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闇鍋なパーティー  作者: 朧 月華
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涙花愛縁~こいうた~

成婚とは何か。

それは必ず成さねばならぬ婚姻だと、名も知らぬ誰かが声高に説明していた。


あえて誰かと訊ねられでもしたのならば、まず間違いなく彼女ならばこう答えるだろう。


「たしか、うんと金払いのいいお大尽様だったかねぇ?」


と。



実際、その御仁は高貴な身分の生まれで、目出度くも当代の王室と深い信頼関係と関わり合いを結んでいた。


ゆえに彼女は、ー今回のこの物語の主役でもある女は、件の大尽に躰を開き、寝物語として世紀の婚姻話の真相を聴かされていた。

だが彼女にとっては、それは自分の生活とは余り関係ないものだと殆どの話を聞き流していたので、今更そんな昔の事を蒸し返されて尋問されても無意味であるし、迷惑でしかないのだ。

だからとは言わないが、彼女はそんな大昔なことを訊ねられ、貴重な休みを奪われるくらいならば、自堕落に寝ていたいのだとのたまい、本当に一日中布団の中でダラダラと仕事までの時間を過ごした。


そして姦しく騒ぎ立てる野次馬達から如何なる罵声を浴びせかけられようとも、無言を貫き通す。



その日も彼女こと、花街一の稼ぎ頭とも噂されている鐘 鈴鳴は昼前までの一時の時間を怠惰に寝過ごしていた。

いたのだが。


彼女はとうが立っていると言うのに、何分売れっ子なだけに、客が名指しで(しかも金持ちであれば店としては文句なし)指名でもされたならば、如何に鈴鳴とて時間外だろうといえども、従わなければならない。



そんな時の鈴鳴の口癖は決まって


「話だけなら相場の倍は取るからね。アタシだって寝る権利はあるはずなんだがね?」



聞いてるのかい、そこの陰険な旦那。


だらしなく欠伸をしながら、煙管を口に加えて煙を吐き出す彼女は遊女にみえやしない。


だというのに彼女が名指しで指名されるのは…。



「ったく、なんだってアタシの客はこんな客ばかりなんだろうね。」


と、そこで一度諦めのため息を吐き、ややすると、気持ちを切り替えたのか、男の前で一切の恥じらいもなく生肌に羽織っていただけの薄衣をパサリと脱ぎ捨て、



「ーアンタは悪くない、アンタはアタシにムリヤリ指名させられただけだ。だからこれは夢だから今からのことは誰にもばれやしないよ。」



客である男の罪悪感を打ち消し、誤魔化してやりつつ己が躰と磨きに磨いた技量で客を慰めてやる。



そのさい、鈴鳴は事前に避妊薬を飲むのだが、その日に限ってその避妊薬が切れていたため、鈴鳴にしては珍しく何の予防策もなく、日付が変わるまで男の好きにされた。



翌朝、つまり丸一日が過ぎてからようやく男から解放された鈴鳴は、余程疲れたのか男が帰る時も眠ったままだった。



そんな売れっ子を気遣わしげに様子を見やるのは、娼館の主たる月鳴だ。



年老いた老婆はやるせない顔をした男から相場の三倍もの金子を受け取りながらも、男を気遣った。


「どうだい?あの娘は頷いたかい?」



男は今は年老いたが、かつては間違いなく花街で名を馳せていたであろう老婆の言葉に苦い笑みを浮かべた。


「彩薇が私を赦す日はこないでしょう。あの時は知らなかったとは言え、窮地に陥れられた彼女と彼女の父親を見捨て、我が身の保身だけで他の女と家を選んだのだから。私は二度と彼女を見失いたくはない。」



「たとえアンタ以外の男に抱かれて、見ず知らずの男の子供を孕まされてもかい?ー笑わせるんじゃないよ。あたしらとておまえさん達と同じ人の子だよ。ただ、生き方が常人には理解されないだけで、それ以外は一緒さ。あの娘がよく歌う唄を知ってるかい?」



ー玉恋鳴愛だよ



それは悪戯な運命によって引き裂かれた男女が再び巡り会うことを願った唄。



男は老婆から半ば追い出されるように娼館から出されても気付かなかった。

否、正しくは老婆からもたらされた情報への理解と処理が間に合わなかったのだ。



ー斐茜様。


ー斐茜様のバカッ


ー斐茜様だけは違うと思ってたのに…


ー彩薇?はて、どこの誰のことだい?アタシは花街で生まれ、花街でしか生きられないただの遊女だよ?



「ー彩薇っ、」



男、ー実はその国を支えている怜悧冷酷な宰相と称されている人物は、己の愚かさに苛まれたままこの後を過ごす事となる。

そんな彼の腕の中には。



「よく眠ってらっしゃいますね、奏薇娘様」



「ーあぁ。寝顔がこの娘の母親にそっくりだ。お前は幸せになるんだよ、奏薇」



白い産着に包まれた、生まれてから間もない赤子が抱かれ、その子供の相は、赤ん坊を産んでからその身の行方を斐茜の前から子供だけを残し、完璧に眩ませた女に瓜二つだった。



「旦那様、お娘をどうなされるおつもりで?まさか皇家などには、」



「誰が渡すか。この娘には要らない面倒な定めを背負わせるつもりなど欠片もなければ、皇家の嫁に出すつもりなど毛頭もない。どうしてもと言うのならばあっちには三娘でもくれてやる。」



まるでモノを譲るが如くなその言い様に、彼を幼い頃から知る乳母は、だからこそ主たる斐茜の嘆きの深さを知った。



彼は知らない。



鐘 鈴鳴と名乗っていたかつての許嫁の彩薇がこの世を去ったのが、五年も前のことであり、彼女との間にもうけた子が、若くして病死した彩薇を哀れに思った冥帝の格別な計らいでこの世に生まれることが赦された稀有な命であることを。



全てを知る者は、その世に既に亡いと言うことを。





からり、からり。



あなたのいとしいひといずこ

わたしのいとしいひとはちのそこに



ひら、ひら、ひら。


あなたのこいしいひとはいずこ わたしのこいしいひとはかこのまぼろし。



いとしきあいてはなもおもいだせない、にがきこいうた。

斐茜:ひせん、彩微:さいび、 奏微:そうび


ファンタジー。

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