表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

第一歩

生体兵(ゴーレム)との訓練を終え、上に戻ってシャワーを浴びる。


訓練でかいた汗を流すこの時間は俺のお気に入りでもあった。激しい運動の後の風呂は、日本人である俺にとっては至高のものだ。これに共感できる人は多いのではないだろうか。


頭と身体を洗ったあと、湯船に浸かりながら考え事をする。


あの後、倉庫にあった生体兵(ゴーレム)はほとんど倒してしまった。コアの修復にも時間がかかるので、当分この出現はできない。



「そろそろ......潮時かな..」



ここを出て行く時が来たのかもしれない、そんな考えが浮かんだ。

これは唐突に出てきた思考ではなく、半月くらい前からずっと考えていたことだ。


ここでできる事はもうやり尽くした。書斎の本は全て読んだし、いまや生体兵も相手にならない。ずっとここに留まっていても、俺に進歩は望めないのではないか?

ここの所、ふとした時にいつもこう考えてしまう。


思い上がりかもしれないが、これは事実だ。森の中にも俺が倒せない魔物はもういない。実戦経験は充分に積んだし、俺も外の世界を見てみたいという気持ちが少なからずある。


折角の異世界なのだ、もっと色んなところに行ってみたいと思うのは自然なことだろう。


悠花の知識で知っているだろうと思うかもしれないが、映像で見るのと実際に見るのとでは全然違うのだ。それに、その知識の中で行ってみたい所はたくさんある。


無闇矢鱈に彷徨うわけではない。俺は悠花の知り合いーーもとい味方を探しに行きたい。王である神楽木 慎二に裏切られた後でも、彼女に変わらず接してくれていた数少ない友人に俺は会ってみたい。


復讐に力を貸して欲しいと頼むつもりは毛頭ない。これは俺がやりたいこと、言うなれば俺の我儘でしかないのだ。当事者以外、他の誰かを巻き込むのは俺の目的に反する。


だが外での俺の立場はどう説明すればいいだろう。俺は親も分からないし、どこで生まれたのかも、名前も不明なのだ。


いや、異世界にも生まれの分からない孤児は多い。地球よりも過酷な環境で、彼らのような存在がいない事の方がおかしい。

特に冒険者の子供はその傾向がある。両親共に冒険者の場合、クエストによる殉職が多い。

気は乗らないけれど、その振りをするのがいいか。


考えがまとまった所でザバッと湯船から上がり、身体を流して身体を拭く。

考え事をしていたら結構時間が経っていた。湯当たりしなくて良かった、と自分の体内時計に称賛を贈りつつリビングに向かう。


その途中でキッチンに寄り、冷蔵庫から牛乳を取り出して一気に飲む。



「ぷはぁ〜」



おっさんみたいな仕草だが、今の俺は子供だ。さぞ面白い画になっていることだろう。


牛乳の入っていた瓶を捨てて、今度こそリビングに着いた。ソファにドカッと腰を下ろし、背もたれに背中を預けてここを出て行くならどこに行こうか、と考えを巡らせる。


そばの机に置いてある本を開いてこの森の近くの国を探す。


近場でいうならマーゼント公国なんだが.....今は王が変わって治安が悪いらしいし却下だな。


やっぱり最初は無難なアドマスト王国でいいか。


正直どこに行くかはさして重要ではないし適当でいい気もする。

ここからだとおよそ一週間かかるけど俺の速さなら半日もかからないだろう。とりあえずは街道に出るところから始めなきゃな.....。


面倒なことにこの森には直接国に繋がっている街道が存在しない。昔はあったみたいだが、モンスターの被害が激しすぎて封鎖しれたそうだ。今ではその道には草木だけでなく植物系の魔物まで蔓延っている。


この森、正式名称を「魔の森」という。安直すぎると思うかもしれないがこれが正式名称だ。

名前の通り、ここには凶悪魔物が雁首揃えて生息している。理由は解明されていないらしく、今でも各国の学者が研究を進めているとか。


ま、人が寄り付かないからこそ悠花はここに家を作ったんだろうな。Aランク以上の魔物はほぼいないので手練れの冒険者なら通り抜けられる。勇者時代の仲間なら可能だったのだろう。


行き先は決まったが、いつ出発しよう?


