1-6★偏向計画(上)
* 4日20時間 *
RVK-01訓練小隊は、最高速度を出していた。
0.05c。それが人類の限界だ。
──もっと早く、もっと早く!
地球防衛軍統合戦略AIからの情報では、既に計画は発動していた。
【カーツェナルプ:前十一・上六十、0.1cで飛翔する物体を確認】
【マレク:何だ?】
【クラウス:正立方体か?】
【リエン:違います! セドナ基地を破壊した、三角錐です!】
「まさか、ゴンゴン基地を狙っているのか?」
【オリヴィア:全機、私に続け! アレを落とす!】
【全員:了解!】
オリヴィアの即断に、全員が従った。
鋭い弧を描き、九機のRVK-01が距離を詰めた。
互いに超高速。会敵は一度きり。
【オリヴィア:全機、収束光子砲、撃て!】
機体の両翼──砲門から青い光線が放たれた。
【カーツェナルプ:全弾命中】
最大戦速で航行しながらの精密射撃。それでも、十八本の光線は三角錐を正確に捉えた。
訓練の成果だった。
けれど三角錐は、小隊を嘲笑うかのように、無傷で通り過ぎた。
戦略図を見れば、三角錐はすでにRVK-01の索敵範囲外に出ていた。
【レオン:駄目だ、硬い!】
【モニカ:密度か、硬度か? どうするの?】
【オリヴィア:全機、進路をエリスへ!】
【リエン:でも!】
【アウレリア:もう遅い! 追いつけない!】
【オリヴィア:全機、編隊そのまま! エリスに行くぞ!】
【全員:了解!】
ゴンゴン基地は、工廠を兼ねている。
人員は多い。
事前に退避命令が出されている可能性はない。RVK-01訓練小隊が帰投する予定だったからだ。
──くそっ、くそっ。
ソラはスクリーンの戦略図を見ながら、歯噛みをした。
無数の光点が、《7/Iリーゼ》へ向けて伸びていた。
FK-14三個中隊から《リーゼ》に、核ミサイルが発射されていた。
* 4日19時間44分 *
【トマシュ:第一波が始まったね】
【マレク:効果は……】
【レオン:駄目か……】
戦略図では、核ミサイルを示す光点は《リーゼ》に着弾したが、軌道に変化はなかった。
RVK-01は最大戦速時でも、揺れは少ない。
ソラは静かな操縦席で、考えていた。
──おかしい。
「カーツェナルプ。エリス防衛基地は、まだ健在なんだな?」
【カーツェナルプ:健在。通信しますか?】
「いい」
【リエン:ソラ?】
「三角錐が、エリス基地を攻撃しないのはおかしい。なぜ、遠くのゴンゴン基地を狙う? 小官なら、同時に破壊する」
【クラウス:さらに言えば、セドナと同時でもよかったはずだ】
【マレク:三角錐は、撃つのに時間がかかる? あるいは同時に撃てない?】
【カーツェナルプ:ゴンゴン基地との交信途絶を確認】
【トマシュ:許してくれ、ゴンゴン基地の人々よ】
【アウレリア:せめてエリス基地だけでも守るわよ!】
【レオン:お姫様の仰せのままに】
まるで姫に仕える騎士のようなレオンの言い様に、皆が笑ったような気がした。
【オリヴィア:現着時の行動を確認する】
戦略図に、オリヴィアからの指示が飛んだ。
偏向計画は着実に進んでいた。
【オリヴィア:マレク隊は、囮役のFK-14の後退援護を。光子砲が効かなければ、正立方体との交戦は極力避けろ】
【マレク:了解】
戦略図の、FK-14を示す光点がひとつ、消えた。
【オリヴィア:アウレリア隊は、エリス基地の防衛。本命の核ミサイル発射まで持たせろ】
【アウレリア:了解】
【オリヴィア:我々は、《リーゼ》への直接攻撃を試みる。本命発射後は、着弾までエスコートだ。柔軟に動き回るぞ】
【リエン:了解】
「了解」
FK-14を示す光点が、またひとつ消えた。
それはまるで、命のカウントダウンのようだった。
* 4日19時間31分 *
RVK-01訓練小隊の前には、準惑星エリス。
そして、その向こう。水晶のように美しい構造物を生やした、巨大な岩石が超高速で移動していた。
「この距離でも細部までハッキリ分かるほど、大きいな」
【モニカ:トマシュ。見えた! とか言わないの?】
【トマシュ:ずっと見えてたのに、何を今更】
【オリヴィア:各編隊、作戦行動開始!】
【全員:了解!】
小隊は隊列を解いた。
漆黒の機体を二つ引き連れ、赤い機体がエリス防衛基地へと向かう。
残りの六機は、《リーゼ》へと突き進む。
ソラは戦略図を見た。
FK-14の数は、残り二十機を切っていた。
【オリヴィア:こちらはRVK-01訓練小隊。ここは我々が引き受ける。FK-14隊は戦線を離脱せよ】
【FK-14操縦士:断る】
【マレク:なっ!?】
宙域を、無数の正立方体とFK-14が飛び交っている。迂闊には撃てなかった。
【FK-14操縦士:我々は任務を遂行する】
【FK-14操縦士:君たちこそ、なぜここにいる!】
【オリヴィア:分かっているのか? あなた達は、囮なんだぞ!】
【FK-14操縦士:分かっている。分かっているからこそ──】
光点がまたひとつ、消えた。
「くそっ。なぜ命を粗末にする! あなた達は、ただの人間だろう!」
ソラの叫び虚しく、視界が閃光に包まれた。
光点がまたひとつ、またひとつ。戦略図から消えていく。
【オリヴィア:マレク隊。編隊を維持したまま、正立方体に積極的に仕掛けろ! FK-14から引き離せ! 間違っても味方に当てるな! 訓練の成果を見せろ!】
【マレク:了解! 行くぞ!】
【モニカ:了解!】
【トマシュ:了解!】
【オリヴィア:我々は本体を叩く! こちらに注意が向けば良し! 来なければ正立方体に仕掛けるぞ!】
【リエン:了解!】
「了解!」
正立方体がまたひとつ、FK-14を砕いた。
白い閃光が、暗闇を静かに照らした。
* * *
登場人物
ソラ(AH-JP502)・訓練兵
リエン(AH-JP618)・訓練兵
オリヴィア(AH-UK404)・訓練兵
アウレリア(AH-DE503)・訓練兵
レオン(AH-DE511)・訓練兵
クラウス(AH-DE519)・訓練兵
マレク(AH-PL404)・訓練兵
モニカ(AH-PL509)・訓練兵
トマシュ(AH-PL602)・訓練兵




