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23話 体育祭当日

 そして、ついに体育祭当日。

 学校へと向かうために、自分の部屋で制服へと着替える。


「おはよう、湊くん」

「おはようございます、ミナトさん」


 二人は俺より早く起きていたようで、すでに食卓に着いていた。


「うぉお、制服の佐久さんが家にいる……。……なんか、変な感じ」


 なんというか、制服って学校以外で見るものじゃないと思ってたから、違和感がすごい。

 本当に、俺の家に泊まったんだなぁ……。


 制服姿の佐久さんはもう何度も何度も見たことがあるが、見慣れるということはない。

 第一ボタンしか開けていないにも関わらず、なぜか溢れんばかりの色香を感じる胸元。

 膝上のスカートはもはや凶器と言ってもいい代物で、事実入学式で初めて佐久さんを見た男子数人が、鼻血が止まらず病院送りになっているという逸話もある。

 ちなみに俺はそこには入っていない。鼻血は出たけどね。

 ともかく、そんな佐久さんの制服姿だ。見慣れたなんてヤツはどうかしているとしか思えない。


「あたしも家に制服の湊くんがいるのは変な感じ……えへへ。制服、似合ってるね」

「あ、ありがとう。佐久さんもその、似合ってる……よ?」

「ありがと、嬉しいっ」


 なにこの幸せな生活。

 もう俺学校行きたくないよ、一生この家から出たくないよ。


「今ね、ユルルちゃんの死神の服が可愛いって話してたんだよ。最初見たときはびっくりしたけど、見慣れてくるとすっごい可愛いなぁって」


 どうやら先に食卓に着いた二人はユルルの服についての話をしていたようだ。


「わかる。ユルルに似合ってるよな」


 俺も佐久さんの言葉に同意する。

 誰が着ても似合う服じゃないことはたしかだけど、ユルルには凄く似合ってると思う。

 服から感じる若干の禍々しさというか、毒々しい感じが、ユルルの幼気な顔で相殺されてポップな印象に変わるのだ。

 この服は佐久さんでもここまでは着こなせないだろう。

 ユルルだからこそ、って感じがする。


 ただ、腋が全開なのは俺どうかと思うんだよね。

 個人的には好きだよ、超好き。でもちょっと好きすぎて直視できないというかさ。

 なまじ本人が恥ずかしがっていない分性質が悪い。いや、そういう文化なんだろうから仕方ないんだけど、死神は羞恥を感じるところも人間と違うらしく、どうも腋に関しては恥ずかしさを感じないようなのだ。

 だから隠す様子もないし、普通に生活していても日に何度かは無邪気な腋が普通に見える。

 しかも無垢な笑顔のおまけつきだ。


 ユルルには知る由もないが、その度に俺の脳内では本能と理性が激しくバトルを繰り広げている。

 理性のヤツ、よく今まで全勝してくれてるよ。

 マジで頼むぞ理性、お前が負けたら俺に待ってるのは破滅だからな。


「にへへ、もっと見てくださいミナトさん! どうですかこのナイスバディーは!」


 褒められたユルルは得意げに、顔の両側にピースサインを作る。

 腕が上がったことで服が上に押し上げられ、縦に割れたおへそが外気に晒されるが、気にした様子はない。

 だけどおへそだけじゃなく、腰の辺りのパンツの紐まで見えちゃってるんですけど。


「ふふん、悩殺されちゃいました?」

「赤」

「赤? どういう意味……え、ちょっ、な、なんで!?」


「なんで下着の色を知ってるんですか!?」と言いたいのだろう。

 俺はそれに答える。


「なんでって、見えたから」

「うぅ、そ、そんなぁ……!」


 ユルルは膝から崩れ落ち、項垂れた。


「うぇぇん、うぇぇん」

「泣くなよユルル、本当にすごい似合ってるって。その服が一番似合うのはユルルだと思うぞ?」


 そう励ましながら背中を撫でる。

 ユルルは目に涙を蓄えながら、上目遣いで俺を見上げた。


「ぐすっ……じゃあ、可愛いですか?」

「可愛いか? ……それ、答えなきゃ駄目なの?」


 なんというか、ユルルに面と向かって「かわいい」と口にするのは恥ずかしいというか……。

 異性というより、もう身内って感じなんだよな。

 間違いなく可愛いけど、それを伝えるとなると中々ハードルが高いんだけど……。

 と思っている間に、ユルルの泣き方は凄いことになっていた。

 ぽろぽろどころではなく、ぼとぼとと涙を流している。

 ……女の子がここまで泣いてるのに、恥ずかしいとか言ってられないか。


「びぇぇん、びぇぇん、ひっく、ぐすぐすっ、うぇぇんっ!」

「か、可愛いよ」

「でへへへへ」

「感情のジェットコースターだな」


 高低差がすごすぎだろ。




「じゃあ、行くか」

「行こー行こー」

「楽しみですねー!」


 佐久さんと、死神流早着替えの術(案の定失敗した)で制服に着替えたユルルと共に、俺は家を出る。


「いい天気! これは絶好の体育祭日和ですね!」

「まるで神様が応援してくれてるみたいだよね」


 そんな二人の会話を聞きながら思う。

 今までの俺史上、ここまで体育祭に心躍ったことはあっただろうか。

 いや、これまではむしろ憂鬱な気分だった気がする。

 今年がそうじゃないのは……やっぱり二人のおかげだろうな。

 ダンスも練習した、リレーも練習した。

 自分に自信がつけられたおかげで、体育祭も楽しみだと思えるようになったんだ。


 自然と俺の足が浮足立つ。気を付けていないとスキップしてしまいそうなくらいだ。

 やれやれ、これじゃ俺が浮かれてるみたいじゃないか。いや、実際浮かれてるんだけども。

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