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奴隷の少女

パチパチと焚き火が燃えている。


すでに時刻は夜。日が沈み、辺りは暗闇に包まれていた。


焚き火の側にはテントが張ってあり、その隣には先程見つけた少女が横たわっている。俺は焚き火で肉を焼いている最中だ。結局盗賊のせいでお昼ご飯も食べ損なったし非常にお腹が空いた。


手の込んだ料理を作る時間も惜しいので、魔物を狩って手に入れた肉を焼くだけの簡単なもので済ませるつもりだ。


辺りにいい匂いが充満し、非常に食欲をそそられる。焼けた肉から豪快にかぶりつき、少女を発見した時のことを思い出す。









♦︎♢







なんだ?これは。


最初に出てきたのはそんな疑問だった。

年端も行かない少女が樽の中に入っている。それだけでも異様な光景なのに、その上傷だらけ。どうみても無事ではない。


急いで樽から少女を取り出し、横になった馬車の床に寝かせて傷の具合を見る。

日本では医療行為などド素人だったが、修行で怪我を繰り返すうちに自然と手当てや治療ができるようになっていった。今がそのスキルを遺憾無く発揮するときだろう。


局所的な感知によって怪我の位置を探る。


外傷は打撲のみ、しかし内臓が損傷している。商品だからか、暴力は振るっても残るような傷はつけなかったのではないか。........どちらにせよ気分の良いものではない。


俺は善人ではないがこんな怪我だらけの少女を見捨てるほど落ちぶれてもいない。即座に魔法陣を展開し、内臓などの重傷から治療していく。応急処置が終わると、打撲などの軽傷を中心に治癒魔法を施し、酷い場所には持ってきた軟膏を塗り包帯を巻く。怪我はよくしたので手慣れたものだ。


処置が終わって一息つくと、やはりあの商人を助けなくて正解だったと思う。これが大人だったならば溜飲も下がったものの、何の罪もない子供を暴行するような人間を助ける気はさらさら無い。


むしろ俺が殺しても良かったーーそこまで考え、思考を中断する。

人を殺すことが必ずしも悪であるとは思っていないが、自分から殺したいと思うのは間違っている。俺は相手から何かをされない限り誰も殺しはしない。


できる事ならザック達盗賊も生かして捕らえたかったが、今の俺では力不足だった。逃げられる可能性が一ミリでもある以上、殺さなければ次の犠牲者が出る。そうなれば、その責任の一端は俺にあると言っても過言ではない。


そうならないためにも、明確な「敵」であるなら殺す。今の俺では不殺は貫けない。


魔法とスキルをできるだけ使わないようにしていたが、剣だけではまだまだという事を今回痛感した。もっと努力しなければ勇者への復讐は果たせない。曲がりなりにも魔王を倒した人間だ。中途半端な強さでは決してないのだから。


チラリと少女の方を見る。


だいたいの傷は治したと思うが、あまりに傷が深い所は完治していない。このまま置いていくのも後味が悪いし.......。



「はぁ〜」



少女を揺らさないように慎重に持ち上げると、俺は野営する場所を探して歩き出した。





そうして見つけたのがこの場所だ。ほどよい広さなのは、俺が木を伐採したから。充分なスペースも確保した上火も焚いてあるし余程の事が無い限りは安全だろう。


にしても肉だけでは味気ないな.....塩、胡椒だけでも確かにお美味いが、あの家での生活で舌が肥えている気がする。もっと調理できる場所か器具が欲しいな.....。



「うぅん....」



と、その時少女がモゾモゾと身動きし、寝起きの声を上げた。匂いに釣られたのかそれとも自然に目が覚めたのかは分からないが、ちゃんと怪我が治っているようで何より。


身体を起こし、何度か目を擦って初めて彼女は俺の存在に気づいたようだ。


俺を見てビクリと身体を震わせ、怯えた目で再度俺を見つめている。起きたら目の前に知らない男がいたら怯えるのも仕方がないか。このまま放っておくのも流石に悪いし。



「大丈夫?俺は君の敵じゃないよ」



まずは俺の立場をはっきりさせる。しかしそれすら信じられないのか、段々と後ずさっていた。

両手を降参のポーズにしてもう一度話しかける。



「俺は君に暴力を振るわないし何も要求しない。大丈夫だ」



........駄目か。これでも彼女からは俺への恐れが少しも軽減されていない。時間が経って自然と理解するのを待つか?



