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闇鍋なパーティー  作者: 朧 月華
16/30

騙されてはいけません!!

 美しくありない

 気高くありなさい

 強くありなさい

 

 そして、教養深くありなさい。



 侯爵家の娘ともなると、常に行動を監視され、何をしたとしても批判される。

 特にとやかく煩く言われるのは、ドレスや指輪、髪飾りなどの宝飾品に始まり、嗜好品にかけるお金の浪費に、平民出身の使用人へ対する厳しい叱責に、下級貴族への蔑み。


 一度その様なことをしてみれば、瞬く間のちに平民の中では[悪]であるとのレッテルを貼られてしまう。

 でもこちら側の意見を言わせて戴けるのであれば、それは少し料簡が狭いのでは?とも言いたくもなる。


 現に私もその内の1人で。


「アナタは殿下に相応しくないわ。アナタは殿下に何をして差し上げられるの?」


「わ、私はただ、ルキアス様のそばにいたくて、」


「まぁ、では王子妃ではなくても良ろしいじゃないの。妾にでもなればよろしいわ。それで王子妃には、美しく、教養深いマデリーン様になって頂ければよろしいのよ」


 バッと、広げていた扇を零落した貴族のご令嬢に向けた反動で閉じ、それをまた自分の顔の前で広げ、クスクスと意地悪く笑って見せる。

 

 今、私が相手にしているのは、最早貴族と言うのは名前ばかりという惨状にある、とある子爵家のご令嬢。

 彼女は実家が貧乏だからと、朝の支度や料理や炊事なども全てを自ら率先して行い、更に領民にはドレスなどを買わずに、その分をパンを振る舞う分に回しているとか。


 確かに平民にとっては良い人よね。

 でも貴族として、それこそ領主としては失格だと思うわ。

 それをこのご令嬢は理解してはいらっしゃらない。


 ドレスを買わない?

 なら夜会はどうするの。

 贅沢は民に悪い?

 は?人を雇うのは雇用を作りだす事で経済を潤滑に回す為でしょ。

 側にいたいだけ?

 なら夜だけ相手していればよろしいのよ。


 下世話な話、王子妃の任務は過酷で熾烈を極めると聞きます。

 私の父の姉が今の王妃なので、私は幼い頃からその苦労を聞いて育ってきました。それに基本的に、私達貴族は身分を第一に考えなければなりません。


 それを次期王ともなろう御方が、ハァ・・・。


 呆れて一言も言葉になりませんわ。

 それでも心を強く、悪にしてでも言わなければならないのが、この階級に生きている者の定め。


「殿下、夢を見るのは悪いとは申しません。ですが、少しはマデリーン様の御心も鑑みて下さいませ。例えるのであれば、殿下は嫌いだからと言う理由だけで料理人が作った料理を一口も召しあがらずに棄てるのですか?そこまでどんな人達が携わってるのかも確かめずに、考えもせずに?確かにそちらのお嬢様は素直そうで愛らしいお方ですが、人を殺せますの?」


「・・・っ、アリスにはそんな事をさせない」


 視界の隅で手をぎゅっと力強く握り込むのが目に映る。

 それが何よりの答えのようで、私は今度こそ幻滅を隠せなかった。


「お幸せな考えですこと。今の平穏な世の中がいつまでも続くと思ってらっしゃるなんて。いいえ、例え他国との争いがなくとも、謀反はあり得ますでしょうに」


 そこでもし王子や国王や王妃などが命を落としたら、謀反人の命を奪う書類に署名するのは王子妃なのに、そこまで考えが至ってないなんて、恋は盲目とは良く言い表した言葉ですわ。

 目先の幸せにしか目を向けないなんて、なんて視野が狭いんでしょう。


「よーく、分かりました。それでは勝手にご結婚でもなさったら良いのですわ。きっと殿下のご結婚と同時に我が国は襲われますわ。そちらのご令嬢のご実家は確かあまり社交界にも出席されずに、人脈は持っておられないとか。婚礼の準備資金は半々でしたわね?悪しき先例はお作りなさいませんわよね?殿下」


