TO族?いえ、盗賊です
「魔の森」を抜けてアドマスト王国に行くには、まず街道に辿り着く必要がある。
開通している道は無いが、森の端っこなら大丈夫だろうと作られた道があるのだ。少しでも輸送時間を短くしようという商人魂の屈強さたるや。
森の端でも魔物は湧くので、護衛がいないことには通行が不可能。
そこで、魔物に襲われている小隊を見つけてそれを颯爽と助ける。お礼として街まで送ってもらう、というのが作戦だ。
別に歩きで行ってもいいのだが、街の検問を通る際にそちらの方が怪しまれないだろう。
タイラントグリズリーが振りかざした太い腕を避け、『ヴァンタス』を媒介とした風魔法で首を切り落とす。
今は戦闘中だが、もう何匹目になるかも分からないタイラントグリズリーの襲撃にうんざりだ。
タイラントグリズリーは、日本でいう熊を大きくしたような風貌の魔物だ。名前の通り非常に気性が荒く、出会った時には即逃亡がセオリーになっているほど危険な魔物だ。
ランクはB。ちなみに俺がこの世界に来た初日に襲われたあの熊もコイツだった。
もう最初のような遅れはとらない。タイラントグリズリーを初めて倒せた時が一番成長を実感した。
グリズリーが倒れ、死んだのを確認してから方角を確認するために地図を開く。家があった方向から南に突き進んで行けば自然と街道に当たるはず。
今の所変な寄り道はしていないし真っ直ぐ進めているようだ。
ドスン、と背後から音がした。
積み上げられた魔物の死体の山から一番上のが落ちただけの音だ。
俺の背後にはCランク以下の魔物の死体が積み上げられていた。今俺がいるのは森の奥なので魔物の数が多いのは仕方がないけれど、なんで勝てないと分かっているのに襲いかかってくるのやら。
基本、Cランク以下の魔物には知性が無い。考える頭はあっても、それを理解できるほどの知性が存在しないのだ。だから、自分の仲間が殺されていくというのに無謀にも立ち向かって来る。
野生の本能とやらも、それを理解できていないなら意味をなさない。俺にそれほどの迫力が無いというのもあるかもしれないな。
はあ.......まだまだって事か。
「もういい時間だし昼飯でもーー」
その時、俺の探知網に魔物ではない何かが引っかかる。
風魔法を駆使した俺の探知網の範囲はおよそ半径三キロ。あやふやな探知でもいいなら五キロはいける代物だ。
「人間.....複数人で、しかも争っている?結構近いな」
........行ってみるか。お目当ての商人かもしれないし。
風魔法で補助をして、入り組んだ森の中を駆け抜ける。
一年間も住んでいたんだし森の中を走るなんて児戯に等しい。風のコントロールがあれば尚更に。最初の頃とは比べ物にならない速度で反応があった場所へ向かっていく。
丁度ここら辺だな。近づくにつれ血の匂いが濃くなっている。手頃な木の上に登り、様子を観察することに。
場所は俺の向かっていた街道。あまり整備されていない道の真ん中で戦闘が起きていた。襲われているのは馬車、戦っているのは首輪をつけた奴隷達だ。
「あ〜......そっちか」
魔物に襲われている商人を助けて運んでもらおうと思っていたが、まさか魔物じゃなくて人間だとは。格好からして盗賊崩れってとこか?
