27話 体育祭
そして、次は女子リレーだ。
女子も本命は青団である。
女子陸上部と女子バスケ部と女子バレー部が全員青団にいるらしい。もはやこれは買収でもしていないと辻褄が合わねえぞ。
「頑張れよ、ユルル、佐久さん!」
俺が応援席から声をかけると、二人が手を振って返してくれる。
ああ、幸せ。こんな幸せってあるんだね。
世界の半分とかなんとかより、絶対あの二人の笑顔の方が価値あるよね。あの笑顔、プライスレス。
そしてレースが始まった。
予想通りというか、至極当然というか、トップは青団だ。
赤団の皆も懸命に走ってバトンを繋いでいくが、段々と離されていってしまっている。
俺たち男子も声をそろえて応援するが、青団は強い。
結局残り二人を残しておよそ十秒以上の差が付いてしまっていた。
だが、残っているのは佐久さんとユルルだ。
あの二人なら逆転できるかもしれない。
そう思いながら、俺はレースの行く末を見守る。
そんな中、佐久さんにバトンが渡った。
「え?」
次の瞬間、佐久さんは青団に並んでいた。
いやいやいや、本気出し過ぎでしょ佐久さん!?
ほどほどに! ばれない程度に頑張らないと!
「い、今佐久さん、瞬間移動しなかったか……?」
応援席から声が上がる。
実際は見えないくらいに速く走ったのだが、瞬間移動だと思うのも納得だ。それくらい速かった。
「あっ! そ、そう言えば、佐久さんこの日のためにずっと走る練習してたんだって! だからすっごい速くなったんじゃないかな!」
少々苦しいが、フォローを入れるより他にない。
人間じゃないことがバレたら本当にまずいからな。
佐久さんもそれがわからないわけじゃないと思ってたんだけど、熱くなり過ぎちゃったんだろうか……あ、今更気づいたみたいだ。めちゃくちゃスピード調節して青団の後ろについた。
露骨! 露骨極まりないよ佐久さん! さすがに不信感を持たれたんじゃ――
「佐久さん、俺たちに隠れてそんなに特訓を積んでたのか……!」
「頑張れ! 佐久さん、頑張れっ!」
「あとちょっとで抜けるぞー!」
馬鹿ばっかだこの学校!
……いや、素直。うん、ここは素直と言うべきだよね。
でも皆、社会は危ない人が多いから気を付けた方がいいよ。
その穢れない心は大切にしつつ、疑うことも覚えてね。
そして、僅差で二位のままユルルにバトンが渡る。
正直不安なんだけど、大丈夫だろうか。
不安っていうのは一位になれるかどうかっていう意味じゃなくて、力を隠してくれるのかって意味でね。
「ユルル、いっきまぁーすっ!」
あ、駄目だ。あの子本気で走ろうとしてらっしゃる。
「びゅーんっっっ!」
ユルルは走り始めてからコンマ数秒でゴールテープを切った。
たしかにユルルの運動神経ならその位できるかもしれないけどさぁ……人間離れしすぎだろ! さすがに庇えないよ!?
「な、なんだ今の……!?」
「優勝とかそんなことより、ユルルちゃんどうなってんだよ!」
ほら、もはや優勝の嬉しさが吹っ飛んじゃってるじゃん!
どうしてくれるんだよユルル!
「あ、あわわわわ!」
考えてなかったな、まずいな……じゃないんだよ!
「た、助けてくださいアイノさん!」
「任せて! 良い感じに競りあって優勝した感じに皆の記憶を書き換えるから!」
もう何でもアリだな……。
佐久さんが万能すぎる。
ともあれ、これでなんとかなったみたいだ。
「す、すげー競り合いだったな! なぁ春風! お前のいとこのユルルちゃんすげーな!」
「そ、そうだね……」
なんというか、これでよかったのだろうか……。なんだか締まらない……。
……いや、でもまあズルはしてないし!
校則にも死神とか魔族は入学できないとか書いてないから、まあいっか。
セーフだと思おう。というか思わないとやってられない。
そういうわけで、俺の話題はものの数分でユルルと佐久さんに奪われてしまった。
だけど別にショックではない。
元々俺は目立つ側の人間じゃないし、そういうのは苦手なのだ。
こんなに体育祭を楽しんだのは生まれて初めてだったし、いい思い出になったと思う。
「せーのっ……赤団総合優勝おめでとー!」
皆で声をそろえてそう叫ぶのも、思っていたより悪くはなかった。
「二人とも、ありがとう」
体育祭を終え、下校中。
俺はユルルと佐久さんにそう言葉をかける。
「へ?」
「ありがとうって、何がかな?」
二人は不思議そうな顔をする。
話題が唐突過ぎたかもしれない。少し付け足しておかなきゃ。
「つかの間だったけど、俺が体育祭で話題に上ることがあるなんて思ってもみなかった。こんなに楽しい体育祭も初めてだったし……多分二人がいなきゃ、俺の中ではいつも通りの退屈な行事になってただろうから」
今年の体育祭は、多分いくつになっても思い出すに違いない。
それくらいには熱中したし、思い出に残る物だった。
「いえいえ、こちらこそこんな楽しい行事に参加させてもらえて感謝しかないです。皆良い人たちですし、出会わせてくれたミナトさんには感謝ですよ」
「あたしもその……衣装、抑えてもらったし、湊くんには感謝しなきゃ。それに、舞い上がって色々フォローもさせちゃったしね」
俺たち三人は互いに「いやいや」「いやいや」と感謝し合った。
不意にユルルがふへっと笑みをこぼす。
「えへへ。三人とも感謝してるって、なんだか変な感じですね」
「でも、仲良しって感じであたしは好きだな」
「奇遇ですねアイノさん、私もです! ミナトさんはどうです?」
「……まあ、悪くはないんじゃないか?」
「照れてる~」
「う、うるせえ!」
そんな会話を交わしながら、俺たちは家へと帰った。
そして翌日、俺は全身の筋肉痛に悩まされることになるのだった。
「い、痛すぎて一歩も動けない……」
「きっとリレーで限界超えちゃったんですね。そんなに全力で頑張るなんて、なんだか子供みたいで可愛いです。ミナトさん、よちよち~」
「あとで覚えとけユルル……」
そんなことを言いながらも、動けないので身の回りのことをユルルに全てやってもらわざるをえない俺。
な、情けない……!
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