 そこまで言葉を尽くせば流石に何かを察したのか、世継の王子殿下は、ハッと、息を呑んだように何かを思案し始めた。

 でも、今更悩んだって遅いかもしれないなんて、私は優しいから教えて差し上げるつもりはない。

 ドレスの裾を持ち上げる様に略礼し、踵を返した所で、私はぎくりとした。


「殿下、フォルツ嬢、ご機嫌いかがですか?」


 白地に金で縁取られた神官服に身を包み、額には高位の神官であることを意味する涙型の紫水晶が気品を纏いながら微かに揺れ動き、銀灰色の艶やかで真直ぐな髪は肩口で切り揃えられたその佳人は、私が苦手とする部類の人間だった。


 彼は王弟と言う身分でありながら、その身分を捨ててまで神官になり、自分だけの力で高位の神官まで登りつめた人なので、彼もまた多くの民から好かれている。


 自分とは真逆過ぎる彼は、私には眩しすぎる・・・。

 だからと言って背中を見せて退却するのは高すぎるプライドが許さない。

 

 よって。


「ごきげんよう。私はこれで失礼致しますわ。では殿下、そちらのお嬢様と末長くお幸せに」


 先手必勝で堂々と逃げさせて戴きます。

 にっこりと普段以上に愛想よく暇の言葉を述べたのに、それをあの小娘がッッ・・・!!(もう敬うつもりはありませんわ)


「どうして・・・?どうしてアデレードさんはそんなことおっしゃるんですか?そんなにアデレードさん達の方が偉いんですか?マデリーンさんなんて、ルキアス様のコトちっとも見ていらっしゃらないじゃないですか!!ルキアス様は王子である以前に一人の人なのに!!」


「アリスっ、」


 ひしっ、と抱き合う若い二人が、私の許可なく視界に乱入してくれば、何度目かの落胆のため息が漏れてしまうのも致し方のないこと。

 だってね、安すぎる恋愛劇を下手な役者で披露されてごらんなさいませ?


 笑いたくても笑えませんわ。 

 話の内容が薄っぺらくて、安すぎて、すかすかで。

 それなら喜劇の方を観劇する方がまだ幾分かよほどマシですわ。


 だから、そんなに睨まないで下さいな。


「だって、おかしいんですもの。ルキアス殿下が王子であることを特別視して何がいけないと仰るのかしら。殿下はこの国の将来を背負って行かれる方なのです。それなのにアナタと同じかそれ以下のような扱いをしろとでも?王族には王族、貴族には貴族、平民には平民の常識と生き方があるのです。そんな夢物語のような論議を交わしたいのであれば、どうぞ修道女にでもおなり遊ばせ?」


 決まった、決まったわ!!

 自分で自画自賛していた私は気付けなかった。

 くすり、と、薄氷の神官と崇拝されている方――サヴァイラ王弟殿下が微笑まれていた事を。

 そして、あの方の本性を知らなかった事を。



 ****


 身体の至る所全てに這わされる生温かな存在に、薄らと沈んでいた意識を浮上させ、翡翠色の瞳を開くと、そこにはいる筈のない人がいて、なんとその人は私の両腕を私の髪を飾る紐で以て頭上で拘束した上で、淫らな遊びを楽しんでいました。


「・・・っ!!・・・?」


 それに驚き、抵抗しようと叫ぼうとした所で声が出ない事に気付き、私は恐らくその仕業の犯人であろう人を睨み上げた所で、背筋に悪感が走りるのが分かりました。

 何故ならば、その人は常ならば穏やかで慈愛に満ちた表情を浮かべてらっしゃるはずなのに、その時の彼は、ただの男の瞳をしていたからです。


 私は混乱しました。

 えぇ、えぇ。それはもう情けないほど動揺しましたとも。

 何故って?

