1-9★乾坤一擲
* 4日19時間02分 *
戦略図が更新された。
地球防衛軍統合戦略AIが行っていた戦況解析が終わった。結果がつらつらと羅列された。網膜内に、情報が溢れた。
オリヴィアは、思わず舌打ちしそうになる。
「長い! 要約しろ!」
【カーツェナルプ:了解しました】
【正立方体性質要約・推論含む。
・最高速度0.1c。最高速度到達まで30秒~71秒。
・RVK-01単機収束光子砲効果なし。
着弾時に対象一時停止。
推論──防御のためと思われる。
着弾前に回転をする対象を一定数確認。
推論──防御専用の面がある可能性あり。
・アウレリア機・収束光子砲三機六門の一点集中で対象崩壊。
全機への集中砲火システム追加完了。随時更新中。
・マレク機・対象の角への攻撃を継続中。法則性の可能性を確認。
現在パターン収集中。
・ソラ機・対象の着弾時停止性質を利用しての挙動誘導を確認。
現在パターン構築中。進捗28%】
──それでも長い。それにしても……挙動誘導とは。さすがは実戦体。
ソラはRVK-01訓練小隊唯一の、実戦経験者。演習でのスコアは中位と、最後まで振るわなかった。だが、ここにきて芽が出たと、オリヴィアは感じていた。
ピピッ。
戦略図に、前方で閃光が弾けたマークが出た。
核ミサイルが《7/Iリーゼ》に次々と着弾し始めていた。
「核ミサイルの損耗率は?」
【カーツェナルプ:アウレリア隊が護衛に付いたことで、損耗率低下。予測着弾数六千発】
──半分か。
【トマシュ:いけますよ、小隊長】
「と、いうと?」
【トマシュ:映画ではだいたい、十発もあれば彗星は砕けます】
【モニカ:しょうもない情報をどうも】
【マレク:いいじゃないか。無いよりマシさ】
【リエン:もう! 皆、ちゃんと戦闘に集中して!】
核ミサイルが次々と着弾し、皆の心にも余裕が出てきたようだ。
──心。心、か。
この、熱いものはなんだろう。
無意識に検索していた結果が、オリヴィアの網膜内に表示された。
【検索結果:高揚感】
オリヴィアには、いまいち実感がなかった。
そういうものかと、今はそれ以上考えるのをやめた。
「全機、最大戦速! 向こうに合流する!」
【了解!】
五機RVK-01のイオンエンジンの青白い光が、暗い宇宙空間に綺麗な線を描いた。
* 4日18時間57分 *
RVK-01の操縦席に、窓はない。
全てが金属で覆われている。
長期間の運用を想定とした、宇宙専用可変戦闘機。それは、太陽光やフレア、宇宙線などの放射線被曝を考えないでいいような設計だ。
機体各所に設けられたカメラやセンサーの情報が、操縦席内部に表示されていた。
カーツェナルプの情報は、網膜に直接。焦点の合わない情報に、四苦八苦していた頃が懐かしい。
ソラを伴うアウレリア隊は、《リーゼ》に追従して航行していた。
速度差があるため、常に最大戦速を強いられた。
【アウレリア:全機、ここが踏ん張り時よ! 男を見せなさい!】
【レオン:おや、男女平等じゃないのかい?】
【クラウス:それは人間は、だろう?】
「よくわからないが、踏ん張り時なのには同意する」
ソラは飛行形態のまま、RVK-01を地球へ向けていた。
RVK-01は翼の収束光子砲を、機体後方へと向けることが可能だ。前を向きながら、後ろを撃てる。
照準はカーツェナルプ任せになるが、仕方がない。
正立方体は、当たればほんの一瞬、止まる。
速度差があっても、破壊できなくても、足止めにはなった。
核ミサイルの着弾を示す光点と共に、彗星の3Dモデルが随時、更新された。
更新の度に、3Dモデルが崩れる。彗星の予測質量が、減っていく。
──いいぞ。このまま、少しでも多く当たれ。
【オリヴィア:よく持たせた! 隊列を組み直す! F-S3V】
【了解!】
三機編隊が、縦に並ぶ。核ミサイルの列に沿って並んだ。
RVK-01訓練小隊九機、十八門の収束光子砲が光る。
前からは、核ミサイル着弾の閃光。
RVK-01の機体を、準惑星エリスを、眩い光が照らしていた。
【カーツェナルプ:《7/Iリーゼ》の破砕を確認】
3Dモデルが割れた。砕けていた。
無数の破片になっていた。
人類の意地が、通った。意志が、貫いた。
地球への軌道はどうだろうか?
まだ距離はあるさ。木星衛星にも防衛基地はある。火星にも、月にも。
対処はできる。
直撃よりはマシだ。
小官たちは、やり遂げた。
素晴らしい名シーンだ。
とんだ初陣ね。
勲章貰えるかな?
敵は取りました、大佐……。
そんな皆の声が、余剰次元の記憶領域に、刻まれた。
ビーッ!
聞いたことのない警告音が響いた。
ガゴンッ!
機体が揺れた。計器が乱れた。
衝撃波?
いや、ただの衝撃波ではないと──本能のようなものが叫んでいた。
【カーツェナルプ:空間の膨張を確認。時空の歪みを確認。曲率膨大──】
地球防衛軍統合戦略AIがなにかを観測し、なにかを警告していた。
理解が追いつかなかった。
今までに感じたことのないGに、身体が軋む。
RVK-01の機体が、歪む音が操縦席に響いた。
──なにが、起きて、るっ!?
操縦桿が動かない。
息が止まる。視界一杯に、警告文が溢れた。
──小官たちは、勝ったんじゃないのか?
失念していたわけではない。
《7/Iリーゼ》には、ただの彗星ではない。
岩石の後ろに、続きがあった。
何かの意図を持って造られたと思われる、水晶状の、巨大な、人工構造物──。
* * *
登場人物
ソラ(AH-JP502)・訓練兵
リエン(AH-JP618)・訓練兵
オリヴィア(AH-UK404)・訓練兵
アウレリア(AH-DE503)・訓練兵
レオン(AH-DE511)・訓練兵
クラウス(AH-DE519)・訓練兵
マレク(AH-PL404)・訓練兵
モニカ(AH-PL509)・訓練兵
トマシュ(AH-PL602)・訓練兵




