねえ! 人の罪は人が裁くってのが筋ってもんだろロックンロールカモン!」
「話に無駄は多いですが、賢明な判断です。あなたがその牙を振るっていればあなたの方が討伐されて全ての真相は闇の中でしたでしょうから」
「そうさ……だから俺は……何も出来ねえ……!。指を咥えて見ていることしかできやしねえんだ……!」
「あ、これ始るな」
「ワン、ツー、スリー、フォー、ジャラーン」
「もう好きなだけやってください」
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ……。……」
「もしかして、合いの手を求められてます?」
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ……。……」
「どうやらそのようですね……」
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ……。……」
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ」
「ただの石に戻りてぇ……!」
「合いの手入れたのに暗い……」
「ただの石に戻りてぇ 夜はいつもそうさ
石の翼でいくつもの町を渡った 喋れる石像は俺だけだった
石の足でいくつもの屋根を渡った 動ける石像は俺だけだった
俺の町は腐ってる でも子供たちは元気だぜ
お前の町はどうだい 不正が蔓延してるのかい
時が来れば教えてくれるかい 子供が大人になるように
時が来れば教えてくれるかい 生きるってのは退屈だ
俺はただの雨どいだ そんなことはわかってる
ただ自由が目の前に寝そべっている
ただ孤独が目の前に寝そべっている
……センキュー」
「……私もいろんな町でガーゴイル見かけたら声かけてみますね……」
「……だからよォ……魔女さん……あんたに、頼みがあるんだ」
「なんでしょう?」
「あんたその紋章見るに……王都の魔女だろ? 毎度毎度こんな辺鄙な町に来てもらっちゃ世話ねぇぜ。だからどうだい、その対話の魔法とやらをこの町の魔法使いどもにも教えてやっちゃくれねえか?」
「…………それはできません。この魔法は危険なものです。本来、秘匿されるべきものです」
「……あんたは危険じゃねえのかい?」
「……そう努めています」
「世界はひとつだァ! だが世界はひとつじゃねえ! 全ての人と魔物が話し合うそんな未来……見たくねえのかい?」
「理想論です。ガーゴイルさんが告発したように人間の中だけでも悪人と善人がいます。種族をまたいですべてに友好とはなり得ません、絶対に」
「………………それな!」
「間がうっとおしい……。では私は報告もあるのでそろそろおいとましますね」
「…………待ちな!」
「なんでしょう? ガーゴイルさんの証言は必ず、この町のために役立ててみせると誓います」
「そうしてくれ」
「では……」
「…………待ちな!」
「はい、なんでしょう? まだご用件が?」
「人の世は……どうして…………アレなんだ」
「アレとは?」
「まだ伝えてねえことがあるんだ(早口)!」
「なんでしょう?」
「ウォ~ウォ~ウォ~ウォ~」
「いや、歌はもう結構ですので」
「変わっちまったなァ!」
「なにがですか?」
「変わっちまった……何もかもがよォ……」
「用がなければ帰りますけど」
「…………待ちな!」
「なんなんですか? 要件があるなら早く言ってください――
――あ、もしかしてガーゴイルさんさみしいんですか?」
「…………」
「黙っちゃいました。あれだけうるさかったのに……」
「…………」
「まあ魂を持ってはじめて誰かと会話できたのですから、わからないでもないですよ? でもですね私にも都合というものが……」
「…………」
「申し訳ないですけど私行きますね。ガーゴイルさんの告発が明るみに出た際にはまた寄りますから」
「ヒトリニシナイデ」
「そんなこと言われましても……」
「…………」
「お気持ちは察しますけど私だって仕事があるんですよ。王都まで飛んで帰らないといけないですし」
「……送ル」
「いやいいですよ」
「王都マデ遠イ。俺ノ背中ニ乗ッテイケ」
「なんで片言なんですか」
「それに空飛ぶガーゴイルから颯爽と城に降り立つ魔女、目立つ。カッコいい」
「……それはちょっと確かに」
「ガーゴイルが動いているという証明にもなる。告発に信憑性が増す」
「ううん……わかりました、わかりましたよ。じゃあ送ってください。言っときますけど飛ぶより対話の魔法を維持する方が疲れるんですからね!」
「アリガトウ、ニンゲン、スキ」
「普通にしゃべって!」
ガーゴイルは、アマリアを背中に乗せて、王都へと飛んだ。
城のバルコニーに降り立った一人と一頭は衛兵に取り囲まれた。
アマリアは言った。
「私は宮廷魔術師アマリアマリア・マリア・アマリアマリア。祖先の名において宣言します、この者は聖堂の偉大なる守護者であり、我が友。私は王の命によりこの者と語らいました。彼は勇気ある証言者です。王との謁見を希望します」
厳重な警備の元、王の前に通されたアマリアは、ガーゴイルの告発を重要なものだけ読み上げた。
クエスト「空飛ぶ石像の謎を追え」クリア
アマリアの名誉が上がった。
アマリアは20000Gを手に入れた。
町の不正が暴かれた。
町はつかの間の平和を取り戻した。
ガーゴイルが仲間になった。




