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一悶着

あれから一週間が経った。


盗賊を倒してから様々なことがあったが、何の問題も無くここまで来ることが出来た。

今、俺達はアドマスト王国の王都門の前にいる。入国するために検問を通る必要があり、長い列に並んでいる最中だ。目測、あと一時間は掛かると思われるほどの長い列にウンザリしながら隣を見る。


そこにいるのは一人の少女。あの後名前を聞いた所、ホノカという名だと教えてくれた。あれから根気強く何度も話しかけ、今では話しかければ会話が続くようになるまで関係が発展した。これは大きな進歩と言えるのではないだろうか。

ここに着くまでに色々なことがあったので、少しは打ち解けたのだと思いたい。


関係性はともかく、見た目も大きく変わっている。最初は汚れで皮膚も何もかもが真っ黒な状態だったが、水魔法を使って洗わせたところくすんでいた髪は綺麗な黒髪になり、汚れていた皮膚はきめ細やかな白い肌になった。

中でも目を引くのは紅の瞳だ。日本ではあり得なかったであろう深紅の眼は、ルビーのように煌めいている。


総評は美少女、と言ったところか。なのでさっきからチラチラと視線を感じる。俺にではなくホノカに向けたものだが。マセガキ共が......それだけならまだしもオッサンの視線も混じっているからタチが悪い。ホノカを見ているオッサン共に目を細めて睨みを効かせると、焦ったように目を晒した。まあ俺も精神はオッサンか.......いやでも身体は子供だから!セーフだと信じたいところではある。


誰にするでも無い言い訳を考えていると、列が少し前に進む。それでもまったく人数が減ったようには見えない、まだまだ掛かりそうだ。


そんな時、俺達が並んでいる所の少し後ろが騒がしくなった。怒鳴り声が聞こえてくるようで、何か揉め事が有ったのかもしれない。



「ん?何かあったのかな?」


「後ろ、なにか......言ってる」



ホノカも俺の疑問に反応してくれた。こうやってコミュニケーションを取ることが出来るようになったのは最初の頃を知っていると感慨深くもある。

騒がしい声は段々とこちらに近づいて来ている。面倒な予感.......出来れば諍いは起こしたくないのだが。


人混みを掻き分けて現れたのは三人組の男達だった。冒険者風の格好をしていて、各自腰には剣をさしている。まさにチャラ男、といった風貌で、トゲトゲした髪が特徴だ。



「おい、ガキ共。そこ退けよ、俺らは急いでんだ」



上から目線で一人がそう告げる。完全に俺達を見下しているようだ。

そんなことだろうと思ったが、いざ聞くと腹が立つ。さっきから聞こえていた騒めきは彼らに対する不平不満の声だったのだろう。理不尽な言い分に横柄な態度、逆に好かれる要素の欠片も無い奴らだ。腰に剣があるのを見て、誰も文句を言えなくなったと見るのが妥当か。



「お断りします。俺達が退く理由がないので」


「あぁ?俺達は冒険者だぞ?それに急いでるって言ってんだろうが!」


「それでもお断りします」



最初とは違う男、チャラ男Bが俺の言葉に食ってかかる。今のやりとりだけでこんなに怒るとは、カルシウムが足りていない証拠だ。と冗談を言える雰囲気ではなく、険悪なムードが俺達の間に漂う。



「クソガキが......!大人の言うことが聞けないのか!!」


「あんまふざけてるとこっちも手が出るぞ?」



どうするのかと思えば暴力をチラつかせるとは......反吐が出る。思っていた以上の屑だったみたいだ。なら尚更譲るわけにはいかない。



「大人ならもっと節度のある行動を心掛けては?子供でも分かることですよ」


「なっ!テメェ.....!」



なんら間違ったことは言っていないはずだ。大人だ子供だと区別するのなら大人として子供の見本になる行動をするべきだろう。俺の言ったことを聞いて周りの人も同調している。「本当だよ」とか「なってないわね〜」とか、呟きが聞こえてきた。俺の耳に届くということは彼らにも聞こえるということ。



「この野郎!もう容赦しねえぞ!」



腰の剣を引き抜く三人。プライドを傷つけられたのだ、黙っていられるはずがない。嘲笑を受けたのがよっぽど効いたのか、顔は恥辱と怒りで真っ赤に染め上がっている。



「構いませんよ。出来るものならどうぞ」



暴力に訴えてくれようが俺は一向に構わない。お灸を据えるくらいなら問題にもならないだろう。



「こっの野郎ォォォォォォ!!!」



子供程度簡単に倒せるとでも思っているのか、隙だらけな大振り。それに合わせて大きく振りかぶった剣を避け、足を引っ掛けて思い切り蹴り上げる。空中で一回転した男Aは地面に叩きつけられ動かなくなった。