 それはもう、未来の夫に操立てをする為ですわ。


 ですのに彼は止めるどころか、更に私の身体の良い処を探り、そこを断続的に刺激し続けました。

 せめて足さえ動いて抵抗できれば、と考えた所で、私の細くも無い脚が大きく彼の手によって開かれ、あとはまぁ、なんと言えばよろしいのでしょうか。


 簡単に、そして結果的に言えば、私の純潔は奪われ、朝まで散々貪られてしまいました。

 それだけならばまだ良かったのかもしれませんが、敵であるサヴァイラ王弟殿下は非常に計算高く、また強かな人であった為、私の退路を一切残しておいて下さいませんでした。


 一人で立てない私を無理矢理着飾らせ、御自分の兄であり、この国の王でもある方の貴重な朝の時間に、面会の時間の算段を付け、特大級の爆弾を投下して下さったのです。


「兄上、私は彼女と結婚をしようかと思います。既に夫婦の契りは昨夜交わしました。」

 

 とてもそうとは思えない彼の冷厳な空気と、淡々とした抑揚のない声音。

 それで誰が信じるものですかと、まだ往生際悪く逃れようとしていた私の態度がお気に召さなかったのでしょう。

 なんと、彼は私の腰にまわしていた右腕をさり気無くお尻の方に下ろして、そこを何度も快感を引き出すように撫で擦ったのです。


 助けを呼ぼうにも、散々喘がされ、酷使された声帯は音を発することなく、私はただただ羞恥で顔を赤く染める事しか叶いませんでした。


 それを陛下は私が弟君と夫婦になれた事を喜んでいると思われ、理解されてしまったのでしょう。

 陛下は特に気に留めることなく、あっさりと結婚許可書に署名を書いてしまわれました。

 その途端、鳴り響く神殿の鐘の荘厳な音色。


 その時になってようやく全てが仕組まれていたのだと気付いた時には、私には一つの道しか残されていませんでした。


「実家に帰らせて頂きますわ!!」


 そう、実家に帰ればなんとかなると信じていた私。

 でもその希望は、脆くも空き家となっていた実家を前にして崩れ去りました。


 ドレスが汚れることも頭になく、地面に崩れ落ちた私を更に地獄に突き落したのは。


「大人しく私の籠の中にいなさい。でなければ、一生外に出さずに、朝晩限らず抱き続けますよ?」


 清廉な空気を醸し出しつつ囁く神官な王弟殿下に、私は負けを認めるしかありませんでした。

 ですが、これだけは言わせて下さい。


「あなた方は王弟殿下に騙されてますわ!!騙されてはいけません!!」


「恥ずかしがらなくても良いのですよアデレード。皆、私達を祝福して下さいます。」

 

 にっこりと爽やかな微笑みを湛え、彼が周囲の人々に視線を向ければ、その場にいた人々は我がことのように喜んで祝福して下さいました。


 それ以降、私は自然と我が侭な王族の妻と言う立場になり、王弟殿下はそんな私を庇い立て、心から愛する夫君の鏡と称されるようになってしまいました。


 後年、私は自分とそっくりに生まれた愛娘に切々と言い聞かせました。


 決して、お父さまの様な人の側には近寄ってはならないと。

 ですが、流石と言うべきか、哀れと言うべきか。


「お母様、私、殿下とは絶対に結婚したくないの!!みんな殿下に騙されてるのよ!!」


 愛娘の必死な懇願の言葉の前で、私は苦笑を浮かべる事しか出来ませんでした。

 だって、ねぇ?


「レディオーネ、恥ずかしがらなくても良いんだよ。ボクが皆から護ってあげるから♪」


「イヤァ~!!助けてぇ~~~!!」


 可哀想な子。

 でもこれも運命なのよ、助けてあげられないお母さまを許して頂戴と思いつつ、大きいお腹を撫でていたとか。

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