1-7★偏向計画(下)
* 4日19時間27分 *
RVK-01が、四本の青白い光の尾を靡かせて飛んだ。
向かうのはエリス防衛基地。対空砲火をしてはいるが、砲台は次々と正立方体に押し潰されていた。
跳躍と落下を繰り返す正立方体は、まるで人類を嘲笑っているかのようだ。
「やめろぉっ!」
アウレリアは引き金を引いた。
両翼の収束光子砲は、正立方体の動きを捉えきれない。三角錐の直線的な動きと違い、正立方体は自由気ままに動いている。
──速い。だが、最高速までの時間は遅い。跳躍頂点は十分狙いる速度だ。
「地球防衛軍統合戦略AI! 本機火器管制補助機能、切断!」
【カーツェナルプ:超高速時の火器管制補助機能の切断は、宇宙防衛法第七条──】
「いいから切断!」
【カーツェナルプ:火器管制補助機能、切断します】
【レオン:おいおい、お姫様? 何を──】
【クラウス:ますます当たらなくなるぞ!】
アウレリアは、操縦桿を小刻みに動かした。
機首光子弾頭を数発撃つ。その軌跡を脳裏に焼き付け、さらに、照準を少し外して光子砲を放った。
正立方体をかすめた。光が弾けた。
【クラウス:当たったぁ?】
【レオン:なんでだよ!】
──ずれる。そして、やはり硬い。単機射撃では無理だ。
「カーツェナルプ! 概算でいい! 《リーゼ》の重力算出急げ! 射線が安定しない! 同時に、僚機の射線を私に合わせるようにシステム修正!」
【カーツェナルプ:了解しました】
収束光子は当たるも、正立方体の破壊には至らない。
アウレリアは、真紅の機体を変形させた。
レオンとクラウスも、続いてRVK-01を変形させる。
人型に近い機体形態。
エンジンノズルが分散するため、推力は落ちる。その代わり、射角は自由になった。
「各自、自由に狙え!」
【レオン:お姫様ぁ?】
【クラウス:お、ぉう?】
アウレリアの指示に、レオンとクラウスは意図を理解できぬまま従った。
だが、二人の収束光子砲は当たらない。
──当たらなくていい。今は少しでもデータを!
【カーツェナルプ:偏向計画、第二段階に移行。相対速度、最終合わせ開始】
戦略図が更新された。
エリス防衛基地のミサイル発射口が表示された。
基地が震えた。
ミサイル発射口が開き始めた。
正立方体が、ミサイル発射口を脅威と判定したのかわからない。破壊のために、一際高く跳ねた。
「狙え!」
【了解!】
アウレリアの光線は外れたが、レオンとクラウスの光線は正立方体を捉えた。
【レオン:当たった!】
【クラウス:だが硬い!】
正立方体の表面で、光線が弾かれていた。
エリスの表面で、正立方体が跳ね回っていた。
ミサイル発射口が、次々と潰されていく。迎撃システムは、ほぼ無力だった。
【レオン:不味い。落とされる速度が速い!】
【クラウス:基地が持たないぞ!】
【カーツェナルプ:射線軸誤差修正。僚機の偏差修正。同期確認。パターン解析完了。予測値向上】
「よし! 本機火器管制補助機能、起動! レオン! クラウス! 私に合わせろ!」
【了解!】
三機の収束光子砲が光った。
六本の光線は、正立方体の同一点へ集中した。
赤熱した正立方体に、ヒビが入った。
爆発はなかった。
ただ静かに、正立方体は砂のように宇宙空間に散った。
「まずひとつ! 続けて落とすぞ!」
【了解!】
【カーツェナルプ:三角錐の発射を確認──】
そこからは、よく覚えていない。
流星のように走る三角錐の軌道は、スローモーションに見えた。
落下予測地点は、分かっていた。
反射的に見たエリス防衛基地。
司令室の展望デッキ。
そこに、沢山の人影が見えた。
皆、それぞれの国の敬礼を捧げていた。
レーヴェンハルト大佐は笑顔だった。
『よくできた。合格だ!』
そう、言われた。
聞こえるはずのない声が、聞こえた。確かに聞こえた。
白い閃光。
巻き起こるプラズマの嵐。
蒸発した。
エリス防衛基地は、その役割を終えた。
【カーツェナルプ:偏向計画、最終段階。核ミサイル、全弾点火】
「う、ぁああああ!!」
アウレリアは、叫んだ。
旧時代の核ミサイル。約一万二千発。
基地のミサイル発射口は、そんなにはない。
戦略図が更新された。
《7/Iリーゼ》からは死角となる、準惑星エリスの地球側の宙域。
約二ヶ月かけ慎重に敷設されていた核ミサイルに、火が入った。
核ミサイルを示す光点が、全て《リーゼ》に向かう。
エリス防衛基地すらも囮につかう、レーヴェンハルト大佐の作戦だった。
* * *
登場人物
アウレリア(AH-DE503)・訓練兵
レオン(AH-DE511)・訓練兵
クラウス(AH-DE519)・訓練兵
レーヴェンハルト・大佐