「み、皆は......皆はどこですか?」



!声を震わせながらも彼女は俺にそう問いかけた。最初からなんともまぁ答えにくい質問だ。



「......君の乗っていた馬車が襲われたのは覚えているかい?」


「は、はい。覚えてます」


「君の言う皆はーーそこで命を落としたよ」



愕然とした表情に罪悪感を覚える。途中で観察をやめて助けに入っていれば何人かは救えた。なのに俺はそうしなかったから。



「...............っ.......」



俺にとっては赤の他人でも、彼女にとっては大切な人だったのかもしれない。だから彼女は樽の中に入っていた。盗賊から守るために、仮に自分達が死んだとしても彼女だけは生き残れるように。


くしゃりと顔を歪めて、必死に泣くのを我慢している。俺の前で泣けばまた殴られると考えての事だろう。今までがそうだったから。



「泣きたい時は泣いていいんだ。我慢なんてしなくていい」


「つっ......!あぁ...うあぁぁぁぁぁぁ!」



その一言で緊張が緩んだのか、大声で泣き始める。良くも悪くも誰かの言うことに彼女は絶対服従を貫いているのだ。


こんな子供が泣きたい時に泣けないなんてのは間違っている。子供は泣くのが仕事、抑える必要なんて無いんだ。


だけど、俺にそれを言う資格は無い。彼女の大切な人達を見捨てた俺には。ただ泣きじゃくる彼女を抱きしめることしか出来ることは無かった。







少女は数分泣いたあと、泣き疲れたのかスヤスヤと眠ってしまった。寝息も規則正しいし、治療ミスややり残しはないと確認出来た。


眠ってくれたのは丁度良かったと言わざるを得ない。なぜなら、さっきから魔物の気配が絶えないからだ。魔物を殺すなら、こんな小さな子供は見ていないほうが良いだろう。

まあ場合によりけり、だけど。


抱きしめていた少女を天幕の中に寝かせ、俺は茂みの中に入っていく。少し歩いた所で立ち止まり、腰から短剣を抜いた。


夜風が気持ちいい。


こんなものがいなければ、もっと良かっただろうに。


ガサガサと草むらを掻き分けて現れたのは数十体にも及ぶ魔物の群れ。夜になって気が立っているのか、赤い眼は爛々と輝いている。俺が剣を持っていなければすぐにでも飛びかかって来たであろうそれは、ジリジリと俺を取り囲んでいた。



「ガオォ!!!」



リーダー格の一声で、周りの魔物達は一斉に動き始める。だが所詮は烏合の集だ。


向かって来た奴から順に切り刻み、次へと向かっていく。赤と緑の閃光が夜の森を駆け抜け、後には魔物の屍が残るのみだ。


途中で俺の行手を阻んだのは亀型の魔物。そこで一度立ち止まることはせず、思い切り剣を振り下ろす。鉄以上の硬さを持つ甲羅は、たとえ聖遺物(アーティファクト)だろうと簡単に切れる代物ではない。


ーースキル【斬鉄剣】


が、スキルを発動させた剣に銀色の光が灯り、見事なまでに亀を両断した。その勢いで周囲の魔物を蹴散らし、最後の一体であるリーダー格の魔物を滅多切りする。細かい肉片となって魔物は倒れ、剣から血を切って鞘にしまう。


実は、俺はザック達にもスキルを使用した。人道的にも人にこれを使うのはどうかと思ったが、強くなるためにはなりふり構っていられない。それほどまでにザックのスキルは有用性が高いものだ。これが俺のスキルだと言い張っても誰も疑わないはず。


にしても魔物の数があまりに多過ぎる。俺の一人の時はあれほどじゃなかったし、あの子を狙って来たのか.....?


狙われ体質でも持っているのかもしれない。起きた時に聞いてみるか。【死霊契約(ネクロマンス)】で魔物達との契約を終わらせ、天幕を設置した場所に戻る。


中に入ると、少女が寝ているのが目に入った。彼女をベッドに寝かせたのを忘れていた。どこで寝ようか.....とりあえず枕でも持っていこうとベッドに近づいて二つある内、使われていない方に手を伸ばす。



「おかあ......さん」



その時、ボソリと漏らした寝言を俺の耳は聞き逃さなかった。閉じられた瞳からは涙が流れている。彼女はさっきのあれでもまだ気丈に振る舞っていた。親もいない、仲間もいない。今、彼女には何も無いのだ。願わくば、俺が彼女に何かを与えてあげたい。


そういえば、名前すらまだ知らないなーーそんな事を考えて、俺は天幕から出て行った。

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