商人の方は奴隷商人だろう。そうでもなきゃ奴隷の数が多すぎる。
劣勢も劣勢。戦いが続けられている奴隷は残り二、三人だというのに盗賊はほとんど無傷の状態だ。商人は馬車の中でブルブル震えているだけ。奴隷が逃げ出さないのは首輪の強制力のせいだろう。
「死ねおらぁ!」
そうこうしている内に奴隷は全滅。馬車の中から商人が引き摺り出されて来た。
「お願いします!命だけは助けて下さい!何でも差し上げますから!」
「なんでもぉ?」
「は、はい!お望みのら金でも酒でも女でもご用意します!なのでどうか......!」
盗賊に膝をついて懇願する商人の男。ブクブクに太った体からしてかなりの金持ちだ。
「悪ぃがそのお願いは聞き届けられねぇなぁ。こっちも奪うのが仕事なんでね!」
そう言うと男は商人に剣を振り下ろした。
「ふざけるなっ!私の後ろに誰が着いているかーっ」
その続きの言葉を商人が紡ぐことは無かった。ゴロリと切断された首が転がり、光を写していない瞳がこちらを向く。
奴隷商人なんてのは大体が裏の職業だ。奴隷制度が法律で禁止されている国の方が今は多いから犯罪に手を染めてる奴がほとんど。それにそういう所の奴隷はほとんどが違法な手段、誘拐、強盗、殺人により調達された者だ。
同情の余地は無い.......が、奪うのが仕事と言うならこちらも遠慮なく目的を果たさせて貰おう。
「ギャハハハハハハ!見たか?今の豚野郎の顔!」
「ああ!傑作だっブゲェッ!!」
木から飛び降りて下品に笑っている男の顔面に膝蹴りを叩き込む。歯が何本か折れているが、俺の知ったことではない。もしかしたら今ので死んだかもしれないけど。
「なんだテメェ!.......ってガキじゃねえか」
「関係ねえ!コイツ、よくもドドを!」
一人が激昂して襲いかかって来た。手には剣、周りの奴らはまだ動いていない。
垂直切りを半身になって躱し、身体を一回転させて拳を鳩尾に打ち込むと血を吐きながら吹き飛んでいく。
「ガフゥッ!!」
俺のことをニヤニヤと見つめていた盗賊の顔色が変わる。まさか二人目の野郎がやられるとは思っていなかったのだろう。
「なっ!?コイツやばいぞ!おい、お前ら!全員でかかれ!」
やっと自分達の置かれている状況を理解したか。今ので二人戦闘不能、残るは六人武器は全員剣のみ。魔法も使う可能性もあり、といった所か。
「大人げないな。来い、お前ら」
影が膨張し、中から狼とタイラントグリズリーが飛び出す。正確には彼らの死霊だが、盗賊共にとっては大した違いじゃないだろう。
ま、大人げないなんて俺の言えた事ではないけれど。
一年間の修行を経て魔力量の増えた俺は、ひたすらに倒した魔物と契約を繰り返した。今出ている狼やグリズリーだけではなく死霊にしたのはもっと多岐にわたる。
《虚空》には基本無生物しか入れられないが、死霊は既に生物としての枠組みには入っていないので問題はナシ。これが俺の考えた【死霊契約の完璧な使い方だ。
「うわぁぁ!なんだよコイツら!」
盗賊とはいっても戦闘のプロではなく、ただのゴロツキだ。狼は倒せてもタイラントグリズリーの相手になるわけがない。
グリズリーが腕を振るえば一人、また一人と盗賊の血飛沫が飛び散る。グリズリーを後ろから攻撃しようとする果敢な輩もいたが、狼にまとわりつかれて食い殺された。
これぞ数の暴力だ。一体一体の質も高いけど。
「さて何処行こうとしてるのかな?アンタらは俺の相手だよ」
逃げようとしている盗賊二人に声をかける。弾けるような笑顔つきだ。おお、そんなに喜んでくれるなんて笑いがいがあるなぁ。
剣を抜いて彼らに歩み寄る。こんな子供相手にみっともなく尻餅をついて後退る盗賊達。
「待て、待ってくれ!金なら出すから!頼む!」
「え〜?でも俺も奪うのが仕事だしさ。許してくれるでしょ?」
にこりと笑って剣を振り翳すと、そこに別の声が割って入った。
「おいおいおいおい。な〜にやってんだお前らぁ。こんなガキにいいようにされやがって.....」
振り下ろそうとしていた剣を止め、声の主に目を向ける。
他の奴らよりも幾分か豪華な身なり。手には人の生首を持っている。馬車から逃げた人のものか?目撃者の排除まで徹底してるな。
「アンタが盗賊の頭領?」
次回!ヒロイン登場です。




