24話 世界は今日も平和です
学校につき、体育祭用の衣装に着替える。
うちの学校は、体育祭では体育着じゃなくて団ごとのTシャツを作ることになっているのだ。
俺たちのクラスは赤団なので、鉢巻きに加えて赤色のTシャツを着ることになる。
そして、流れで全員Tシャツを腰の上あたりで結ぶことになった。
意味はよくわからないけど、多分皆もわかってないんだろう。
体育祭だけあってみんな浮かれてるもんな。
盛り上がれればいいみたいな浅い考えだ。でもそんなスタンスが結局一番楽しいよね。
「うぅ、これ、大丈夫かなぁ……」
「どうしたの、佐久さ――」
声が途中でとまってしまった。
無理もない、佐久さんがお腹を露出しているのだ。
なんというかその、とてもよろしいですね。
「は、恥ずかしい……」
おい、誰だこの衣装考えたやつ!
佐久さんが恥ずかしがってるだろうが!
馬鹿か! ありがとうございます!
「ふふん、似合ってますかミナトさんっ!」
「おお、似合ってる似合ってる」
ユルルもお腹を出してはいるが、特に恥ずかしがる様子はない。
まあユルルの場合、死神の服がもうすでにお腹全開だしな。
元気があってさらに可愛らしくて、非常にいいと思います。
結局あれだよね、全部いいよね。
神様、世界は今日も平和です。
それから数十分もすれば、校庭に集められた。
日差しの中、校長先生の誰の得になるのかもわからない長話を耐える。
これはどこの層に需要があるんだ本当に。よく毎回そんなに話すことがあるな。
俺だったら全校生徒の前で話すなんて絶対嫌だけどね。
誰も聞いていない中での話なんて、一秒でも早く終わらせたいと思ってしまう。
きっと校長先生になるような人間はメンタルが鬼のように強いのだろう。
だからほとんどの生徒にうんざりした顔を向けられているにも関わらず、延々としゃべっていられるのだ。ある意味尊敬する。
その鋼のメンタルはどこで売ってますか?
「もうだいぶ疲れた……」
ようやっと開会式が終わり、そんな言葉を零しながら自分たちの団の待機場所へと移動していく。
「あ、ミナトさん。あの人は……関係者の人?ですか?」
ユルルが指差したのは、無精ひげを生やしたワイルドな男性だった。
ああ、あの人か。
「いや、あの人は俺たちと同じ高校生だ」
「こうこう……せい?」
「うん、あの人はこの高校の生徒だよ。あたしも知ってる」
「え、本当なんですか?」
「ユルルが疑問に思うのも無理はない。長老は御年三十歳だからな」
もう十年以上も留年しているらしいが、正真正銘この高校の生徒だ。
その証拠に、今日も体育祭の赤いTシャツを着ている。
学年が一つ上だから苗字は知らないが、高校内では長老と広く呼ばれていた。
「色々知ってるから、先生からも頼りにされてるって聞くぞ」
「世界は広いですねー……」
とそんなことを話していると、こちらに気が付いた長老が近づいてくる。
な、なんだ? なんのようだ?
……もしかして、勝手に噂してたから怒られる?
「そう怯えるなよ後輩。別にとって食おうってわけじゃねえんだから」
そんなこと言ったって、ハードボイルさがすごいんだよ。
高校生が醸し出せる雰囲気じゃないよそれ。
長老は俺の両隣の佐久さんとユルルを交互に見て、ぼそりと零す。
「金髪と白髪ってすげえな」
「三十歳で高校生の方がすごいですよ」
ユルル、お前は怖いものなしだな。
「ハッ、言えてらあ。こりゃ一本取られたぜ」
長老はクックックッと楽しそうに笑った。
「まあ頑張れよ。俺は高校生には見えないし体育祭は見学するってことで学校にも許可とってあるから、お前らが頑張るさまを見さしてもらうぜ」
煙草に火をつけると、どこかへ行ってしまう。
校庭でたばこを吸うのはどうかと思いますよ長老。
……あ、ほら。校長先生に注意された。
渋々タバコの火を消す長老の背中には、どこか男の哀愁が漂っていた。……いや、タバコ吸えないだけでそんな哀愁漂うか?
それからドンドンとプログラムは進んでいき、ついに残りはダンスと男女別リレーのみとなった。
「ダンス! 頑張りましょーね!」
「ユルルちゃんと湊くんに負けないように、あたしも頑張らなきゃ!」
二人ともすごく張り切っている。
ちなみに、これまでの競技でも二人はかなりの好成績を叩きだしている。
少し間違えれば人間の範疇から外れるくらいの好成績だ。
まあそうだよね、二人とも人間じゃないもんね。
佐久さんは今までサキュバスだとばれないように意識して平均位を目指していたみたいだけど、同じく人外のユルルと会ったことで少々タガが外れてしまったようだ。
「ユルルさんはすごいけど……佐久さんって去年からこんなに運動神経よかったっけ?」
「えっ? あっ……」
ヤバい、とうとう疑念を持たれたぞ!?
佐久さん本人に関しての記憶は改竄できないって言ってたし、これってもしかしてまずいんじゃないのか……!?
あわあわする俺と佐久さん。
そんな危機を救ったのは、ユルルだった。
「勘違いですよ。ほら、私アイノさんの一年生の時のスポーツテストの結果持ってますけど、全部トップクラスです」
そう言って、改竄した書類を見せつける。
さすがユルル、いつの間にそんなことを!
なんでユルルがそんなものを持っているのかという疑問は浮かぶかもしれないが、データを改竄した以上、これ以上に追及されることはないはずだ。
「あ、ごめん、勘違いだったみたい」と言って離れていったクラスメイトに、佐久さんはふぅと息を吐いた。
「ありがとユルルちゃん、助かったよ」
「いえいえ。さあダンス頑張りましょう!」
そんな危機を乗り越え、俺たちはダンスを踊る。
ステップ、右足出して、ターン。
右、左、右足っ!
練習しただけあって、踊りは完璧だ。
周りを見る余裕さえある。
クラスメイトは皆、概ね上手く踊れているようだった。
他のクラスのダンスと比べても、今のところかなり好印象なはず。
これは、ダンスは一位になれるかもしれない!
ただでさえ、うちのクラスには踊りがめちゃくちゃ上手い佐久さんがいるんだし……って、あれ? なんだか、佐久さんが変だ。
「……っ」
すごく踊りにくそうにしている。
なんでだろう……と少し観察すると、すぐにわかった。
短パンの紐が解けて、緩んでしまっているのだ。
片手で押さえなければいけないせいで、全然踊りに集中できていない。
ど、どどどうしよう、なんとかしなきゃ!
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