1-8★赤いゼラニウム
* 4日19時間11分 *
真紅の機体が、悲痛な叫びを上げていた。
「姫! 落ち着け!」
クラウスは声を上げるも、アウレリアは叫びながら収束光子砲を乱発していた。
しかも、機体をほぼ動かしていない。棒立ちだ。
【レオン:不味いぞ、お姫様がご乱心だ!】
「とにかくフォローだ!」
残る正立方体からアウレリアの機体を守るように、クラウスとレオンは機体を操作した。
アウレリア機を中心に、周囲を旋回しながら光子砲を撃ちまくった。
──操縦桿が重い。
物質がプラズマ化するような蒸発を近くで受け、RVK-01の機体表面は融解していた。内部や駆動部にも損傷があると、自機投影図にいくつも警告文が出ていた。
【レオン:お姫様! しっかりしろ!】
──このままでは駄目だ。
「小隊長! 緊急事態だ!」
【オリヴィア:無事か? 状況説明──! こちらも──手短に!】
プラズマの影響か、通信にはノイズが入っていた。
「基地喪失! 本命発射を確認! 機体損傷あり、だがまだ行ける! 問題は姫だ!」
【オリヴィア:こちらでも確認し──! 一機向かわせた!】
【レオン:無茶言うな! そっちはもう!】
戦略図にはすでに、FK-14を示す光点はない。
オリヴィア小隊長ら六機で、《7/Iリーゼ》を守るように動く正立方体の群れを相手取っていた。
RVK-01を示す光点のひとつが、戦場を最大戦速で移動していた。
「この状況で単騎駆け? 無茶苦茶な!」
【マレク:問題な──! ──ならやれるさ!】
【リエン:システム更新を受け──!】
【トマシュ:姫の窮地──、騎士が必要だろう? いや、王子様──な?】
【モニカ:──じゃない! ──のよ!】
【オリヴィア:こちらは手一杯だ! そちらで本命のエスコートを──!】
戦略図が更新された。
核ミサイルを示す光点が、レーヴェンハルト大佐が残した希望の灯火が、少しずつ消えていく。
戦況は厳しい。
「了解!」
【レオン:了解! なるべく速く頼む!】
軋む機体に、クラウスは腹をくくった。
「機体が持たない! ミサイルを捨てるぞ!」
【レオン:ならついでに飛行形態に戻す! 腕が落ちたら話にならない!】
RVK-01は人型形態といっても、完全な腕ではなかった。胴部の収束光子砲基部が、自由に動くに過ぎない。基部の強度は、心許ない。
【レオン:いくぜ!】
「了解だ!」
左右に懸架した炸薬式ミサイルを切り離した。相手はこちらより速い。威力を上げただけのミサイルなど、当たらない。
ミサイルは、四箇所で炸裂した。
「変形完了。そっちは動けるか?」
【レオン:動く! このまま旋回しなら守るぞ!】
両翼にしっかり固定された光子砲門には、それでも損傷表示が出ていた。
だからといって、これ以上は何もできない。あとは機体を信じるだけだ。
アウレリアの慟哭は、終わらない。
クラウスとレオンは、損傷の激しい機体で収束光子砲を撃ちながら、アウレリア機を中心に周回した。
* 4日19時間08分 *
恐怖は、無いわけではない。
あまりに感情を廃した人工人間は、人間にとって全く理解できない存在だった。それでは、作戦行動に支障が出る。
だから、今稼働している人工人間は、戦場に不要な感情を、少し落としたくらいの設計だ。
最大戦速で最短距離、縫うように突き進む。
RVK-01の機首を向けた。正立方体がある。その奥にも、さらにその奥にも。
圧倒的不利にも、ソラに怯えはない。
機首光子弾頭を連射した。
正立方体に当たるも、効果はない。
──それでも! 反応するのならば!
正立方体は、効かない攻撃にも過敏に反応した。
ソラは、それを逆手に取る。
通れないなら、道を開けるように仕向ければいい。
「道を開けろ」
思考を研ぎ澄ます。
集中した。ただ、そこに辿り着く事だけに、集中した。
そのためだけに、身体が自然と動いた。
正立方体の群れを抜けた。
右斜め前方。
煙が上がり、青い光線が不規則に宇宙空間を切っていた。
──そこか!
「アウレリア!」
ソラは叫んだ。
反応はない。
ソラは奥歯を噛み締めた。
余剰次元を介して、何かが精神を押し潰しているような感覚がある。
──なんだこれは。
かつてFK-14に乗っていた時とは、全く違う感覚。
今、確実に理解できることは、アウレリアを正気に戻さなければいけない事だ。
ソラは、さらに深く、意識を集中させた。
三機の損傷は激しい。
【レオン:来たか!】
【クラウス:待ちわびたぞ!】
「二人は大丈夫か?」
【レオン:飛行形態なら動けはする!】
【クラウス:砲門の限界が近い!】
二人の収束光子砲は、跳ね回る正立方体を捉えきれていない。
撃つ度に、精度が落ちていく。
──都度、カーツェナルプが誤差修正をしていても、無理か。
損耗による射軸のブレ。継戦による物理的な不規則性は、AIの苦手としている部分だ。
ソラはRVK-01を変形させながら、光子砲の狙いを定めた。
──二人の光線に合わせる。
右の砲門は、レオンの射線の先に。左の砲門は、クラウスの射線の先に。その少し先にある、正立方体を捉えるイメージで。
ソラは引き金を引いた。
狙いすましたソラの光線が、二人の撃った光線と交差した。
わずかに角度を変えた光線が、それぞれ別の正立方体を捉えた。
【レオン:な! そんなんで当てるなんて、バケモンか!】
【クラウス:頼もしいねえ! そうだろ、姫!】
正立方体の面は一瞬赤熱するも、それだけだ。
二機の光線では、正立方体は破壊できない。
ソラは、塗装の焼け焦げた機体を見た。鮮やかな真紅は、そこにはなかった。
「小官はここまでできるようになったぞ! 姫っ!」
光子砲を乱射していた機体が、止まった。
エンジンまで、止まっていた。
エリスの微かな重力に引かれ、落ちていく。
【……】
不格好な形で落下するRVK-01が、飛行形態へ変形した。
機首が真上を向いた。
四基のエンジンに、再び火が入った。
イオンエンジンが、エリスの地表を焼く。爆炎が広がった。
花のようだ。そう思った。
【アウレリア:……名前で呼べと、言っている!】
怒号と共に、機体が再び宇宙空間に舞い上がった。
その翼は、どこか輝いて見えた。
* * *
登場人物
ソラ(AH-JP502)・訓練兵
リエン(AH-JP618)・訓練兵
オリヴィア(AH-UK404)・訓練兵
アウレリア(AH-DE503)・訓練兵
レオン(AH-DE511)・訓練兵
クラウス(AH-DE519)・訓練兵
マレク(AH-PL404)・訓練兵
モニカ(AH-PL509)・訓練兵
トマシュ(AH-PL602)・訓練兵