俺の性格上、また今度にしよう、とかまだ準備が出来てないし、とか言って先延ばしにするだろうから思い切って明日にしよう。荷物もそんなにないし。


そうと決まれば次は武器だ。魔物の存在するこの世界でこれより重要なことはそんなに無いだろう。


ソファから立ち上がり、玄関を出て隣にある黒い建物に向かう。


途中、狼が見えない壁にタックルしているのを見つけた。

俺の匂いを嗅ぎつけてここまで追って来たのだろう。でも結界に阻まれて入って来れないといったところか。


それを無視して歩いていくと真四角な形をしており、真っ黒な物体にたどり着く。このいかにもな怪しい建物が、武器保管庫だ。


観音開きの扉を開けると、それがハッキリと分かるように中には様々な武器が置かれている。剣、槍、斧、杖、はたまた鞭や檄まで。ありとあらゆる武器が保管されていた。しかもその一つ一つが見事な業物だ。


悠花は武器コレクターだったようで、本人が使わないような武器でもきちんと分類して揃えられていた。こういう所に彼女の几帳面さが出ている。女子なのに武器集めが趣味とは如何なものか、という無粋な感情はとうに無い。


暗がりの中に足を踏み入れる。


俺が一番得意な武器はやはり剣だ。日本にいた頃も、護身術やなんやらで一番使われるのは剣だった。斧や鞭のような尖った道具も使えないことはないが、できれば使いたくはない。


持っていくのは剣に決めて、剣類の置いてある棚の前に立ち武器を吟味する。


本当なら長剣がいいのだが、俺が扱うには少し身長が足りない。俺のような子供が使うことを前提には作られていないのだろう。



「うーん......ん?」



どれにしようか悩んでいると、一つの武器が目に止まる。


紅く煌めく両刃を持つ短剣と、淡い緑の刀身をした短剣。それぞれ長さは六十センチほどだ。


手に持ってみると、ありえないくらいに軽い。試しに素振りをしてみたが、何の問題も無くーーいや、いつもより鋭く、速く行うことが出来た。


なんとなく剣に魔力を込めると、赤い短剣からは炎が。緑の短剣からは風が吹き出す。



「..........!いいな、これ。もしかして聖遺物(アーティファクト)か?」



聖遺物(アーティファクト)ーーいわゆる強力な魔道具の総称のことだ。魔法式が物本体に刻まれていて、魔力を流すことで誰でも刻まれた魔法を使うことができる。


通常の魔道具はせいぜい魔法効果の促進程度しか効果が無いのに対し、これは魔法そのものを発動できるという破格の性能だ。


魔法を使わずとも、魔力を込めるだけで炎と風を引き起こせるなんて聖遺物(アーティファクト)以外にあり得ない。これは思ったよりも良い掘り出し物を見つけてしまったかもしれないな。


横に置いてあった鞘と一緒に腰に取り付け、武器庫の扉を閉じて家に戻る。


まだ、狼は結界の壁に突進を続けていた。








♦︎♢







翌日、早朝。


家の中の物を片付けて寝巻きから着替える。朝ご飯はもう食べた。

成長期なので朝から少々重い物を食べてしまったが、後悔はしていない。ビバ!胃もたれしない身体!


白いシャツに黒いラインが入った服を着て、ズボンとブーツを履く。その上に『賢者の外套』を羽織り、腰に昨日の双剣、『フランマ』と『ヴァンタス』を取り付けて準備は完了。


最低限の荷物を背負い、残りの嵩張る物は影魔法《虚空》に収納していく。この魔法は実に便利で、容量は二トン以上ある。中では時間の概念が無く、しかも重さも感じないため俺のお気に入りの魔法の一つだ。


いよいよ出発の時間だ。


家を出て扉を閉める。裏に回り悠花のお墓の前に立ち、一年前のように手を合わせる。俺が毎日磨いているので、必要以上に墓は美しい姿を保っていた。



「.........そろそろ俺は行こうと思います。復讐を果たした暁にはまたここに戻って来ますよ」



そう言って目を閉じる。それまでここには帰って来ない。俺なりの決意の現れだ。




「一年間、貴方のお陰で俺はこの世界でやっていける自信がつきました。本当にありがとうございます」



深く、深く頭を下げる。これだけでは物足りない。土下座をしてもいい。


...............


そうして、どれだけ立っただろうか。


風が吹き抜ける。


静かに頭を上げると、お墓に背を向けて歩き出す。


振り返ることはせず、俺は結界の外に足を踏み出した。


『行ってらっしゃい』


そんな声が、聞こえた気がした。









これが、彼女の、俺の、復讐の第一歩だ。

ここまでが序章です!次から第一章!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