それを見ていた男Bが斬りかかってくるも、横薙ぎに振われた剣を屈んで回避し、ガラ空きの鳩尾にボディーブローを叩き込む。「うぐぇっ!」と変な悲鳴を上げてコイツもノックアウト。あとは最後の一人だけだ。


俺との実力差がやっと分かったのか、少し及び腰になっている男C。それでも大勢の人が見ている中で俺みたいなガキに謝るわけにもいかず、繰り出したのはヤケになった縦切り。


遅すぎるそれを手の指で掴んで止めると、目に見えたように狼狽え始める。



「なっ!は、離せ!」



勿論、その要望に応えることはしない。剣を掴んだまま引き寄せ、バランスを崩した男を殴って気絶させた。気を失っていないと抵抗するからな。必要な措置だったと言える。



「おい、何をしている!」



三人組を縄で縛っていると、衛兵と思わしき人が二人やって来るのが見えた。周囲にいた野次馬の何人かが呼びに行ってくれたのだろうか。呼びに行く手間が省けて良かった。



「コイツらが急に襲いかかって来たもので。周りの人に事情を聞いてもらえば分かるかと思います」


「ああ、俺達を呼びに来た人から事情は聞いているよ。子供二人が襲われていると聞いたものでね。一応君達からも事情を聞きたいから同行して貰えるかな?」


「はい、それは構いませんが.......そのまま入国させて貰えたりってしますか?」



ここまで並んだのに事情聴取が終わったらまた一から並び直し、なんて事になったら最悪だ。そうならないために保険をかけておかねば。



「うむ、そうしよう。では着いて来てくれ。おい!お前はこの悪党共を連行しておけ!」



俺に話しかけて来た衛兵は、もう一人に男達の捕縛を命令すると俺達を先導して歩き出した。

事情聴取......どれだけ時間を取られるのやら。これで捕まるなんてことは無いと思うが、経歴に傷がつくのも嫌だな。いざとなればホノカには何も罪が無いことだけはハッキリさせておこう。


少し歩いて着いたのは衛兵が待機している休憩室のような場所だった。彼の前に机を挟んで向かい合って座ると、彼が話を切り出す。



「さて、まず君達を罪に問ったり、なんらかのケチをつける気も無いという事だけは言っておく。とは言っても書類は制作しなければならなくてね。俺の質問に幾つか答えてくれるだけで大丈夫だ」



ふむ、結構話が通じる人のようだ。子供だからと遠慮してくれている所もあるだろうが、それを差し引いても善い人に分類されるだろう。



「まず、一つ目だが名前は?」



名前ーーそれは俺がこちらに来て一番悩んだことの一つと言える。元の名前は 烏丸 玲 だけど、こちらの世界でどう名乗るかは家を出る直前まで決めていなかった。名乗る人も相手もいなかったし、名前が無くても困らなかったからだ。別にそのままでも支障はないけれど、人生をもう一度始める気分転換として変えてみようという結論に至った。



「はい、レインと言います。姓はありません」



「玲」をほんの少し弄っただけの名前だが、俺にしては中々いいものを思いついたと思っている。これなら異世界でも違和感はない。



「レイン、か。いい名前だ。次、何らかの身分を示す物を持っているかい?」


「いいえ、なのでここで冒険者ライセンスを取ろうかと」


「なるほど、あそこは年齢制限が無いからね。それがこの国に来た目的かな?」


「はい、両親が死んでしまったので妹を養わなければいけませんから」



妹、というのは言わずもがなホノカの事だ。子供二人が旅をするなんて怪しさ満点だろう。怪しまれないためにも兄弟で親がいないという設定にした。ホノカにも相談して決めたので設定に穴は無い。



「親御さんが.....すまないね、辛いことを思い出させてしまって」


「いえ、もう過ぎたことですから」


「そうか.....質問は以上で終了だ。最後に、この球に手を翳して見てくれないか?これは二人共だ」



そう言って彼は横にある棚から透明な水晶を取り出した。これは....悠花の知識の中にもあった物と同じだ。犯罪歴を調べる魔道具。手を翳すと光るか否かで犯罪歴の有無を判定するものだ。実物を見るのは初めてだったが、俺もホノカも犯罪なんてしていないので光らなかった。



「うん、これで全部だ。君達の入国を許可する。冒険者、応援しているよ」


「はい、ありがとうございます。それでは」



衛兵室のドアを通り、外に出る。衛兵の人が言っていた道筋を歩いていくと大通りに出た。見えるのは美しい王城。


やっと、俺達はアドマスト王国に到着したのだ。

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